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文明と文化
 「定款を変更してほしい」という依頼を受けました。役員変更、署名権変更、社名変更、増資、社判変更、住所変更、事業目的変更、株主変更の8項目で、お客さんにとっては、これらすべてをひっくるめて「定款変更」なわけですが、「定款」といっても、日本における定款とタイにおける定款は、そっくり重なっているわけではないので、少しこんがらがってしまいました。
 「定款」という語句は、ウィキペディアには、

定款(ていかん)とは、社団法人(会社・公益法人・協同組合等)および財団法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについての基本規則そのもの(実質的意義の定款)、およびその内容を紙や電子媒体に記録したもの(形式的意義の定款)である。

と書かれています。ブリタニカ国際大百科事典には、

会社、公益法人、社団法人の組織,活動を定めた根本規則またはこれを記載した書面。会社をはじめ、各種社団法人を設立するときは必ず作成しなければならない(→設立)。定款には法人の目的、名称、社員、機関、資産に関する事項など法定の組織に関する基本事項を記載することが必要で、その一つでも欠けたり違法である場合には定款が無効となる事項(絶対的記載事項)と、それを定めるか否かは法人の自由で、その欠如が定款を無効にすることはないが,定款に記載されていない場合には効力を生じない事項(相対的記載事項)がある。そのほか、法令、公序良俗、法人の本質に反しないかぎり定款に定めることができる事項(任意的記載事項)がある。

と書かれています。定款とはなんぞや?とタイ人弁護士に問いかけると、返ってくる回答は上記と似たり寄ったりでしょうが、タイにおける「定款」という書類に書かれてある事項は、

①会社名
②所在県
③事業目的
④株主の責任
⑤資本金
⑥発起人

以上の6項です。③の事業目的は、この「定款」に事業目的が書かれているのではなく、ここでは「様式Vに書かれてあるとおりの・・項」としか書かれていません。「所在地」ではなく「所在県」と書いたのは意味があって、「定款」に定められるのは県であって、所在地ではありません。つまり、住所が変わるからといっても同じ県内での移動であれば、定款変更にはならないということです。違う県に引っ越ししなければ、定款変更にはなりません。
 もう1つ「設立登記事項」という書類があって、設立時の内容を記入するものです。これは、

①発行済株数
②普通株数と優先株数
③株種別ごとの払込済額
④払込済総額
⑤役員
⑥署名権
⑦会社の期限
⑧会社事務所数と所在地
⑨その他の事項
⑩社判
⑪会社規約の有無

以上の11項で構成されています。これを付属定款と呼んでいいのかどうかはわかりませんが、役員変更、署名権変更、社名変更、増資、社判変更、住所変更、事業目的変更、株主変更を全く同時にやろうとすると、どこをどう変更すればいいか、少しこんがらがってしまいました。
 会社を移転させる場合、同じ県内であれば、定款は変更せず、登記事項のみを変更します。違う県であれば、両方とも変更します。増資は、資本金が増えるのですから、定款を変更しないといけませんし、株数、払込額も増えるのですから、設立登記事項も変更しないといけません。社名変更は定款のみの変更で登記事項の変更にはあたりません。社判変更、役員変更、署名権変更は、定款は変更しなくてもいいのですが、登記事項を変更しないといけません。事業目的変更は、定款には「様式Vに書かれてあるとおりの・・項」としか書かれていませんので、その「・・項」の項目数を変更し、さらに「様式V」を変更します。お客さんにとっては、これらすべてが「定款」であり、「こういう具合に定款を変更したい」の一言ですが、すべての事項が「定款」の1つにまとめられているわけではないので、どういうぐあいに変更したいのかは理解できても、その理解がそのまま正しく書類が作れるということにはつながりません。これだけの作業を一度に、ということになると、この部分がややこしかったです。
 毎回、自分では、きちんと書類は整っている、間違いない、と自信を持って従業員に書類を預けても、やっぱり当日になると、少しドキドキします。うまくいかないと、お客さんに迷惑かけて申し訳ない、というよりは、うまくできなかった自分に腹が立ってきます。今回も、何回も書類を見直し、これで大丈夫、と自信を持って従業員に書類を預けるものの、やっぱりこれだけの作業を1度に、ということになると、どこかに見落とし、手落ちがあるんじゃないかと少しドキドキしました。朝9時、従業員から電話が入る、「お客さんの会社に着きました」、9時半「今、お客さんの署名が終わりました、確認しましたが漏れはありません、これから銀行に行きます」、11時「今、増資用の残高証明書がもらえました、これから商務省に行きます」、12時「午前の整理券には間に合いましたが、昼ご飯の時間になりました」、14時半「終わりました!あとは謄本を待つだけです」、ふ~、ほっとしましたよ。
 司馬遼太郎の著書に「アメリカ素描」というのがあるのですが、文明とは合理的で斉一性があるもの(どの民族にも通用する)、文化とは非合理的で斉一性がないもの(特定の民族でしか通用しない)、というようなことを書いていたと記憶しています。
 文明と文化、全く相反する定義付けになっていますが、相反するというわけではなく、文明という枠組みの中で文化が動く、こういうものだと思います。定款を定める、これは文明です。しかし、何をどう定めるのか、これは文化です。「定款」とは何か、会社にとってどのような意味を持っているものなのか、その定義に対する理解は日本人もタイ人も同じかもしれません。しかし「定款」には何が定められているのか、その理解にはズレがあるでしょう。たとえば、取引先の事業内容を確認したくて「定款のコピーをください」と言ったとします。そして取引先は「定款」のコピーを渡したとします。しかしその「定款」には、「事業目的は様式Vに書かれてあるとおりの・・項である」としか書かれていないのですから、「定款を見れば事業目的がわかる」と思っていた日本人にしてみれば、あれ?と思うことでしょう。
 文明と文化、私はハードウェアとソフトウェアのようなものだと思っています。ハードウェアは世界共通であり、日本のパソコンとタイのパソコンでパーツに違いがあるわけではありません。しかし、パーツには性能があります。ソフトウェアを動かすには動作環境があり、CPU、マザーボード、メモリ、ハードディスクなどのパーツの性能が基準を下回っていればソフトウェアは動きません。いいものだからといって、即通用するわけではないのが「動作環境」です。
 現在のタイは、いまだに軍事政権ですが、軍事政権になる前に起こったデモを主導したステープの言葉なんて、まさにこの「動作環境」を示していると思います。「多数決で決めれば多数派が勝つに決まっているじゃないか」「選挙をやればタクシン派が勝つに決まっているじゃないか」、この言葉だけを見れば無茶苦茶で、日本のメディアも「正当な選挙で選ばれた首相を強引に退陣させ、さらに勝てる見込みがないからといって総選挙を妨害する、民主主義に反する、けしからん」と非難しまくりでしたが、先進国の目で発展途上国を見てはいけないと思います。ステープが言っていたのは、まともな選挙管理法がないままで選挙をやれば、金を持っている者が金で票を買って選挙に勝ってしまう、票を金で買う、金がある者が勝つ、それが正しい選挙なのか、それで、自分は正当な選挙で選ばれたのだから、と身内にだけ都合がいい法律を作っていいのか、それが正しい民主主義なのか、ということで、いわば、今のハードウェアでは、ソフトウェアは正しく動かない、先にハードウェアの性能を上げなければ(まともな選挙管理法を制定しなければ)、ソフトウェアは正しく動かない(真の民主主義が実現できない)、ということです。民主主義はいい統治システムですが、民主主義というソフトウェアが正しく作動するには、法整備というハードウェアが必要です。「民主主義」と一言で言っても、歴史、民族、国民の意識等でどこの国も全く同じというわけではありません。たとえば、日本は議院内閣制ですが、アメリカは大統領制です。同じ民主主義といっても、形態が異なっており、日本における民主主義はアメリカでは通用しませんし、アメリカにおける民主主義も日本では通用しないでしょう。「民主主義を動かす法整備」、これは「文明とは合理的で斉一性があるもの」(どの国でも通用する)であり、「日本は議院内閣制、アメリカは大統領制」、これは「文化とは非合理的で斉一性がないもの(特定の国でしか通用しない)」であり、全く共通した「文明」という枠組みの中でその民族に適した「文化」が発展していくものだと思います。
 ハードウェアの性能が悪ければ、ソフトウェアは正しく動きません。文明と文化は、セットになって発展していくものだと思います。

技術力と「進んでいる」は別問題
 私が会社を設立したのは2004年9月ですが、この13年間で大きく変わりました。
 会社を設立すると、毎月税申告、納税をしなくてはいけなくなりますが、設立当初は、申告書に手書きで記入し、窓口に行って納めていましたが、今ではネット申告、ネットバンキングで可能です。銀行側もそれに対応しています。
 毎月申告、納税しないといけないのは、従業員給与の源泉税、業者などへの支払いの際の源泉税、VATなどですが、ネットでの申告は、まず、国税局が配布しているソフトをダウンロードします。日ごろの管理を市販のソフトでやっている場合は、データを申告用プログラムに変換するソフトも配布されていますので、そっちをダウンロードします。いずれにせよ、国税局からソフトをダウンロードします。
 まずは、従業員給与源泉税申告用のソフトウェアに必要事項を入力し、データを保存します。保存されたファイルの形式はメモ帳で、これを開いたところでわけがわからないデータが並んでいるだけです。次に国税局の申告サイトにアクセスします。先に利用登録を申請し、IDとパスワードをもらわないとダメなのですが、サイトに入ると、会社のデータが表示されています。「ファイルのアップロード」というボタンがあり、先にメモ帳で保存したファイルをアップロードすると、自動的にフォームに置き換えられ、きれいにリスト化された形で表示されます。VATは、数字だけの入力で単純なためか、このようなプログラムは必要なく、申告画面にダイレクトに入力します。
 最後に納税方法を選択しますが、ネットバンキング、モバイルバンキングを選択すると、「Pay-In Slip」という画面になりますので、それをプリントアウトします。このPay-In Slipに納税額、受理番号、管理番号等が書かれているのですが、バーコードもついています。バーコード対応のスマホであれば、バーコードを読み取らすだけで納税できます。ネットバンキングでなくても、プリントアウトしたPay-In Slipをコンビニに持って行って支払うこともできます。私は日本のことはよくわかりませんが、日本では、こんなこと、できないですよね?
 先日、ネットニュースを見ていると「日本はモバイル決済後進国」なんてコラムがありました。昨年赴任してきた大手IT企業のお客さんも「タイは日本よりも進んでいるところがあるのでびっくりしましたよ」なんて言ってました。電子マネーも使えて便利じゃないか、進んでいるじゃないか、と思うかもしれませんが、諸外国と比べると、確かに日本はこの方面では遅れていると思います。
 私が最初にタイに住んでいたのは1992年4月から1995年9月までなのですが、その当時ですでにその辺のスーパーでもクレジットカードが使えていました。日本も今ではほとんどのスーパーでクレジットカードが使えますが、少なくとも1995年の時点では、クレジットカードが使えるスーパーなんて、あまりなかったと思います。多額の現金を持っていると危ない治安状況がクレジットカード普及を進めた要因なのかな、と当時は思ったものですが、真偽のほどはわかりません。わかりませんが、日本ではまだその辺では使えなかったクレジットカードがタイではすでにその辺で使えていたというのは事実です。
 なぜ、日本よりもずっと遅れているはずのタイが、こういう部分では進んでいるのか?何でもそうですが、それを利用する消費者の意識が低ければ普及しませんし、高ければ普及するでしょうから、国民の意識が大きく関係しているのかもしれません。
 タイはレコードがないというのが象徴的な事例かもしれませんが、日本は、レコード、カセットテープ、CD、こういう正統な文明、発展の段階を踏んできましたが、発展途上国のタイは、そういう段階は踏まずにカセットテープからスタートしました。すべてのことにおいて遅れているだけに、いきなり新しいものからスタートしたという経緯があるからか、新しいものだからいいものに決まっているとばかりに積極的に取り入れようとしてきたところがあるのかもしれません。
 新しいものは、こりゃ便利だ、と積極的に取り入れようとする人もいれば、今のままでいいじゃないか、と取り入れようとしない人もいるもので、便利なものであることは一通り理解できても、これまでの馴れ親しんだやり方のほうが簡単だから、ということで、なかなか新しいものを取り入れようとしない人も結構いるものです。そういう意識の人ばかりだったら、便利なものでも普及することはないでしょう。
 タイではその辺のスーパーでクレジットカードが使え、国民は日常的にクレジットカードで食料品、日用品を買っていたときにも、日本では、実際に私の周辺には「自分は現金主義だから」とクレジットカードを使おうとしない人も結構いました。必要な分だけキャッシュカードで銀行からおろし、それで支払う、それいいじゃないか、クレジットカードなんて必要ない、そういう意識の国民ばかりだったら、クレジットカードなんて普及しないでしょう。
 また、スマホも、タイ人のほうがよっぽど賢い使い方をしていると思います。スマホを携帯電話と同じ使い方しかしていない日本人も結構いると思うのですが、スマホの機能を研究すれば、仕事でも、プライベートでも、随分便利になるものです。また、クラウドがいかに便利なものであるのかなんて、今更言うまでもないことだと思うのですが、いまだにクラウドを使っていない日本人も結構いるようで、なぜ、使おうとしないのか、理解に苦しむところです。
 技術の進歩と普及は別問題です。タイで導入されている税申告システム、納税システムぐらい、日本の技術力でできないなんてわけないと思うのですが、いくら技術力があっても、普及していなければ「遅れている」とされるわけで、「進んでいる」「遅れている」なんてのは、結局のところ、国民の意識の問題なのでしょう。

略称、タイトルの意味を確認する
 BOIの認可を受けた企業に限り、「Digital Work Permit」というのが発給され始めました。通常の冊子の労働許可証ではなく、スマホにインストールしたアプリケーションで開く「Digital」の労働許可証です。
 通常の就労許可申請のステップは、

①会社がBOIに申請
②BOIが審査、許可
③就労者本人がワンストップサービスに出頭
④労働局窓口で書類を提出し、手数料を払い、労働許可証の取得
⑤入管窓口で書類を提出し、手数料を支払い、ビザの延長

こういう流れなのですが、Digital Work Permit は、

①会社がBOIに申請
②BOIが審査、許可
③ワンストップサービス出頭日時を予約
④就労者本人がワンストップサービスに出頭
⑤労働局窓口で手数料を払い、写真撮影とデジタル署名
⑥入管窓口で手数料を払い、ビザ延長

 こういう流れで、すべてが終わったあとに就労者本人のメールアドレスに送られてきたユーザーIDとパスワードでログインすると、「Digital Work Permit」を開くことができます。
 以前、BOIへの申請は紙ベースでしたが、数年前からウェブ申請に切り替わり、現在は、まず、e-expertシステムに登録し、送られてくるパスワード(ユーザーIDは会社登記番号)で http://e-expert.boi.go.th にログインして手続きをするのですが、Digital Work Permit は、http://swe-expert.boi.go.th という別のアドレスにログインして手続きをします。この一連の刷新を「Single Window for Visa & Workpermit Project」と名付けているようで、アドレスの「sw」は「Single Window」ということです。
 今のところ、手数料は当日の窓口払いですが、近いうちにオンラインペイメント、銀行振込も可能になるようです。
 これまでは、当日ワンストップサービスに行ってから整理券をもらっていましたので、人が多いときには1日がかりの作業でした。必ずと言っていいほど聞かれるのが「どのくらい時間がかかりますか」「午前中で終わりますか」なのですが、その日の混み具合によりけりなのですから、行ってみないと何とも言えないんですよね。だいたい平均的には、朝9時に行くと、すべてが終わるのが14時ぐらいで、午前中ですべてが終わったことも何度かありますが、ごく稀です。また、1日で終わらなかったことも、かつて2回ありましたが、「Single Window」は、あらかじめ出頭日時を予約して行きますので、これまでのように1日がかりとはなりません。また、ペーパーレス化もこのプロジェクトの目的の1つのようで、BOI、入管、労働局とで情報を共有することにより、これまでのような書類も必要ないということです。
 ただし、これは強制ではありません。紙ベースからウェブ申請になったときは、紙ベースは廃止され、ウェブ申請に一本化され、労働許可証を申請しようとする限り、e-Expertシステムへの登録は強制事項となったのですが、「Single Window」は推奨であり、強制ではありません。当日の時間はかかっても、従来どおりの手続きで申請してもかまいません。
 「Digital Work Permit」、「Single Window for Visa & Workpermit Project」--- たぶん、今後「Digital Work Permit」は「DWP」、「Single Window for Visa & Workpermit Project」は「SWP」という略称で呼ばれることでしょう。そうすると、予想されるのが、従来の手続きでちゃんと労働許可証を持っているにもかかわらず、「BOI企業はDWPを取らなきゃいけないと聞いた」とか、「BOI企業はSWPを取らないといけないと言われた」とか、そういう誤解です。
 「Single Window for Visa & Workpermit Project」とは、3つの機関(BOI、労働局、入管)で情報を共有して書類をなくし、労働許可証発給手続き、ビザ延長手続きをスムーズに行い、ワンストップサービスの現在の混雑した状態を改善するがための改革をいい、「Project」とあるとおり、刷新プロジェクトの名称です。「Digital Work Permit」とは、これまでの物理的にあった冊子の労働許可証がデジタル化したものにすぎず、労働許可証本体です。仮に今後、「Single Window for Visa & Workpermit Project」は「SWP」「Digital Work Permit」は「DWP」という略称で呼ばれたとすると、「SWP」の「WP」を「Work Permit」であると誤解し、「SWP」と「DWP」がごっちゃになり、「SWPを申請する」とか、「SWPを取得する」とか、そういうとんちんかんな表現が使われるようになり、ついには、BOI企業はSWPとDWP、どっちを申請すればいいのか、両方申請しないといけないのか、どっちかを取っていればいいのか、とか、そういう質問が来そうな予感がします。「SWPを申請する」「SWPを取得する」ではなく、「SWPによるシステムで申請し、DWPを取得する」これが正しい表現です。
 私たちコンサルタントは、お客さんがそういう誤解をしないように配慮して説明しないといけませんが、同時にお客さんのほうも、何の略称なのか、なぜそういうタイトルなのかを考えないといけないと思います。いくら周りが「SWP」とか「DWP」とかの略称を連発しても、自分で何の略称なのかを確認し、なぜそういう名称なのかを理解していれば、振り回されることはないと思います。「SWP」とは何か、「Single Window for Visa & Workpermit Project」、つまり「ビザ、労働許可証のための1つの窓プロジェクト」、では、なぜこういう名称なのか、「1つの窓」とはどういうことなのか。ようするに、BOIに申請すれば、労働局、入管とで情報が共有され、それぞれに必要だった書類がいらなくなった、窓口はBOIのみでよくなった、だから「1つの窓」ということです。
 どんなことでも、タイトルが内容と全く無関係なんてことはありえず、その内容を一語で表すとすれば、どのような語句が適切なのか、その内容を象徴する語句は何なのか、それを考えてつけられているのは当たり前で、略称のフル表記とあわせて、なぜ、そういうタイトルがつけられたのかを確認することが大事ではないかと思います。

2つのマルチプル
 ビザにはシングルとマルチプルがあります(ビザの種類、発給場所によってはダブル、トリプルというのもありますが)。1回のみ使用可能なのがシングル、何回でも使用可能なのがマルチプルです。
 タイで働くには、まず、タイ大使館(領事館)でNon-Immigrant(B)を申請し、それからタイに入国して、労働許可証を申請するわけですが、最初にNon-Immigrant(B)を申請するとき、マルチプルが便利だと聞いたことで、在京タイ大使館、あるいは在大阪タイ総領事館にNon-Immigrant(B)マルチプルを申請するも、タイでマルチプルにできます、と言われ、発給はシングル、それで「マルチプルに切り替えたいんですけど」と言われるケースがたまにあります。
 「マルチプル」というのは、「多数」「多様」なんて辞書に書かれていますが、ビザでいえば「滞在期限内で何回でも出入国が可能」という意味のマルチプルと「1年間何回でも使える」という意味のマルチプルがあり、「Non-Immigrant(B)マルチプル」といっても、この2つは性質が全く異なっていることをきちんと理解しておかないといけません。ビザというのは、タイにいてもいいかどうかを決める要因になっているもので、これがなければ営業も会社経営もへったくれもないのですから、会社も本人も、ビザというものをよく理解しておかないといけないでしょう。
①滞在期限内で何回でも出入国が可能
 Non-Immigrant(B)シングルの使用期限(有効期限)は3ヵ月です。たとえば、10月1日に発給されたとすると、そのビザの使用期限(有効期限)は12月31日までとなります。この間に入国すれば、入国日から90日間の滞在が許可されます。たとえば、11月1日に入国したとすると、滞在期限は翌年1月29日までとなります。
 しかしそのままの状態でタイを出国し、再入国すると、たとえば、12月1日に一時帰国し、12月10日にタイに戻ってきたとすると、12月10日に再入国したときにはノービザとなり、滞在許可は30日間、つまり、滞在期限は1月29日までではなく、1月8日までとなります。
 Non-Immigrant(B)シングルは、1回のみ使用可能なのですから、11月1日で使用したことにより、もはや使用することはできません。11月1日で使用し、翌年1月29日までの滞在許可をもらったはいいが、そのままの状態で出国すれば、以降の滞在期限は無効になります。これを有効のままにしておくのが「再入国ビザ」(リエントリービザ)で、12月1日に出国する前に入管で再入国ビザの手続きをしていれば(当日空港でも可能です)、12月10日に入国したとき、1月29日までが期限のその再入国ビザが使えますので、滞在期限は1月29日までとなります。
 この再入国ビザにも、1回のみ使用可能なシングルと、何回でも使用可能なマルチプルがあるのですが、シングルの場合、12月10日に再入国した際には、1月29日までの許可はもらえますが、1回のみ使用可能なのですから、12月10日で使用してしまったことで、以降使うことはできません。つまり、12月10日再入国し、1月29日までの許可はもらっても、この間に再度一時帰国すれば、次にタイに入国したときにはノービザとなってしまいます。ですから、失効させないためには、再度再入国ビザの手続きをしないといけません。一方、マルチプルは何回でも使用可能なので、1月29日までは自由に日本とタイを行き来することができます。
 ようするに、「滞在期限内で何回でも出入国が可能」という「マルチプル」というのは、1度滞在許可をもらい、その期限までは自由に出入りできるという、すなわち、再入国ビザのマルチプルということです。
 通常はNon-Immigrant(B)シングルを取得し、それからタイに入国し、タイ国内で入管にそのNon-Immigrant(B)の延長を申請します。Non-Immigrant(B)で入国した場合、滞在期間は90日ですから、それ以上の滞在になるのであれば、入管に延長を申請しないといけません。よく「Non-Immigrant(B)から1年ビザへの切り替え」という言い方をされるのですが、「切り替え」ではありません。「延長」です。90日間であるはずのNon-Immigrant(B)を1年間延長しているんです。何年タイにいたとしても、最初に取得したNon-Immigrant(B)の延長を繰り返しているだけです。
 延長を申請すると、通常、何も問題がなければ1年間、許可されますが、これは元のNon-Immigrant(B)をさらに1年間、延長しているだけで、新たなビザの「取り直し」ではありません。たとえば、私の滞在期限は毎年10月25日までなのですが、最初に入国したときのNon-Immigrant(B)の滞在期限が10月25日までだったので、何年タイにいようが滞在期限は毎年必然的に10月25日までとなります。
 延長申請を出し、来年10月25日まで新たに延長許可をもらったとしても、延長が許可された段階では、まだ「シングル」の状態です。たとえば、12月1日にタイを出て、12月10日にタイに戻ってきたとします。このとき、先の再入国の手続きを取っておかずに出国すれば、その時点でノービザとなり、以降の滞在許可が無効になってしまいます。つまり、12月10日にタイに戻ってきたとき、本来の10月25日までではなく、1月8日まで(30日間)のノービザ滞在になってしまうということです。ですから、何度出入国を繰り返しても、10月25日までの滞在許可が無効にならない手続きをしておかなくてはならず、これが「再入国ビザのマルチプル」です。
②1年間何回でも使える
 これは「Non-Immigrant(B)」というビザが何回でも使えるというもので、許可された滞在期限の間で何回でも出入国できるという①とは根本的に違っています。Non-Immigrant(B)シングルの使用期限(有効期限)は3ヵ月ですが、Non-Immigrant(B)マルチプルの使用期限(有効期限)は1年間です。たとえば、10月1日に発給されたとすると、使用期限(有効期限)は来年9月30日までです。1回の滞在期間は90日間ですが、来年9月30日まではこのビザを使うことができます。
 たとえば、11月1日に入国したとします。そうすると、滞在期限は来年1月29日までです。そして12月1日に出国し、12月10日に再入国したとします。そうすると、滞在期限は12月10日から新たに90日間、つまり、3月9日までとなります。一旦もらった滞在期限内で自由に出入国できるのとは違い、ビザそのものの有効期限内であれば自由に出入国でき、その都度、90日間の滞在許可がもらえるというものです。1回の入国で90日間の滞在許可がもらえるビザを何回も使っているのであり、延長しているのではありません。
 このタイプのビザが1度取れると、すごく楽になります。使用期限(有効期限)は1年間、1回の滞在期間は90日、つまり、1度取ると、90日ごとに出国しないといけないことになりはしますが、15ヵ月間はビザの心配が要らなくなるということです。
 たとえば、ビザの発給日が10月1日だったとします。そうすると、使用期限は来年9月30日までとなります。10月2日からタイに滞在し、90日ごとに出入国を繰り返し、来年9月30日前に出国し、9月30日ちょうどにタイに再入国すれば、その日まではそのビザが使えるのですから、9月30日からさらに90日間、最後の滞在許可がもらえます。ですから、合計すると、15ヵ月間、ビザが確保できているというわけです。
 タイ大使館(領事館)職員が「タイでマルチプルにできます」と言ってシングルを発給した場合、①のことを言っているのですが、①と②をよく理解していないと、話がかみ合わなくなってきます。
 ②のタイプのビザは、困ったとき、1度取れるとすごく助かる便利なものです。Non-Immigrant(B)をタイ国内で延長しようとすると、タイ人従業員が4人必要ですが、会社を立ち上げたばかりのころは、4人揃えるのが最初の滞在期限(90日間)に間に合わないこともあります。労働許可証は、4人いなくても発給してくれますので、とりあえずは労働許可証だけを取得し、一旦タイを出て、このNon-Immigrant(B)マルチプルに挑戦する、取れれば15ヵ月間はビザの心配が要りませんので、経営に専念できます。また、タイ国内でのNon-Immigrant(B)の延長には、たとえば、昨年度の売上が外国人に払う人件費以上であるとか、いろいろな規定があり、すべての規定がクリアできないこともあります。そういう場合、90日ごとに出国し、その都度、Non-Immigrant(B)を取り直せば何の問題もないのですが、いちいち取り直すのも面倒です。そんなとき、Non-Immigrant(B)マルチプルが取れれば、90日ごとに出国すればいいというだけで、いちいち取り直す必要はないので、随分、楽になることでしょう。90日ごとに出国するのも、たとえば、土曜日シンガポール、マレーシア、カンボジア、ベトナムなどに行き、1泊して日曜日に帰ってくればいいだけですから、全然面倒なことでもないでしょう。
 Non-Immigrant(B)マルチプルは、最近では、そう簡単には発給してくれなくなったみたいですが、困ったときには、トライしてみるのもいいでしょう。

続・略称、カタカナの意味を確認する
 どうも私は、略称とかカタカナ表記は嫌いですね。略称、カタカナの乱用が誤解を招いているケースが多いように思えます。
 つい最近では、CPDという会計の資格があると聞いた、従業員にそれを取らせたいと思っている、その資格を取るための学費は会社が負担し、資格を取ってから一定期間は辞めないという契約書を作成したい、その契約書を作ってほしい、と言ってきたお客さんがいました。
 「CPD」のフル表記は「Continuing Professional Development」といいます。「継続、専門職、発展」、何らかの資格を指している語句でないことは明白ですよね?これは、専門知識を必要とする職業を営む人を対象にした講習をいいます。
 通常、会社の会計業務を担当し、申告書等に署名ができる人は、大学、高等職業訓練学校などで経理を専攻し、会計士協会の会員として認定されている人でないとダメなのですが、1度会員になればいいというわけではなく、毎年12時間以上の講習を受けなくてはいけません。公認会計士であれば40時間以上です。受けなければ会員資格が失効します。そしてその講習を「CPD」といいます。わかりやすい例を挙げれば日本の教員免許で、日本の教員免許も更新講習を受けなければ失効しますよね?それと同じで、その職業能力を維持し、発展させていくがための講習を「CPD」といいます。
 税金などは、そのときの社会状況によって変動します。たとえば法人税は、私の会社は、今年(つまり昨年度の利益分の法人税)はなしです。詳しいことはともかくとして、これは「一冊の帳簿」に登録した中小企業に一時的に与えられた恩典です。税制は、本来はこうであるが、いつからいつまではこうする、という措置が取られることはよくあるのですが、そういうことをきちんと理解していないと正しい会計処理はできません。そのときの社会状況に合わせて講じられる措置にきちんと対応し、正しい会計処理をするには、定期的に知識を更新する必要があります。
 これは会計だけではありません。たとえば建築でも、同じように建築士を対象とした講習が定期的に設けられており、この講習もまた「CPD」と呼ばれています。安全基準、環境保護基準、制限区域などを正しく理解していないと正しい建築はできません。同じ県であっても、どこからどこまでの地域はこう、それ以外はこう、なんてのはよくある措置で、これもコロコロとまではいきませんが、比較的短い期間で変わる可能性があるものです。
 刑法、民商法なんてのは、そう簡単に変わるものではありませんが、社会情勢にあわせて比較的短い期間で変わる可能性がありながら専門知識を必要とする場合、定期的に講習を設け、強制的に受講させないと、古い規定のままで処理してしまうことでしょう。専門知識を必要とする職業は、誰にでもできるというわけではないのですから、それじゃ困るわけです。だから、こういう講習を義務付けているんです。こういう専門職を対象にした講習全般を「Continuing Professional Development」(CPD)といい、特定の職業を対象とした講習ではありません。
 ですから、どのような職業であれ、「CPDを持っている」「CPDを取る」というのは、全くずれた表現です。毎年講習を受けることが義務付けられた何らかの資格を取った状態、講習を受けることによってその資格を維持していくことのできる状態を、一般的には「CPDを持っている」と言うのかもしれませんが、こういう表現、私はむかっ腹が立ってきます。こんな言い方をすれば、知らない人は資格と勘違いして当たり前だと思います。
 誤解するほうが悪いのか、こういう表現を使うほうのが悪いのか、「誤解するほうが悪い」一理あるかもしれませんが、少なくとも私たちコンサルタントは「誤解するほうが悪い」なんて言ってはいけないと思います。お客さんにきちんと理解してもらう、それはコンサルタントという仕事の一部です。コンサルタントが最初から略称を連発したり、あるいは一般的にそういう表現が使われているからといって、正しくない表現を使うと、お客さんは誤解してしまいます。そのままずるずる時間が過ぎると、その誤解がトラブルを引き起こすことになるかもしれません。コンサルタントというのは、そういうことも計算に入れないといけないと思います。
 お客さんはタイのことがよくわからないのは当たり前です。タイに出てきたばかりのお客さんはもちろんですし、数年住んでいる人でも、部分的にはわかっていても、わからないことのほうが多いはずです。特に数年タイに住んでいる人は、タイ通という自負が出てきていて、勝手に意味を解釈し、思い込んでいることが多いですし、逆に、これだけタイに住んでいながらこんなこともわかっていないのかと思われるのは恥ずかしい、今更聞くに聞けない、という気持ちになっている人も多いですから、「こんなこと知っていて当然」とばかりに略称を連発したり、一般的にはこう言われているのだから、と正しくない表現を使うコンサルタントは、私は職業意識が低いと思います。
 私たちコンサルタントはそういう配慮が必要ですが、同時にお客さんのほうも、略称が出てきたら、必ずフル表記を確認すべきだと思います。フル表記を確認するだけでその後の理解は全然違ってくると思います。そして、略称を連発する人がいたら、試しにその人にその意味を聞いてみると面白いと思います。私はいつも、すみません、私、タイに長くて浦島太郎状態になっているところがあって、最近の言葉には疎くてよくわからないのですが、それ、どういう意味なんでしょうか、なんて尋ねているのですが、きちんとフル表記が言える人はほとんどいませんね。
 去年、お客さんから、現地採用で現地法人責任者を採用しようと思っているが、どの程度管理面の知識を持っているのかは自分らではわからないから、それを判断してほしい、と言われ、日本人の採用面接に立ち合いました。応募者は資本金200万バーツで会社を設立するも、うまくいかず、それで会社を閉めたらしいのですが、その会社での自分の役職を「CEO」と書いていました。そこで、履歴書にCEOと書いているが、なぜCEOと書いているのか?なぜManaging Directorではなく、CEOなのか?CEOとは何の略称なのか?CEOとManaging Directorの違いは何か?と質問すると、それが採用面接とどういう関係があるんでしょうか?などとぬかしやがったので、書く本人が略称の意味をきちんと理解していないままに安易に書くと誤解の元になることもある、どのような文書であれ、自分が書く限り、きちんと意味を理解した上で書くことは大事なことだと思う、特にタイだから、日本人同士だけでなく、タイ人との間にも誤解が生じる可能性がある、たまたまあなた自身が書いたこの履歴書にCEOという略称があったから、どれだけそういう癖がついているかの判断の参考に質問してみただけ、と言うと、やっぱり答えられませんでした。

法律違反と資産の安全
 先日、株主を変更したいが、株主がいなくなり、連絡がつかなくなった、勝手に変えても大丈夫だろうか、という相談を受けました。「株主が株を売りたい」ではなく、「株主を変更したい」、元来、株主の意思を無視し、会社の一存で自由に株を譲渡できるわけないのですが、名義借りであるため、こういうことになってしまいます。
 中小規模の販売業とか、サービス業とかは、BOIの認可対象になるわけでもなし、かといって、商務省商業振興局に外国人事業許可を申請しても許可されるわけでもなし、知り合いのタイ人とか、誰かに紹介してもらったタイ人に50%超を持ってもらうというケースが多いのが実情です。私はこんなことはしませんが、コンサルタントの中には、名義借りのタイ人を紹介しているところもあります。
 身元がはっきりしていて、いつでも連絡がつくタイ人であれば、まだいいのですが、中には「どこに住んでいるか、何をしているかなんて全然知らない」というケースもあります。設立当初はそのタイ人に持ってもらったはいいが、タイで事業をやっていくうちに、全く知らないタイ人に持ってもらっているのは不安、身元がはっきりしているタイ人に株を移したいが、元々どこの誰とも知らないし、紹介してくれた人もどこにいるかわからなくなったので連絡がつけられなくなった、実際にはお金は払っていないので、勝手に株を移しても大丈夫だとは思うが、念のために株を移すという了解だけは取っておきたい、本人に通知せずに株を移しても大丈夫だろうか、という相談はしょっちゅう、というほどではありませんが、たまに受けることがあります。
 株主が行方不明になった、居所がわからない、連絡がつかない、という場合、法的には以下の手続きを踏むことになります。
①役所に行き、本人の国民登録情報をもらう。
※なぜ必要なのかの説明文を作成し、弁護士を介せば可能。
②その住所に書留で手紙を送る。
③何も返信がなければ、新聞に「連絡してくれ」という広告を出す。
④それでも連絡がなければ、相続人に連絡する。
⑤相続人が居所を知っていれば、連絡してもらう。
⑥相続人も知らないというのであれば、相続人に本人失踪を裁判所に申し立ててもらう。
⑦裁判所が失踪を認めれば、相続人に株を移すか、あるいは他の株主が買い、相続人に株価を払う。
⑧相続人が失踪申し立てを拒否、あるいは相続人がいなければ、裁判所に株の売買を申し立てて他の株主に売り、その金を相続人に払うか、裁判所に納める。
※相続人なしの財産は国庫に入るため。
 以前はインターネットが普及していなかったので、新聞を買って読んでいましたが、こういう広告をたくさん見かけたものです(今でもあると思いますが)。宛先が会社関係者であったり、裁判の証人であったり、被告であったり、いろいろありました。証言を予定していた証人が行方不明になった、被告が出廷しようしない、連絡がつかない、では裁判が進められません。証人不在、被告不在でも裁判が進められるようにするための法的手続きの一環として広告を出していることが、今ではわかりましたが、当時は、何だ、こりゃ?こんな広告を出して意味があるのか?と滑稽に思えました。
 株主に連絡がつかなくなった場合、以上の手続きを踏まなくてはならないのですが、株主名簿自体は「こういう具合に株主、持ち株数が変わりました」という書類を提出するだけで、役所が審査するとか、そういうものではありませんから、こんなことをしなくても簡単にできることではあります。しかし、あとからその株主が、勝手に自分の株を売買した、自分は了解していない、と騒ぎ立てれば、面倒なことになります。
 かといって、上記の手続きをし、相続人もどこにいるか知らず、本人と連絡が取れない、あるいは死亡していたら、相続人か裁判所に株代金を払わざるを得なくなるかもしれません。実際にはお金を出していなくても、そんなことは相続人には関係ありませんから、本人が失踪し、裁判所が株を相続人に移すことを認めれば、相続人はそれを相続財産として受け取ることができ、会社側の「実際には払っていないのだから」は通用しません。
 うちの従業員が、ラインの弁護士グループトークに参加しているので、こういう場合、どうすればいいのか、ちょっとグループトークで質問してみろと言ったところ、いろいろな弁護士から回答があったのですが、「上記の手続きをしてきっちりカタを付けておいたほうがいい」と「放っておけ」という回答に分かれました。「放っておけ」は、いなくなったからどうだというんだ?事業運営には影響ないのでは?ということなのですが、放っておけ派で面白い回答をした弁護士が1人いました。それは「増資をしろ」です。増資をすることにより、そのタイ人の持ち株率が下がります。そのタイ人の持ち株率をぐっと下げ、ほんの数パーセントにしておけば、取るに足らない話になるから、増資をした上で放っておくのが一番、なんていう回答でした。
 日系企業の場合、労働許可証の関係で資本金は200万バーツ以上にせざるを得ず、さらにタイ人の持ち株率を50%超にしないといけないので、1人のタイ人に集中させれば、そのタイ人が1人で100万バーツちょっとを持つことになり、これを数%にまで下げるには、相当額を増資しないといけませんが、51%から50%未満にまで下げるのはわけないことですから、確かに増資はいい方法かもしれません(もし「放っておく」ならですが)。
 もちろん、名義借りは好ましいことではなく、推奨できることではありませんが、どうしても、という場合には、最初の段階から「自分が株主になるのは単なる名義貸しであり、お金も払っていません。ですから会社はいつでも自分に通知することなく、自分の株を動かすことに同意します。」という念書に署名させておくことです。
 名義借りは法律違反ですから、こんな文書を残せば法律違反の証拠を残すことになります。しかし名義借りと資産は別問題です。名義借りが発覚しても会社の資産は守ることができます。「こんな文書に署名させたら法律違反の証拠を残すことになる」ではなく、法律違反の証拠になるから署名させるのであり、名義借りであることが証明できなければ、名義を借りたタイ人に資産を受け取る権利が発生してしまいます。
 法律違反を証明することが資産の安全につながる、これもまた一種のねじれ現象と言えるのかもしれません。

続・研修費用の弁償請求
 とあるお客さんが昨年8月から半年間、従業員を日本本社に研修に行かせました。日本本社に研修に行かせ、技能を学ばせるのはいいことではあるのですが、どうしても、タイ帰国後、それを武器に転職されるというリスクが伴います。そのお客さんも、多少そういうことは覚悟で行かせたのですが、やっぱり2名辞めたそうです。「タイ帰国後、〇年間はタイ法人で働く。〇年以内に辞める場合は研修費を弁償する。」という誓約書は、法的効力がないと言われていますが、きちんと手続きさえ踏めば、法的効力はあります。
 さて、とある朝、お客さんから相談メールが入りました。何でも、日本研修に行かせた従業員が無断欠勤をしており、もう来ないと言っている、タイ帰国後、2年間はタイ法人で働く、2年以内に退職する場合は100,000バーツ支払うという誓約書もある、ということで、相談内容は、
①この誓約書で100,000バーツを支払わせることは可能なのか。
②従業員は退職にあたってのルールを守っていない。それでも在籍中の給与は、満額実労働日どおりに支払う必要があるのか。
③会社が貸与しているユニフォーム等を全て返却した時点で給与を支払いたいと思っているがどうか。
というものでした。
 帰国後すぐに退職されるのではないかということは、多少覚悟はしていましたので、「やっぱりか」という程度で、特に大きなダメージになるようなことではありませんが、何もせずにそのまま退職させたら、他の従業員に影響があるかもしれません。ここで前例を作ったら、他の従業員も同じように簡単に辞めかねない、研修費を弁償させるとか、そういう問題ではなく、他の従業員への牽制ということで、何らかの対処はしておきたい、ということでした。
 以上の3項目のうち、②と③は同種の問題と言ってよく、①とは切り離して考えるべきことです。退職のルールを守っていないくても、賃金は別問題で、働けば、その対価を受け取る権利がありますから、ルールを守っていなくても、働いた分は満額支払わないといけません。
 たとえば、就労ビザを持たずに働いた場合は不法就労となるわけですが、働く権利がないのに働いていたことと賃金は別問題で、働く権利がなくても働いた限り、賃金を受け取る権利があります。「働けば対価をもらう権利がある」これは「就労ビザ」という行政制度の上にある人権ですから、働いたのであれば、その分はきちんと払わないといけません。ですから、「退職のルールを守っていない」ことが支払わない正当な理由にはなりえません。
 また、ユニフォームなど、会社の持ち物を返さないことと賃金の支払いも当然別問題になってきます。会社の持ち物の返却は、賃金の支払いとは全く別に督促すべきで、「返却したとき、賃金を支払う」なんてのは不当な返却要求です。また、会社の持ち物を金銭換算し、それを差し引いて支払うこともダメです。賃金はきちんと払う、会社の持ち物の返却を要求する、返却しなければ、横領もしくは窃盗として被害届を出す、あくまで切り離して考えるべきことです。
 これは①に影響することです。100,000バーツ支払おうとしない、じゃ、どうすればいいのか?会社の持ち物を返そうとしない場合は、横領もしくは窃盗として被害届を出すことができ、強制力で返させることができますが、「100,000バーツ支払おうとしない」は民事上に問題になりますので、被害届を出すことなどできません。では、どうやって支払わせるか?本人が積極的に支払おうとしない限り、役人の力を借りるしかないでしょう。
 ただし、研修にも「減価償却」があります。つまり、研修費を100,000バーツとすれば、〇年間はタイ法人で働く、〇年以内に辞める場合は100,000バーツを弁償する、という誓約書があっても、タイ帰国直後、全くタイ法人で働かずに辞めた場合はともかく、いくらかの期間、働けば、その期間は日割りで削られますので、どうあっても誓約書どおりの金額というわけにはいかないということです。償却期間がどの程度になるか、それは研修期間によって違ってくるでしょうが、幾分かは支払わせないと、悪しき前例を作ることになってしまいます。
 お客さんには、
①賃金はきちんと支払うこと。
②ユニフォーム等、会社の持ち物は「返却すること」にとどめ、賃金とは切り離すこと。
③以下の文書を作り、本人に渡すこと。
 貴殿は・・年・・月・・日から・・年・・月・・日まで日本本社に研修に行ったが、これは、日本渡航前に労働省に届け出て、承認を得たところにあるとおり、タイ帰国後、習得した技術をタイ法人の事業運営に活かすことを目的としたものである。研修前に、タイ帰国後、2年間はタイ法人で就労することに合意したが、貴殿は退職の意思を表明しているものであり、・・月・・日以降、貴殿は会社に来ていない。会社が貴殿を日本本社に研修に行かせたのは、タイ法人発展のためであり、貴殿が習得した技術をタイ法人のために活かさず、他社のために活かすのは、会社には損害になることであり、貴殿にとっても、研修にかかった費用を支払わなければならず、お互いに利益になることではない。もし貴殿に復帰の意思があるのであれば、会社は貴殿を受け入れるので、今一度、復帰の検討を願いたい。
 貴殿がなおも退職の意思を固持するのであれば、合意に従い、研修にかかった費用として、本文書を受け取った日から1ヵ月以内に100,000バーツを支払っていただきたい。
 1ヵ月以内に支払うことが困難な事情があるのであれば、会社に相談していただきたい。
④復帰の意思など、毛頭ないと思うが、「復帰の意思があるのであれば、会社は受け入れる」という文言を必ず入れること。
⑤たぶん、無視されると思うので、日本研修前に提出した海外研修承認願一式を福祉・労働保護局に持って行って相談すること。
⑥たぶん、本人と話し合えと言ってくると思うので、本人と話したが払おうとしないし、会社にも来ようとしない、(③の文書を見せ)会社はこういう文書を本人に渡したが無視された、どうしたらいいか、と役人に相談すること。
⑦役人立ち合いでの話し合いということになったら、余計なことは一切喋らないこと。こういう場合、自分の正当性アピールのために、ペラペラ喋りたがるものだが、喋れば喋るほど、突っ込みどころが出てくるので、余計なことは喋らないこと。
とアドバイスしたのですが、以上のアドバイスは、いかにして役人を巻き込むか、いかにして役人を味方につけるか、ということを狙ったものです。本人とだけの話し合いでは、仮に50,000バーツで合意したとしても、反故にされる可能性大でしょう。しかし、役人が立ち会っていれば、本人に与えるプレッシャーも違ってきますし、反故にされた場合、訴訟も有利に進められます。役人が立ち合っているのですから、役人を証人に立てれば、威力が全然違います。いかにして役人を巻き込むか、いかにして役人を味方につけるか、ここで「ルール違反の退職なのだから」といって満額支払わなかったり、「賃金を支払うのは会社の持ち物を返却したとき」などと賃金を「人質」にしたような不当な要求をすれば、それとこれとは別問題、ということになり、何かの部分で会社がきちんとしていないと、きちんとしている部分までが懐疑の目で見られかねません。賃金の支払い、ユニフォームの返却要求という全く別の問題が100,000バーツの弁償請求に影響するというのは、役人に与える心象のことで、ようは、役人を味方につけられれば、弁償請求もスムーズに進められやすいということです。無視されることはわかっていても、③の文書を作成し、本人に渡すのは、役人に対し「ここまで努力しているんですよ」というアピールのためです。復帰の意思などないことはわかっていても「復帰の意思があるのであれば、会社は受け入れる」という文言を入れるのも、役人に対し「会社はここまで譲歩しているんですよ」というアピールのためです。こういう場合、考えるべきことは、従業員本人のことではなく、いかにして役人に立ち会わせるか、いかにして役人を味方につけるか、です。
 結局、役人が本人を呼び出し、役人立ち合いの下で話し合ったところ、50,000バーツ弁償するということで落ち着いたそうです。
 支払いを命じた最高裁の判例もありますし、もし法的効力がないというのであれば、役人もこのようなことはしないでしょう。役人としては、何とかして裁判は避けたい気持ちがあるはずですから、わざわざ本人を呼び出してくれたのではないかと思います。
 タイの民事裁判所(特にバンコク民事裁判所)は、それはそれはすごい事件数で、建物の許容量をはるかに超えています。同じ時間、同じ部屋で別々の事件の裁判が行われるのは珍しくありません。各事件の裁判官、弁護士、原告、被告が同じ時間、同じ部屋にいて、裁判が行われるのですから、最初は頭を整理するのに戸惑ったものです。こっちが通訳として話しているときに、横で別の事件のやり取りも行われているのですから、うるせー、静かにしろ、なんて思ったものです。
 それほど多くの裁判所に行ったわけではないのですが、どこの裁判所にも、むやみやたらと訴訟を起こすな、まずは話し合え、合意できなければ調停委員に相談しろ、なんていうポスターが掲示板に貼られていました。
 一般国民に対しては、むやみやたらと訴訟を起こすな、という指導をすると同時に、役人に対しては、裁判にならないよう、そっちで合意できるようにもっていけ、という内部指導もしているようで、たぶん、いきなり訴状を持って行っても、どれだけ自分で解決努力をしたのかがまず問われ、それが不十分であれば、訴状を受け取ってくれることはないでしょう。
 役人は裁判を避けたがっています。今回の場合、単純に言えば、会社は研修費弁償請求権がある、会社はちゃんと解決努力をしている、しかし本人が話し合いに応じない、このままだと会社が従業員を訴えるかもしれない、何とかここで話をつけさせ、裁判にはしたくない、という気持ちが働いたのではないかと思います。
 研修費だけではなく、その他のことについても言えることだと思いますが、いかにすれば裁判を避けたがっている役人を味方につけられるか、そこがポイントになると思います。

薬物での解雇
 薬物は、フィリピンほどではないかもしれませんが、タイ社会でも、低所得者層を中心に広く蔓延していると言われています。低所得なら薬物を買わず、メシを買え、薬物を買う金があるのなら生活費に回せ、それで金がないなどと威張るな、と言いたいところです。
 先日、お客さんから、人事労務セミナーに参加したとき、タイでは麻薬を使用しても解雇できないと言われたが本当か、という質問を受けました。麻薬は重大犯罪じゃないか、解雇できて当たり前じゃないか、という理解で、たぶん、ほとんどの人が同じように思っていらっしゃるのではないかと思います。ところが麻薬で解雇ってのは、実はそれほど簡単なことじゃありません。
 犯罪のタイプには、被害者がいるもの(被害者を必要とするもの)と被害者がいないもの(被害者を必要としないもの)とがありますが、麻薬は後者のタイプです。最近では、出勤記録は指紋認証にしているところも多いと思いますが、以前はタイムカードが主流でした。タイムカードの欠点は、従業員がたくさんいるところでは、打刻代行がやられやすいということです。タイムカードの打刻代行は、それほど重大なことであるという認識は、企業側にも従業員側にもなかったのですが、実は解雇対象にしてもかまわない違反でした。「打刻代行」、淡泊な表現ですが、これを「本来は得られない金銭を得るために他の人に打刻を頼む」、「本来、差し引かれてしかるべき賃金が差し引かれないように、出勤していないのに出勤しているかに見せかけるために、他の人に打刻を頼む」という表現に置き換えてみるとどうでしょうか。「会社の金を騙し取っている」ということがしっくり理解できるのではないでしょうか。この場合、会社は金を騙し取られた被害者です。金を騙し取られたんです。だから解雇対象にしてもかまわない違反とされていました。
 ところが麻薬の場合、会社は被害者ではありません。会社に対して犯罪を行ったわけではありません。警察に告発し、警察が逮捕し、裁判で有罪判決が出て、はじめて「禁錮刑の確定判決が言い渡されたとき、解雇できる」という規定に基づいて解雇できます。ですから、解雇は、お上が有罪とするかどうかで決まります。
 麻薬だから有罪判決に決まっているだろうと思いきや、今の時代、そういうわけではなくなりました。一昔前であれば、逮捕されて有罪判決、ということになったかもしれませんが、今の時代、販売目的で大量に所持している売人ではなく、自分が使うために少量持っている程度であれば、どこで手に入れたのか、どこで使用したのかなどを聴取し、「もう二度と手を出しません」という誓約書を書かせて終わりというケースが多いと思います。実際、以前、お客さんが警察官立ち合いの下で薬物検査を行ったところ、陽性反応が出て、本人も認めているにもかかわらず、警察は逮捕しなかったそうです。どういう薬物を使用したか、どこで入手したか、どこで使用したかなどを調書にし、本人に「もう二度とやりません」という誓約書を書かせて終わったそうです。つまり、警察は、ちょこちょこっと自分が使うために買ってきて、自分でやっただけで、他人に害を与えるわけでもなし、大量にどこかから仕入れて人に売ろうとする売人というわけじゃないから、逮捕するまでもないだろう、本人も二度とやらないと言っているし、逮捕せずに説教だけにしておいたほうが本人のためにもなるだろう、という判断をしたということです。
 違和感を感じるところなのですが、この程度のことでいちいち逮捕していたらキリがないという事情も関係しているのではないかと思います。これだけ広く蔓延すると、いちいち逮捕していたらキリがなく、すぐに留置場が一杯になり、国際人権保護団体などが、劣悪な環境に置かれている、犯罪者であれ人権がある、人権侵害だ、と叩いてくるかもしれません。だからといって、留置場を拡大しようとすれば、そのための費用も、管理する警察官の増員も必要になります。また、労働人口の減少という問題を引き起こすことになるかもしれません。
 そういう事情も関係しているのではないかと思うのですが、薬物中毒は病気であり、罰するのではなく、治療するのが本人にとっても社会にとっても有益、という流れになっています。ですから、売人であれば、「人に害を与え、社会を腐敗させる」として有罪判決を受けるでしょうが、少量を自分で使用したという程度であれば、説教で終わらせられることのほうが多くなっていると思います。現にお客さんのところでは、説教だけで終わってしまったのですから。お上が、罰するほどのことなのか、この程度だったら十分更正できる、更正の機会を与えるべき、と判断すれば、被害者ではない会社が「薬物は犯罪だ」といって、それを理由に解雇するというわけにもいきません。
 薬物を所持、使用していることを発見したら、まずは警察に通報、警察が、この程度のことでいちいち通報してくるな、などとぬかしやがったら、犯罪が行われているのを見過ごしていいのか、犯罪が行われていれば、すぐに警察に通報するように法律に定められているじゃないか、国民の義務じゃないか、通報しなかったら、こっちが軽犯罪になるじゃないか、うちの会社は麻薬を容認していると思われるじゃないか、法律を守って何が悪い、義務を遂行して何が悪い、軽犯罪にならないように通報して何が悪い、自社の名誉を保とうとして何が悪い、と言ってやりゃいいんです。
 警察が逮捕し、有罪判決を受けたら解雇してもいいでしょう。説教だけで終わらせた場合、警察が事件化しなくても、麻薬は業務遂行能力を著しく低下させる違法薬物であり、他の従業員に広がることがあれば、会社は大きな損害を受けることになることから、これを会社内に持ち込む、あるいは使用することは禁じる。繰り返した場合、会社は、重大な会社の正当かつ合法的な命令に意図的に違反したとみなし、直ちに解雇を検討する、という注意文書を出すことです。そうすれば、他の違反と同じ話になり、繰り返せば、薬物を使用した、ということではなく、会社の合法的で正当な命令に違反した、ということで解雇してもかまわないでしょう。

未払い賃金請求権の時効
  先日、知り合いから残業手当請求権の時効は何年なのかと聞かれました。
 ずっと前に退職した従業員から過去に遡って残業手当、休日出勤手当の請求がきたが、払わないといけないのか、という質問はたまに受けることがあるのですが、残業、休日出勤が事実で、未払いも事実であれば、「払わないといけないのか」という質問は、「時効かどうか」という表現に置き換えてもいいでしょう。
 債権にもいろいろ種類があり、種類によって時効は異なっているのですが、残業手当請求権は、以下の条文が適用されます。

(民商法典)
第193/34条 以下の請求権は、時効を2年とする。
(1)商業、工場、工芸、芸術、技術を営む者が要求する納品済みの物品代、工賃。あるいは他の者の事業を管理する者が要求する代金。ただし、債務者側の事業のために行ったことは除く。
(2)農業、林業を営む者が要求する納品済みの農林産物の代金。ただし、債務者側の家屋内のみで使用するものに限る。
(3)人、物の運搬を営む者が要求する運賃、船荷運賃、賃料、手数料。
(4)ホテル、宿泊所、飲食物販売、サービス施設関係法によるところのサービス業を営む者が宿泊者、サービス利用者に要求する宿泊費、飲食費、サービス費。
(5)宝くじ、空くじのないくじ引き、あるいは同様のくじを販売する者が要求する販売料。たたし転売目的のものは除く。
(6)動産賃貸を営む者が要求する賃料。
(7)前(1)号に該当しないが他の者の事業を管理することを営む者、各種請負を営む者が要求する報酬。
(8)個人的な作業を請けた被雇用者が要求する賃金、報酬。あるいは雇用主が返還を要求する事前支払金。
(9)正規被雇用者、臨時被雇用者、日給被雇用者、研修被雇用者にかかわらず、被雇用者が要求する賃金、給金、立替金。あるいは雇用主が返還を要求する事前支払金。
(10)教師が学習者に要求する事前に合意したところの学習費、諸経費。
(11)教育機関、医療機関の所有者が要求する学習費、手数料、治療費、諸経費。
(12)養育、研修のために人を引き取った者が要求するそのために行ったことの代金。
(13)動物を育てる、あるいは訓練を請けた者が要求するそのために行ったことの代金。
(14)教師、講師が要求する授業料。
(15)医療、歯科治療、助産を営む者、獣医療を営む者が要求するそのために行った代金。
(16)弁護士、法律業を営む者、証人が要求するそのために行ったことの代金。あるいは相手方当事者が返還を要求する事前支払金。
(17)技術、建築を営む者、会計監査人、あるいは自由業を営む者が要求するそのために行ったことの代金。あるいはそれらの者を雇った者が返還を要求する事前支払金。

 「残業手当」という語句は出てきていませんが、(9)号が該当するでしょう。法律というのは、どんなものでもどう解釈するかが問題で、現実生活では、条文にぴったり当てはまらないことも多いです。ぴったり当てはまらないものは、裁判所が、何とかは何とかであることから、何とかであるとするのが妥当である、という解釈を示し、適用すべき条文を裁定します。気に入らなければ、こう解釈するのが妥当なのではないか、何とかであるとするのが妥当であるとした一審の判決は受け入れられない、と主張して控訴するわけです。
 どう解釈するのか、それは裁判所の見解であり、以下が最高裁の判例です。

第4843/2548号
 民商法典第193/34条には、
 「第193/34条 以下の請求権は、時効を2年とする。
(9)正規被雇用者、臨時被雇用者、日給被雇用者、研修被雇用者にかかわらず、被雇用者が要求する賃金、給金、立替金。あるいは雇用主が返還を要求する事前支払金。」
と定められており、給金とは、残業手当、休日手当、休日残業手当などの労働の対価であることから、残業手当、休日手当、休日残業手当の請求権の時効は2年である。

 というように、ここで明確に「残業手当」という語句が出てきております。裁判所の見解の中でも、最上格の最高裁の見解が「もっとも正しい解釈」ということになりますので、残業手当の請求権の時効は2年ということになります。
 残業手当は、企業側も支払わないといけないことはわかっているはずですから、これを支払わなかったというのは「うっかり」というやつで、あとから請求されるというのは、そんなにはないかもしれませんが、有給休暇の持ち越し分は、今後、あとから請求されるというケースが出てきそうな気がします。企業側にも労働者側にも、まだ十分に認知されていないのですが、有給休暇の持ち越し分は、休日出勤をしたとして、本人の退職時に持ち越し日数分を支払わないといけません。これは、何か悪さをし、解雇補償金なしにクビにする場合にあってもです。
 入社1年以上の従業員には、6日間の有給休暇を与えなくてはなりませんが、消化しなかった有給休暇は、翌年に持ち越してもいいですし、持ち越しは認めず、その日数分のお金を払って、毎年6日間になるようにしてもかまいません。よくある質問として、「有給休暇の買取額は基本給だけでいいのか」というのがあるのですが、基本給だけでなく、毎月定額で支払っているものは賃金の一部とされますので、それらの合計額が計算ベースになります。「有給休暇の買取額は基本給だけでいいのか」と聞いてくるお客さんに、じゃ、残業手当はどう計算しているのか、休日出勤手当はどう計算しているのかと聞いてみると、ほとんどの人が基本給+毎月定額で支払っている手当を計算ベースにしているということで、正しく理解しています。してみると、この「買取」という語句が理解の邪魔をしているのではないかと思います。一般的には「有給休暇の買取」と言われていますが、「買取」じゃないんです。「休日出勤手当の支払い」なんです。
 有給休暇が6日あったとします。うち4日消化したとします。そうすると、残りの2日間については、休む権利がありながら休まなかった、ということになり、休日出勤をしたということになります。だから休日出勤手当を支払うことになります。「買取」じゃないんです。未払いの休日出勤手当なんですから、本人の自主退職だけでなく、悪さをしたことでクビにする場合にあっても払わないといけないんです。
 ただ、このことは、企業側にも労働者側にも、まだ十分に認知されていません。企業側も持ち越し分のお金を払わないといけないなんて思ってはいない、労働者側もまさかもらう権利があるとは思っていない、これじゃ問題が起こり得るはずもなく、今は、だから何も起こっていないというだけで、この権利が労働者側に認知されるようになれば、あとから請求してくるケースが増えてきそうな気がします。
 有給休暇については、私は持ち越しは認めず、未消化分の休日出勤手当を支払って、一年ごとにケリをつけておいたほうがいいとお客さんには勧めているのですが、どのみち払わないといけないのですし、あとから請求されるというトラブルを確実に防止するためにも、一年ごとにケリをつけておいたほうがいい、ということです。
 この請求権の時効もまた、2年であることは明白です。

幼稚な疑問に立ち返る
 先日、お客さんから、遅刻をした場合、遅刻した時間数を賃金から差し引くことができるのか、という質問を受けました。「差し引くことができる」と回答したところ、このサイトには差し引いてはいけないと書かれてあるが、本当に差し引いていいのか、とさらに念を押されました。そのサイトを確認したところ、Q&A形式で書かれており、Qは「頻繁に遅刻する場合、罰金という形で給与から差し引くことは法律上問題となるか」、Aは「違法である」、というものでした。なぜ違法になるのか、そのサイトが根拠として挙げていたのが労働者保護法第76条でした。労働者保護法第76条とは、

第76条 雇用主は、以下のために差し引く場合を除き、賃金、超過勤務賃金、休日勤務賃金、休日超過勤務賃金から金銭を差し引いてはならない。
   (1)被雇用者が支払わなければならない所得税、もしくは法律が定めたところの他の金銭の支払い。
   (2)労働組合の規則によるところの労働組合維持費の支払い。
   (3)協同組合、もしくは協同組合と同様の性質を持つ他の組合の債務の支払い。もしくは被雇用者のみへの利益になる福利厚生のための債務の支払い。ただし、事前に被雇用者の同意を得るものとする。
   (4)第10条によるところの保証金。もしくは被雇用者が意図的、または重大な過失によって雇用主に与えた損害の賠償金。ただし、被雇用者の同意を得るものとする。
   (5)積立基金に関する合意によるところの積立金。
 (2)(3)(4)(5)に基づいて差し引くにあたっては、被雇用者から同意を得た場合を除き、それぞれの項目につき、被雇用者が第70条に基づく支払い日に得る権利のある金銭の10%を超えて差し引いてはならず、合計が5分の1を超えて差し引いてはならない。

 以上のような内容なのですが、この第(4)号を根拠に挙げていました。「労働者保護法第76条に、労働者の故意または重大な過失により生じた使用者に対する損害賠償金という定義があるが、遅刻の場合、他の労働者の士気に影響していない程度であれば重大な過失とは言えないので差し引くことはできない(だから差し引くのは違法)」という説明だったのですが、そもそもがQ&Aになっていないです。罰金と損害賠償金は全く別次元の話です。罰金とは違反したことの罰として科せられる金銭です。損害賠償金とは自分が発生させた損害を償うための金銭です。罰金として給与から差し引くことはできるかというQに対し、損害賠償金の規定を持ち出す、Q&Aになっていないですよね?
 たとえば、自動車事故を起こしたとし、罰金を科せられたとします。罰金は、道路交通法に違反したことで科せられる罰です。それだけでなく、相手方に対し、身体、財物に発生した損害を償わないといけません。これは損害賠償金です。説明するまでもないことでしょう。
 損害賠償金というのは、損害を具体的に金銭に換算して請求するもので、労働者保護法第76条でも、各項目それぞれの限度は10%、合計で5分の1が限度、というように数字が具体的です。
 「他の労働者の士気に影響していない程度であれば重大な過失とは言えない」だったら、士気に影響しているのであれば、重大な過失と言えるということになりますよね?しかし、「士気への影響」はどうやって測るのでしょうか。これだけ士気が下がった、なんてことをどうやって証明するのでしょうか。士気が下がったことによってこれだけ損害が発生した、とどうやって証明するのでしょうか。
 遅刻をしたことでこの条文が適用できるケースもあります。たとえば、明日9時に商品を取りに行く、きっちり9時に渡さなかったら他社で買う、と言われたとします。ところが商品管理をしている者が倉庫の鍵を持って帰り、大酒を食らって朝起きれず、9時に間に合わなかったことで失注したとします。その商品の仕入価格が9万バーツ、販売価格が10万バーツとすると、遅刻により、1万バーツの損害を発生させたということになり、「大酒を食らう→朝ちゃんと起きれないかもしれない→遅刻してもかまわないと思った」、あるいは「鍵を持って帰る→自分に何かあったら商品が倉庫から出せない→出せなくてもかまわないと思った」、すなわち、未必の故意が認定されれば、1万バーツを損害費として賠償請求ができるでしょう。
 損害賠償というのは、損害を明確に金銭に換算して請求するもので、「士気への影響」なんて、最初から次元が違った問題なんですよね。一般的に遅刻は、本人に注意し、再三の注意にもかかわらず、改善が見られない場合には解雇という処分を科すべきことで、損害賠償の対象になりうることではありません。
 ちなみにこのQは、全然ややこしいものではありません。極めて単純なものです。正解は、

 処罰には、口頭注意、文書注意、停職、解雇の4つしかなく、罰金という処罰はない。従っていかなる違反であれ、罰金を科すことはできないので、罰金として給与から差し引くことはできない。しかし、従業員が有給の権利がなく、あるいはその権利を行使せずに、本来働くべき時間に働かなかったのであれば、雇用主は、不労不払いの原則に基づいて働いていない分を差し引くことができる。これは単に、働いていない分は支払わないというだけで、罰金ではない。

です。
 有給の権利を行使せずにサボれば、その分を差し引くのは雇用主の権利ですし、差し引いてはいけないというのであれば、有給という権利そのものに意味がなくなってきます。被雇用者には、法律で保証された有給の権利があります。その権利が保証されているからこそ、雇用主は、堂々と差し引くことができるのです。
 ただ、誤解していただきたくないのですが、ここでそういうことを書いているサイトを攻撃しようというつもりは毛頭ありません。みなさんのために真剣に書いたのだと思います。自分のことはわからないもので、私だって、おかしなことを書いているかもしれません。たぶん、書いていると思います。これだけ情報が氾濫してくると、読み手側が情報を淘汰すべきで、書き手をどうのこうの批判しても仕方ありません。この場合、差し引いていいのか、いけないのかを論じる前に、Qは罰金、Aは損害賠償金、ちょっとおかしいんじゃないのか、と読み手が感じてしかるべきではないかと思います。
 ちょっと前にも、日本本社の社長から、「うちは食事手当、通勤手当は来た日だけ支払っている。そうすると、毎月時間給が変わり、残業手当が計算しにくい。残業手当計算ベースを毎月同じにしたいので、食事手当、通勤手当を毎月定額にしたい」という提案が現地法人責任者から来たが、これはおかしいんじゃないのか、という相談があったのですが、やっぱり、不自然なものは不自然と感じるものです。「毎月時間給が変わる」・・・つまり、毎月賃金が変動するということですよね?仮に人から言われたとしても、あるいは何かのサイトに書かれてあったとしても、「そうすると毎月賃金が異なるということになる。月によって賃金が変動するなんてありえることなのだろうか」と、ここに不自然さを感じてしかるべきだと思います。
 基本的、初歩的なミス、誤解は、ある程度の水準で意識、知識、経験が成熟している人にありがちなことだと思います。「本当に差し引いていいのか」と聞いてきた冒頭のお客さんに、差し引いていいのかどうかを論じる前に、Qは罰金、Aは損害賠償金、このQ&Aそのものがおかしいと思いませんか?と言うと、あ、そうだな、おかしいよな、とすぐに気が付きましたが、罰金とは何ぞや、損害賠償金とは何ぞや、あまりにも基本的なことであるだけに、かえって気が付かなかったのだと思います。
 言語が違っていても、習慣が違っていても、法律が違っていても、制度が違っていても、自然か不自然かというぐらいは判断できることも多いと思います。タイに出て来たばかりのお客さんにはいつも言っているのですが、「そんなことがありえるのだろうか」とか、「そんなことが可能なのだろうか」とか、「そんなに簡単だったら、なぜみんなやらないのだろうか」という疑問は、幼稚な疑問ではありますが、すごく大事だと思います。

「もっともなこと」の有害性
 キツネが葡萄を見つけ、食べたくてたまらないが、何度飛びついても届かない、そこでキツネは「あの葡萄はすっぱいから食べてもうまくない」と言って悔しさをごまかす、イソップ寓話の「すっぱい葡萄」です。昔の人は偉いものです。
 精神状態を平常に保っていくには、言い訳をして他人、自分を納得させることも必要なのかもしれませんが、言い訳ばかりしていたら、自分の能力は発達しません。怠慢ありきを前提に、その怠慢を正当化すべく、もっともらしい理屈をたれて、言い訳ばかりするヤツは、タイ人ばかりでなく、日本人にも多いと思います。よく聞かれる言い訳で、私が大っ嫌いなのが「タイと日本は違う」です。
 確かにタイと日本は違います。日本と同じようなわけにはいきません。私は「言い訳の万能薬」と呼んでいるのですが、すべてのことの言い訳になる便利な言葉です。どんなことでも「タイと日本は違う」と言えば、もっともらしく聞こえますし、同じ水準の話ではなくなるので、相手にしてみれば、反論できなくなってしまいます。
 確かにタイは、言語も習慣も法律も制度も日本とは違っています。違っているがゆえに、何かトラブルが発生しても「言語が違うから」「習慣が違うから」「法律が違うから」「制度が違うから」が抜け道になってしまい、堂々と言い訳ができます。また、もっともなことなので、日本本社も納得せざるを得ないところがあるでしょう。しかし、この「万能薬」は、精神状態が保たれるという効能がある一方、精神系視力障害を引き起こすという副作用があります。「タイと日本は違う」が口癖になると、自分の能力不足が見えなくなってくるんですよね。
 以前、落合氏が「昔の球場は狭かったからホームランになりやすかった、今の球場は広いからホームランになりにくい、なんてのは言い訳、統一球になったからボールが飛びにくくなった、なんてのも言い訳、球場、ボールは関係ない、打てないヤツは打てない」と言っていましたが、それと全く同じです。今の球場では外野フライでも、昔の球場だったらホームランかもしれません。もっともなことと言えばもっともなことなのですが、昔の球場は狭かったからホームランが出やすいかった、飛ばないボールになったからホームランが出にくくなった、なんてことを言っていたら、自分の技術は上がりません。球場が広ければどうすればそこまで届くのか、飛びにくくなったボールをどうやってスタンドに持って行くか、それを考えないと技術は上がらないでしょう。
 掛布氏は、レフト方向に打球を飛ばす技術を磨くことでホームランを量産しました。通常、流すよりは引っ張るほうが打球は遠くに飛びますので、引っ張ったほうがホームランになりやすいのは当然ですが、甲子園はライトからレフト方向に強い風が吹いていることが多いので、左打者が引っ張ると、横からモロに風の抵抗を受けて失速し、本来はライトスタンドに入っている打球も平凡なフライになってしまいます。ところがレフト方向に打つと、全くの追い風ではないにせよ、「風に乗る」という現象が起き、飛距離が出ます。ここで「甲子園は浜風が強いから左打者には不利」なんて言っていたら、掛布氏の流し打ちの技術は発達しなかったでしょう。「甲子園は浜風が強いから左打者はホームランが打ちにくい」もっともなことですが、浜風が強いからホームランが打てないのではなく、技術がないからホームランが打てない、掛布氏はそれを証明したバッターだと思います。
 「タイと日本は違う」、違う国なのですから、違っているのは当たり前です。「言語が違うから」「習慣が違うから」「法律が違うから」「制度が違うから」、だからうまくできないんじゃないんです。バカだからうまくできないんです。「もっともな言い訳」は自分の能力不足を見えにくくさせてしまいます。何かと言えば「タイ人と日本人は違う」と言うタイ人は、私の頭の統計学では間違いなく、無能ですが、同じように、何かと言えば「日本とタイは違う、タイは日本のようなわけにはいかない」という弁明を日本本社に繰り返す日本人も、間違いなく、無能です。「タイと日本は違う」だったらどうすればいいのかを考える、違っていても、能力があればできるはずです。
 私の仕事を例にしますと、私の仕事は役所に行くことが多いのですが、タイの公務員は、大きな権限を持っていますので、役人に振り回されることがしばしばあります。タイの法律、規定は、どんなものでも「・・・・であるとする。ただし、これについては、担当官が適切と認めたところによる。」という文言が付け加わっていることが多いです。つまり、一定の基準は定めているものの、合憲、合法の範囲内であれば、自分の判断でそのとおりにしなくていいという権限を担当官に与えているということです。
 ちょっと話がそれますが、タイには「行政裁判所」というのがあります。母体はそれ以前からあったのですが、正式に設置され、活動を開始したのが2001年という裁判所で、特徴は、被告が公務員、政府機関に限られているということです。前述のとおり、一定の基準は定めているものの、自分の判断でそのとおりにしなくていいという権限を公務員は持っていますので、その権限行使が正当なものであったのかどうなのかを裁定する裁判所です。
 たとえば、環境問題があり、工場の設立、操業に一定の制限を設けた地域があったとします。そこで政府機関、行政機関が企業側から賄賂を受け取り、制限事項に違反しながら工場の設立、操業を許可したとします。この場合、権限行使の正当性は関係なく、単純な収賄罪、贈賄罪となりますから、刑事事件として、刑事裁判所で裁くべき事案となります。ところが賄賂を受け取った事実がなく、行政機関があくまで「法律に照らし合わせて合法と判断した、制限事項には違反していない」と主張するものの、憲法、環境保護規定、各種法律を正しく解釈していない上での許可であると思われ場合、あるいは過去の最高裁判例からすれば、許可すべきでないと思われる場合、違憲、非合法な権限行使として、行政裁判所に訴え出ることになります。
 という強い権限を公務員は持っていますので、特に根拠もなく、自分の好みだけでああだ、こうだと言ってくることが多いので、今でも役人に振り回されることはよくあります。スタンダードな基準のとおりに書類を準備しても、これじゃダメだ、あれを持って来い、これを持って来い、と言われることは日常茶飯事です。そうすると、手続きがスムーズに進みません。しかしここで「タイと日本は違う、タイは日本のようなわけにはいかない」という言い訳をしてはいけないと思います。もっともなことなのですが、そういう言い訳をしてはいけないと思います。一定の基準は定めているものの、自分の判断でそのとおりにしなくていいという権限を担当官が持っているということは、基準どおりに書類が揃わないとき、こちらにはかえって好都合になるときもあるのです。お客さんによっては、必要書類がきちんと揃えられないこともあります。規定ではAという書類を出さないといけなくても、どうあってもAが準備できないとき、なぜAが必要なのかを考え、手に入る別の書類BとCを準備し、「本来、Aが必要とされるのはこういうことのため。ところがこういう理由でAが手に入らない。代わりにBとCを提出する。BとCがあれば、Aと同じ意味を持つはず」という説明文を別途作成して提出し、役人と交渉すれば、だいたい何とかなるんですよ。
 なぜ役所がAを要求するのか、その意味を考えない、これは私がバカだからです。BとCの合わせ技でAと同等の意味を持たせることができることを思いつかない、これも私がバカだからです。うまくできないのは、タイと日本が違っているからじゃないんです。私がバカだからなんです。「タイと日本は違う」そういう言い訳をしていたら、自分の能力不足が見えてきません。もっともなことだからこそ、言い訳にしてはいけないと思います。これは、潔いとか潔くないとか、そういう精神論ではありません。自分の実益にならないことを否定しているだけです。もっともなことだからこそ、「言い訳」「自己弁護」「逃避」という自覚がなくなります。決して言い訳にせず、自分にもっと能力があったら、という意識でいないと、自分の能力は向上しないと思います。

自分の舌で判断する
 2月14日から18日まで広島に行ってきました。日本に帰ると楽しみなのが食事で、タイにも日本料理店はたくさんありますが、やはり刺身、寿司ということになりますと各段の差があり、なまじ好きなだけに、タイでは食べようという気にもなりません。タイでは全く食べないので、日本に帰ると狂ったように、刺身、寿司を食べまくります。
 いつもあらかじめ友人に、おこぜがあったらおこぜを仕入れておいてくれように料理屋に頼んでおいてくれと言っているのですが、おこぜは夏の魚だと嫌がる料理屋もあるそうです。確かに一般的にはおこぜは夏の魚とされてはいますが、年中いつでも獲れるはずです。たとえば、秋が産卵期でそれをすぎるとやせ細っているので、産卵直前の夏が一番うまいとか、産卵直後の冬はまずいとか、何らかの理由があって、おこぜの旬は夏というのであればわかるのですが、おこぜ夏説には特に根拠なんてないと思います。根拠があるとすれば、俳句の季語になっていることぐらいでしょうか。しかしこんなものが根拠といえるのでしょうか。昔の人たちがおこぜは夏がうまいと勝手に言い、俳句の季語にしたというだけで、それに倣う必要はありません。産卵後はやせ細っていてうまくないかもしれませんが、夏でも冬でもうまいのですから、冬に食ってもいいと思いますけど。
 ・・・というのは、20年近く前に大阪の料理屋から教わったことです(今でも大阪に行ったときには必ず行ってますけど)。当時、私は茨城県に住んでいたましたが、年末年始の休暇で大阪に行ったとき、とある料理屋に入りました。すると、メニューに「おこぜ」とあるじゃありませんか。おこぜって夏の魚ですよね、と聞くと、大将曰く、「一般的には夏の魚とされているが、動かない魚なので年中いつでも獲れる、夏でもうまいが、個人的には冬が一番うまいと思っている、だからお客さんにお出ししている」・・・さすが大阪の料理人です。夏が旬のおこぜを冬に出すなんて、ここの料理人、ちょっとおかしんじゃないの?と思う客もいるかもしれません。しかし、そんなことは気にせず、自分がうまいと思っているから出す、人間、何をするにしても、こうありたいものです。
 その他、おこぜは冬がうまいと言っている料理人はいないものかとネットで検索してみたところ、2件ブログが見つかりました。以下は料理人のブログから抜粋したものです。

 オコゼは、初秋から初春が旬です。オコゼの味は、周年あまり変わりませんが、その中でも、特に今頃から冬場にかけてが最も美味しい時期です。(※日付は11月13日でした)

 オコゼの旬は?と聞かれますと、私は即座に「冬」と言います。冬は身も絞まった上に、脂を蓄え、肝も大きくなり美味しくなります。とは言え、オコゼはあまり動きの少ない魚なので、意外と年中いつ食べても美味しいのもまたひとつの特徴でないかと思います。

 いつも思うのですが、どんな食べ物でも、いつ食べるものとか、こう食べないといけないとか、そんな決まり事など、ないと思います。餅は正月でないと食べてはいけないのか?正月のほうがうまいのか?おこぜだって同じです。夏でないとダメなのか?夏のほうがうまいのか?おこぜを「夏の魚だ」というのは、餅を「正月の食べ物だ」というのと同じことです。餅は正月でなければ食べてはいけないのか?夏はまずいのか?冷やし中華は夏でないと食べてはいけないのか?冬はまずいのか?確かに冷やし中華は夏のほうがさっぱりしてうまいと感じるかもしれませんが、それは気候がそう感じさせているだけで、冷やし中華そのものに変わりはありません。いつの食べ物か、いつ食べるか、そんなことは食べる人が決めればいいことで、食べたいときに食べたいものを食べればいいじゃないですか。一般通念、既成概念、常識と言われているものにとらわれず、自分がうまいと思うものを食べる、たとえば、ヒラメとカレイがあるとします。どっちか選べと言われたら、どっちを選ぶか?ヒラメとカレイとでは格が違います。本当にヒラメのほうがうまいと思ってヒラメを食べるのであればいいのですが、自分の好みではなく、一般通念上の格の違いだけでヒラメを選ぶのは、貧乏人根性というやつです。安いものを注文することが貧乏人根性なのではありません。ほんとはカレイのほうがうまいと思っているが、カレイを選ぶと味がわからないヤツと思われるのではないか、ヒラメのほうが格上、値段が高い、グルメはヒラメを選ぶもの、こういうのを本当の貧乏人根性といいます。「貧乏人」と「貧乏人根性」は違います。金は持っていても根性は貧乏人、金は持っていなくても根性は貧乏人でない、決して珍しい現象ではないと思います。
 ちなみに私はカレイのほうが断然好きです。カレイのほうがうまいと思うからです。高級魚とか、低級魚とか、そんなことはどうだっていい、やれ、味がわかるだの、わからないだの、そんなこともどうだっていい、自分が食べてうまいと思うものを食べる、それでいいじゃないですか。
 「一般通念、既成概念、常識と言われているものにとらわれず・・・」食べ物だけでなく、いろいろな面で言えることだと思います。たとえば、「なぜBOIの認可を取ろうと思っているのか」と聞いても、きちんと答えらない人のほうが多いです。「製造業はBOIの認可を取るのが一般的だと聞いたから」・・・自分の舌で判断せず、「おこぜの旬は夏だから夏に食べるもの」「カレイよりヒラメのほうが高級とされているからヒラメを食べる」というのと同じです。BOIの認可は、メリットとデメリットがあります。自分にはどっちがうまいのかをよく考えるべきなのですが、「取るのが一般的と聞いたから」がほとんどです。一般通念、既成概念は、独自性と対峙しているもので、そういうのにとらわれていたら、独自性なんて発達しません。言い切ってもいいと思います。人と同じことをやっていたのでは人以上のことはできない、当たり前のことで、他社と同じことをしていては他社以上のことはできない、何か他社と違うことをやらなければいけない、という意識は誰もが持っているようなのですが、ほとんどの人がここに矛盾を抱えています。「何か他社と違うことをやらなければいけない」「他社以上のクオリティを出さなくてはいけない」という理念とは裏腹に、やっていることは「一般通念」「既成概念」です。人と違ったことはやろうとしません。「人と同じことをやっていたのではそれ以上のことはできない」と思いつつも人と同じことをする、矛盾してますよね?中公新書だったと思うのですが、「世界の日本人ジョーク集」という本があり、その中に、

 あるとき船が遭難した。船長が乗船客に早く海に飛び込めというものの、誰も怖がって飛び込もうとしない。そこで船長は、アメリカ人には「飛び込めば英雄になれる」と言った。フランス人には「飛び込めば女性にもてる」と言った。ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則」と言った。日本人には「みんな飛び込んでますよ」と言った。

 食事にハエが入っていた。アメリカ人は、コックを呼び、訴訟を起こすと騒ぎ立てた。フランス人は、ハエを潰し、ダシをとって食べた。ドイツ人は、加熱されているから問題ないと言って食べた。日本人はそっと周りを見渡し、他の人の食事にもハエが入っているかどうかを観察した。

なんていうジョークがあったのを記憶しています。これには笑ってしまいましたが、まさにこのジョークのとおり、日本人はみんなと同じだったら安心するところがありますし、行動原理は「みんなそうしているから」という傾向が強いと思います。
 たとえば、日系企業はだいたい自動車をリースするのですが、なぜ買うことを検討しないのか、いつも不思議に思います。リースにも購入にも、それぞれメリット、デメリットがありますが、日本でのメリット、デメリットがタイでもそのとおりになるとは限りません。特に自動車は、日本では消耗品みたいなところがありますが、タイでは財産価値があります。リースにはリースのメリットがありますが、購入には購入のメリットがあります。金銭的負担はリースのほうが大きいからリース会社は利益が出ているわけですが、現実問題では、金銭的負担が軽い=購入のほうがいい、という単純なものではありません。金銭面だけでなく、いろいろな要因があり、金銭的負担は大きくても、それを上回るメリットがあればリースのほうがいいでしょうし、金銭的負担を下回るのであれば、購入のほうがいいでしょう。
 リースがいいか、購入がいいか、同じ会社であっても、日本本社ではリースのほうがメリットになるが、タイ法人では購入のほうがメリットになるという場合もあると思います。日本とタイとでは、事情が若干違っているのですし、同じ会社であっても、日本本社とタイ法人とでは資金繰りが違っているのですから、日本で既成概念化されたリースのメリットがタイ法人でもそのまま当てはまるとは限りません。それらをよく考えた上でリースを選択するのであればわかるのですが、たぶん、自動的に「車はリースするもの」という一般通念だけでリースを選んでいる人がほとんどだと思います。
 何をするにしても、「一般的だから」「みんなそうしているから」ではなく、自分の価値観で判断することが大切だと思うのですが、その判断能力は、日本人は極端に低いと思います。それは日本人の弱点だと思います。

自国民としての権利
 タイの社会保険もそこそこ複雑ですし、改定も継続的に重ねられており、権利を十分に理解していれば、それなりに役に立つもので、たとえば、以前は自分が指定した病院でしか治療が受けられなかったのですが、今は社会保険に加入している病院であれば、病院間でやり取りすることで、どこの病院でも治療が受けられるようになるなど、情報通信の発達ともに、サービス面も発達してきています。
 また、労働保護法では、年間の病気休暇は30日で、30日までは会社は賃金を払わないといけませんが、30日を超えた分は、払わなくてもいいということになっていますので、30日を超えた場合、会社は賃金を払う必要はありません。しかし、だからといって労働者は無収入になるというわけではなく、社会保険事務局に申請すれば、賃金の半分を受け取ることができます。これは会社は無関係で、本人が申請しないといけないのですが、きちんと権利を理解していれば、結構役に立つものなんですよ。
 ちょっと話がそれますが、以前、就業規則を作成したとき、病気休暇の規定を

従業員は、実際の病気の期間、1年につき、30日を限度として賃金を受け取りながら、病気休暇を取得することができる。30日を超えた場合、超えた日数については、賃金を受け取ることができない。

 以上のようにしてラヨーンの福祉・労働保護局に提出しました。そのとき、役人から「30日を超えた場合、社会保険事務局から賃金の半分を受け取ることができる」という文言を付け加えろと言われたことがあります。相変わらず、変な突っ込みをしてきます。
 社会保険事務局のことは、福祉・労働保護局は関係ないだろう、賃金の半分を受け取ることができるというのは、社会保険法によるものであり、労働保護法は無関係、社会保険法は労働保護法とは無関係に改定される可能性だってある、労働保護法に基づいている就業規則に社会保険法の規定を入れるのは不適切なんじゃないのか? と反論すると、そりゃそうだが、労働者に権利を知らせるという意味で、と言ってきたので、だったら、「病気休暇が30日を超えた場合」というタイトルで別に公示を作って掲示板に貼り付けておけばいいだろう、こんな文言を就業規則に入れたら、社会保険法が改定されたとき、就業規則も訂正しないといけなくなるじゃないか、賃金の半分を受け取ることができるというのは規則じゃなく、社会保険法に基づく権利なのだから、公示という形で従業員に知らせるのが適切じゃないのか? と言うと、何も言ってきませんでした(かなり不機嫌そうでしたけど)。
 ちょっと前に、タイ人配偶者の保険のことについて、とあるお客さんの日本本社から相談を受けたことがあります。タイに赴任している日本人駐在員がタイ人女性と結婚し、タイ人である奥さんの保険についてなのですが、通常、日本人がタイに赴任した場合、駐在員も奥さんも日本本社で海外傷害保険に加入すると思います。タイ現地法人総務担当者の主張は、他の日本人の配偶者は海外傷害保険に加入しているのだから、タイ人であっても、同じように海外傷害保険に加入すべき、というものでした。それで、どうなんでしょうか?という相談を日本本社から受けたことがあります。
 福利厚生になることなので、正解というのはなく、あくまで個人的な見解なのですが、日本人と同水準で扱う必要はないと思っています。日本人の場合、他に手段がないから海外傷害保険に加入するのであって、他に手段があるタイ人は、まずはその手段を活用すべきだと思います。外国人は、労働許可証がなければ社会保険に加入することはできませんが、タイ人は自由に加入することができます。会社の従業員であれば、社会保険への加入は強制ですが、自営業、専業主婦(無職)であっても、任意で加入することができます。だったら、まずは社会保険に加入すべきだと思います。会社が負担するとすれば、その社会保険料のみで、まずはタイの社会保険に加入させ、その権利を行使させることが先だと思います。年金もあるのですから、医療以外にもメリットはあるはずです。
 私たち外国人は、許可をもらってタイに住んでいるのであり、権利があってタイに住んでいるのではありません。タイでは何の義務もない代わりに何の権利もありません。しかしタイ人は、タイでは自国民として持っている権利があります。日本でも、どこの国でも、自国民は、外国人にはない権利があるのは当たり前で、その権利を無視し、「他の日本人の配偶者は海外傷害保険に加入しているのだから、タイ人であっても、同じように海外傷害保険に加入すべき」というのは、私には受け入れられない主張です。
 タイの社会保険も、よく研究し、十分に活用すれば、結構役に立つものなのですから、自国民として持っている権利を最大限に行使することが先、話はそれから、というのが私の見解です。

まずは自主退職
 借金グルになっている従業員がいて、他の従業員から金を借りまくり、きちんと返せばいいものを、一向に返さず、おかげで従業員の人間関係が険悪になり、お互い口をきこうとしないので、意思疎通がうまくいかず、所々でこのことが原因と思われるミスが発生している、こういう場合、解雇の正当な理由になるのか、という相談がありました。何でもネットに「正当な理由なく、解雇する場合は解雇補償金を払わないといけない」と書かれていたのを見つけたとのことで、この文面からすれば、正当な理由があれば解雇補償金を払わなくてもいいが、正当な理由がなければ解雇補償金を払わなくてはならない、と受け止められますので、その人もそういう理解をしており、解雇してもいいかどうかというのではなく、正当な理由になるのか(=解雇補償金を払わなくてもいいのか)、正当な理由にはならないのか(=解雇補償金を払わないといけないのか)というのが質問の要点でした。
 根本的に理解が間違っているのですが、金さえ払えば解雇してもいいというわけではなく、正当な理由がなければ、解雇はできません。解雇は、解雇補償金を払わなくてもいい場合と払わないといけない場合がありますが、いずれも「正当な理由」を必要とし、「正当な理由」という枠組みの中で解雇補償金なしに相当するか、解雇補償金ありに相当するかを判断するものです。正当な理由なく解雇すれば、当然、不当解雇ということで、職場復帰、解雇してから復帰までの日数分の賃金を求めて、従業員が訴えることができます。
 その「正当な理由」とは何なのか?これは曖昧で、漠然としています。「こういうケースで解雇してもいいのか」「こういうケースは解雇補償金を払わなくてもいいのか、払わないといけないのか」という質問はよくあるのですが、解雇理由にはなっても、解雇補償金を払わなくてもいいほどのことでない場合(つまり、払わないといけない場合)、実質上は解雇であっても、補償金を払うことで、本人に退職届を書かせたほうが安全です。
 今回のこの質問のケースは、解雇理由にはなりませんから、自主退職を促したほうがいいケースです。借金グルになっているといっても、従業員同士でのことで、あくまでプライベートなことですから、会社がどうのこうの言えることではありません。
 借金が原因で人間関係が悪化したとしても、仕事には持ち込まず、お互いきちんと仕事をしてくれれば、会社としては、誰が誰からどれだけ借金しているかなんてことは関係ないところですが、業務に支障をきたしているということになれば、会社としても「プライベートなことだから」と見過ごすわけにはいかないところです。とはいっても、どう対処したらいいものですかねえ・・・
 現実問題では、その人の性格とか、金額とか、どこまで人間関係が悪化しているかとか、配置換えが可能かどうかとかで対処の仕方も違ってくるのでしょうが、私ならば、本人の自主退職にもっていくようにすると思います。
 プライベートなことで人間関係が悪化したとしても、仕事には持ち込まず、きちんと仕事をやってくれさえすればいいとはいっても、そういうわけにはいかないのが人間です。機械じゃないのですから、一触即発とまではいかなくても、どうあってもギスギスするでしょう。
 一切口をきこうとしないことから意思疎通がうまくいかず、業務に支障をきたしている事実だけを取り上げ、注意文書を出すこともできるでしょうが、そうなると、両者に出さなくてはならなくなります。プライベートで何が起ころうとも、プライベートはプライベート、仕事は仕事、プライベートを仕事に持ち込むな、というのが元来の裁定で、貸そうが借りようが、持ち込んでいる限り、両成敗がしかるべき対処ということになりますが、それは理屈で、そういう大人の論理が通用する人はごくわずかですから、対処方法としては、現実的ではないでしょう。
 金を貸した従業員からすれば、金さえ返せば普通に話をしてもいい、返さない方が悪いのに、なぜ自分も注意されないといけないのか、という気分になるでしょうし、借りている者は1人、貸した者は複数、その全員に対して注意文書を出せば、別の問題が起こるかもしれません。
 一切口をきこうとしないことで、貸した者、借りた者に注意文書を出し、はたして全員が改めるのか?仕事は仕事、プライベートはプライベートと、完全に感情を分けることができるのか?無理でしょうね。プライベートはプライベート、仕事は仕事、プライベートと仕事は切り離すべき、という原則に基づけば、両者に注意文書を出してしかるべきですが、そういう文明的な筋道が通用しない限り、多数派(金を貸した者)に不満を持たせることになるでしょう。
 きちんとした筋道があり、誰も反論しようがないといっても、それが即通用するわけではないのが人間で、これはタイ人とか日本人とかは関係ないと思います。
 とあるお客さんが2年前に外資系の部長をやっていた方を日本本社に招いたのですが、この方のやり方には社員の相当な反発があり、嫌がって退職した人も出たそうです。しかし、話を聞けば、もっともなことだったんですよね。
 たとえば、「なぜ、そういうことをしているのか」という問いかけを社員にしたとします。返ってくる答えは、「これまでこうやってきたのだから」という答えになっていない答えで、その方が言いたかったのは、1つ1つの作業には意味がある、自分のやっている作業が全体の業務の中でどういう意味を持っているのかを考えてやっているのか、ということです。好むと好まざるとにかかわらず、自分の意志とは無関係に外部環境は変化します。外部環境は常に変化しているのですから、これまでの方法が最善というわけではなく、往々にして非合理的になっていることが多いもので、自分のやっている作業の意味、目的をちゃんと理解していれば、もっといい方法、合理的な方法があることに気が付くと思うのですが、自分のやっていることの意味を考えようともせず、「これまでこうやってきたのだから」を固持し、改善を進めようとするその方に反発するなんてのは、お前ら、アホウか?と言いたいところですが、それが人間というものです。
 その方と直接話をしてみると、やっていることは、ごく当たり前のことでした。「1つ1つの作業には意味がある、自分のやっている作業が全体の業務の中でどういう意味を持っているのかを考えてやれ」当たり前じゃないですか。反論しようのない筋道じゃないですか。しかし、通用しない日本人もたくさんいるのですから、「タイ人には大人の論理は通用しない」なんてことは、安易に言うことではないと思います。ただし、それを「仕方のないもの」と受け止めてもいけないと思います。何もしなければ何も変わりません。ちょっとずつ、何かをしていくことが大事で、その方もまた、最初は反発がありはしても、ちょっとずつ進めていったことにより、今では反発もかなり少なくなったということですので、いきなり、ではなく、ちょっとずつ変えていくアクションが大切なのではないかと思います。
 話を元に戻しますが、ここで借りた者を解雇しようとしても、理由が成り立たないでしょう。たとえば、
 「他の従業員から金を借りまくり、一向に返済しない。そのため、従業員同士の人間関係が悪化し、業務に支障をきたしているから解雇する。」
 こんな理由付けで解雇しようとしても
 「確かに金を借りて、全然返していないが、それはあくまでプライベートでの話、自分は積極的に話しかけているが、向こうが怒って、こっちを無視しているだけ、業務に支障をきたしているのは自分ではなく、他の従業員なのではないか、自分はプライベートと仕事は切り離している、向こうが怒るのもわかるが、だからといって、それを仕事に持ち込むのは大人げない、少なくとも自分はちゃんと切り離している、それで自分を解雇するというのは、おかしいのではないか。」
 という反論がもっともなものになってきます。今では、入れ知恵をする外部のコンサルもたくさんいますから、解雇は、あとで不当解雇だとか騒がれる可能性もあるでしょう。業務に支障をきたしているという事実だけを取り上げ、「プライベートと仕事は切り離せ、仕事はきちんとやるように」と両者に注意文書を出すと、多数派の貸した者に不満を抱かせることになり、集団での残業拒否とか、何か別の問題が起こるかもしれません。
 どういうことにせよ、あとで何らかの問題が起こる可能性のあるものは解決策とはいえず、確実にそこで終わらせることのできる方法でなければ、解決策にはなりませんから、ここで確実に終わらせたいところです。となれば、本人の自主退職に持っていくのがベストでしょう。言い方はいろいろあるでしょうが、私ならば、
 「他の従業員から金を借りまくって全然返していないんだって?あなただって、人に金を貸して、返してくれなかったら怒るでしょ?誰だって怒ると思うよ。プライベートなことだから、会社がどうのこうの言うことではないかもしれないが、業務に支障が出ている限り、見過ごすことはできない、会社だって困るし、あなただって窮屈じゃないのか、居づらいのではないのか、それで仕事が楽しいのか、毎日会社に来るのが楽しいのか、憂鬱じゃないのか、仕事はチームでやるもの、良好な人間関係の中でチームは育つし、みんなもやりがいを感じるものじゃないのか、あなただって能力はあるはずだが、今の状況では、あなたの能力も十分活かされないんじゃないのか、みんなもあなたには協力しないんじゃないのか、従業員1人1人の能力が十分に発揮されないということは、会社にもマイナスになるし、その人のためにもならない、借金をきれいし、新たな環境で仕事を始めたほうがあなたも能力が発揮できるんじゃないのか、元来あなたは能力はあるんだから、他の職場に移ったほうがお互いのためになると思う、あなたもこれまで会社のために働いてきたのだから、会社はお礼として、・・ヵ月分の退職金を支払うから、それで借金をきれいし、他の職場に移ったらどうだ?あなた自身で退職届を書けば、社会保険事務局への届け出も「退職」ということになる、このまま今の状況が続いて何か問題が起これば、解雇という処分をせざるをえないこともあり、そうなると、社会保険事務局への届け出も「解雇」ということになり、あなたの履歴にキズがつくよ、お互いのためには、あなたの自主退職が一番いいと思う。」
 こういう言い方をすると思います。以上の理由付けは、以下のポイントを考えたものです。
①借金をきれいに
 金に困っている人は目先の金に弱いですから、「借金をきれいに」に食いつかせる。
②能力はある
 「本来は能力があるのに、それが活かされないのではないか」と言って、自尊心を突つく。
③退職金
 本来は解雇補償金に相当するもので、会社にとっては解雇補償金であっても「解雇補償金」とは言わず、これまで働いてくれたことに対する「お礼」にすり替え、解雇ではないという認識を持たせる。
④キズ
 社会保険事務局への届出を「解雇」にしたところでキズなどつきませんが、「それは避けたい」という気持ちを持たせる。
 以上はあくまで「私ならば」なのですが、どういう言い方にせよ、本人の自主退職に持っていくのが一番いいのではないかと思います。本人の退職届さえあれば、あとでどうのこうのという問題は起こりえず、確実にそこで終わらせることができますから、どのようなケースであれ、解雇補償金を支払わなくてもいいほどのことでない場合には、最初からいきなり解雇という強硬手段はとらず、まずは自主退職を促し、解雇はそれに応じないとき、というように、2段階に分けて対処するようにしたほうがいいと思います。どのみち払う金は同じなのですから。

出家休暇
 就業規則の作成コンサルをしていると、必ずと言っていいほど聞かれるのが出家休暇です。顧客とか取引先とか、何らかのつながりのある企業が先に進出している場合、ほとんどの企業がその企業の就業規則をもらい、それを参考に作成しようとするのですが、多くの企業がいまだに出家休暇を就業規則の中に入れています。先に進出している企業の就業規則には出家休暇が定められている、しかし、私が作成している就業規則雛形には出家休暇は書かれていない、こりゃどういうことか、単に雛形から漏れているだけなのか、それとも入れなくてもいいのか、ということです。
 このホームページに「先輩のアドバイスを疑うべし」というタイトルで掲載していますが、先に進出している企業からのアドバイスは、大いに参考になるものではあるのですが、私たちにとっては、ときに迷惑になるときもあります。法律違反になる、と説明しても、先に進出している企業からは問題ないと言われたし、実際にその企業はそれでやっていて、何の問題も起きていない、なんてのはよくあることなのですが、先に進出している企業がやっている=問題ない、とは考えないことです。単に、発覚していない、誰も指摘していないというだけのことで、「わかりゃしないだろう」と「問題ない」とは、当然のことながら、別問題です。
 出家休暇は、法律違反になるとか、そういう類いのことではありませんが、私は「法律では定められていないのだから入れる必要はない」というのではなく、「入れるべきではない」と思っています。タイ人にとっての宗教は信仰であり、日本人にとっての宗教は儀式であり、宗教の意味が違っている、とは、よく言われることで、信仰心は尊重しなきゃいけない、ということで、法律では定められていなくてもここはタイ、タイ人の信仰心を尊重し、出家休暇を入れることにしました、なんてのはよくあることです。
 これまで多くの企業の就業規則を目にしてきましたが、ほとんどが「会社の従業員である期間通じて1回のみ、15日を限度として有給での出家休暇を許可する」となっていて、そういう規定を参考にしているためか、出家休暇を入れることにしました、という場合、ほとんどが同じ文面(15日間の有給)になっています。
 タイ人男性は、1度は出家した経験がある人が多いのは事実で、ちょっと前の日本だったら「男は結婚して一人前」なんてところがありましたが、タイでは「男は出家して一人前」なんてところがあるのかもしれません。また、タイ人のIDカードには、氏名、生年月日、住所だけでなく、信仰する宗教も書かれていたりなど、確かにタイ人にとって宗教は、日本人とは全然違っているのかもしれません。人の信仰は自由、信仰心は尊重しないといけない、もっともなことなのですが、「出家休暇」として就業規則に定めるべきことではないと思います。
 「出家休暇」は誰を対象としているのか?仏教徒ですよね?確かにタイ人は、仏教徒が大半かもしれませんが、イスラム教徒もキリスト教徒もいます。現にうちの従業員の1人はイスラム教徒です。信仰の自由を認め、信仰心を尊重するのであれば、多数派であろうが少数派であろうが関係なく、同じように尊重すべきで、特定の宗教を差別することがあってはいけませんし、逆に優遇措置を与えてもいけないと思います。仏教徒が多数だからといって、仏教徒だけを対象とした有給休暇なんて、他の宗教にとっては差別的規定で平等性に欠けています。
 規定というのは、法律違反かどうかということだけでなく、平等か不平等かということも考えないといけず、出家休暇は、法律違反という観点からでは何の問題もありませんが、平等性という観点からみれば問題ありなのですから、就業規則には入れるべきではないでしょう。法律で義務付けられていないのも、たぶん、同じ理由なのではないかと思います。
 たまに、出家休暇を有給で認めてほしいという要求が従業員からきたが、どうすればいいか、認めたほうがいいのか、という相談を受けることがあるのですが、休暇は認めたとしても(処罰の対象にはならない、その休暇で不利益な扱いを受けることはない)、無給にすべきでしょう。
 各人の信仰の自由を認め、信仰心を尊重するからこそ、特定の宗教を対象とした休暇なんて、就業規則に定めてはいけないと思います。

BOI認可申請がウェブ申請に
 今年1月からBOI認可申請が全面的にウェブ申請になりました。
 ウェブ申請は、昨年10月から導入され、昨年10月から12月末までの3ヵ月間は移行期間、猶予期間ということで、従来どおりの紙ベースでも可能だったのですが、以降はすべてウェブ申請になります。早速、昨年11月にウェブ申請にトライしたみたのですが、申請内容はそのものは紙ベースのときと全く同じなので、入力自体に戸惑うことはなかったのですが、利用登録、システムの使い方を理解するのに少し時間がかかりました。
 利用登録は、法人、個人(タイ人)、個人(外国人)の3種があり、すでにタイ法人を設立している場合、まだ設立していない場合、申請者が直接申請する場合、第3者に委任して申請する場合などで利用登録の仕方が違ってきます。また、解釈が通常の解釈とは違う語句もあり、たとえば「事業名」という入力欄があるのですが、業種ではなく、会社名(事業所名称)を入力します。その他、「サイト利用申請者」など、お客さんなのか、受任者である私なのか、誰をどの欄に入力すればいいのかということを理解するのに少し時間がかかりました。
 一通り入力し終わって送信ボタンをクリックすると、商務省とのネットワークができているようで、「商務省のデータベースと照会中」なんていう画面になりました。照会が完了すると、「登録完了間近です。登録したメールアドレスに送信したメールから登録を完了させてください」という画面になり、送られてきたメールをクリックして、登録完了でした。その後の作業は申請内容の入力で、うまくシステムが扱えず、エラーが出たりなど、多少の試行錯誤はありましたが、何とか無事に申請できました。  紙ベースのときには、申請書だけでなく、親会社の紹介、製品の詳細、機械リスト、生産工程なども書類も一緒に提出していましたが、ウェブ申請になっても同様で、PDF、JPEGなどのファイルで添付でき、基本的には紙ベースのときと全く同じです。
 送信が完了すると、入力した事項が自動的に申請書にまとめられますので、それをダウンロードします。担当官やインタビューの日時も、すべてサイトで確認できますので、インタビューのときには、ダウンロードした申請書をプリントアウトし、親会社の紹介、製品の詳細、機械リスト、生産工程など、添付ファイルとして送信した資料もすべて持参します。
 利用登録、申請提出は、以下から可能です。
www.boi.go.th → BOI Online Service → e-Investment Promotion

年金と退職金
 タイは、日本のような年金がないと言われていますが、実はあります。社会保険法は1990年に施行されましたが、当初は医療にとどまるもので、年金はありませんでした。その後、1998年に改定され、年金、退職金が定められましたが、初の受給者は2014年で、現在までの受給者の総数は87,000人とのことです。新しいものですし、受給者の総数もわずかですから、まだ十分に知られていないようで、タイ人ですら、ほとんどがまだ知らないのではないかと思います。

【年金】
 受給資格は、
①満55歳以上。
②社会保険料の納付期間が通算180ヵ月以上であること。
③社会保険を脱退していること。
 以上のとおりで、最後の60ヵ月の社会保険計算ベース額の平均の20%が1ヵ月あたりの受給額になります。満55歳になり、通算180ヵ月以上納めていても、いまだ会社の従業員で、社会保険に加入している場合には受け取れません。
 給料ではなく、社会保険計算ベース額であり、社会保険計算ベース額は、給料が30,000バーツでも70,000バーツでも15,000バーツが上限となりますので、1ヵ月あたりの受給額は、3,000バーツ(15,000×20%)が最高となります。ただし、180ヵ月以上、社会保険料を納めている場合には、180ヵ月を超えた分(年換算)に1.5%を掛けた数字を合計した率で計算されます。 たとえば、240ヵ月(20年間)納めたとします。この場合、
     240-180=60ヵ月
     60÷12=5年
     5年×1.5=7.5%
     20+7.5= 27.5%
1ヵ月の受給額は、
     15,000×27.5%=4,125バーツ
となり、死ぬまで受け取ることができます。

【退職金】
 受給資格は、
①満55歳以上。
②社会保険料の納付期間が180ヵ月未満であること。
③社会保険を脱退していること。
 以上で、社会保険料の納付期間が180ヵ月未満の場合に受け取ることができるものです。年金は死ぬまで毎月受け取れますが、退職金は1回限りのもので、受給額は、これまでに納めた社会保険料全額と数パーセントの特別金です。特別金は年によって率が異なり、それぞれの年に納めた社会保険料をその年の率で計算して合算するのですが、今年は3.5%のようですので、便宜上、一律3.5%とし、納付期間120ヵ月、給料20,000バーツとすると、
     120×1,500=180,000バーツ
     180,000×3.5%=6,300バーツ
     180,000+6,300=186,300バーツ
以上が受給額となります。

 日本では、現在のところ、納付期間が25年未満であれば、全く受け取ることができませんが、タイでは、自分が払った分は受け取ることができます。もし、日本のように規定納付期間に達していなければ一切受け取ることができないとすれば、たぶん、嫌がって払おうとしない人が多数出てくることから、自分が払った分だけは保証しますよ、ということなのかもしれません。
 180ヵ月未満の場合、支払った社会保険料の全額が受け取れるというのであれば、180ヵ月以上納めている場合、年金か退職金か、好きなほうを選択できるようにすればいいと思うのですが、選択はできず、180ヵ月以上は年金のみとなります。
 私の場合、会社設立は2004年9月17日で、以降、社会保険料を納めていますから、55歳となる5年後の2021年までこのまま納め続けるとすると、198ヵ月(16年6ヵ月)納めることになります。そうすると、1ヵ月の受給額は、3,225バーツ(15,000×21.5%)ということになります。もし179ヵ月納め続けて社会保険を脱退すると、
     268,500(179×1,500)+9,397.50(268,500×3.5%)=277,897.50バーツ
以上を受け取ることができます。
 このまま納め続けて3,225バーツのわずかな年金を毎月受け取るか、179ヵ月でストップさせて277,897.50バーツというそこそこまとまった退職金を受け取るか、どう考えても退職金のほうでしょう。たぶん、同じ選択を迫られたら、ほとんどの人が退職金を選ぶのではないかと思います。これは外国人でも受け取れます。もし年金のほうを選択し、日本に戻り、タイに住まないことになったらどうなるのか?と役所に聞いてみると、日本に戻ってもかまわない、銀行口座をそのままにしていればそこに振り込む、ということでした。だったら、私が死んでもわかりゃしないのですから、死んだことを役所に届け出ず、そのまま誰か別の人が国際キャッシュカードで引き出し続けることができるじゃないかと思ってしまうところで、たぶん、いずれはこういうヤツが出てくると思います。月わずか1万円でも、ないよりはマシでしょうから。
 180ヵ月を超えてしまうと自動的に年金になってしまいますので、間違って180ヵ月を超えてしまわないように気を付けておかないといけないところです。

「有利」と「不利」
 就労ビザは、正しくは「Non-Immigrant(B)」といいますが、直訳すると「非移住者(ビジネス)」ということになります。「非移住者」というのは、わかりやすくいえば、タイ国籍を持っていない者、永住権を持っていない者を指し、タイ国籍を持っていない、あるいは永住権を持っていない者が働くことを目的としたビザが「Non-Immigrant(B)」です。
 「非移住者」は、留学とか、家族滞在とか、定年後、物価の安い国でのんびり暮らしたいとか、必ずしも働くことを目的としているわけではありませんので、「Non-Immigrant」にはBだけでなく、Oとか、Fとか、EDとか、いろいろあり、「非移住者」は、自身の滞在目的に従って、Non-Immigrantの中の該当するカテゴリーで滞在許可を申請することになります。
 「Non-Immigrant」にはB、O、ED、IB、F、M、Rなど、いろいろあるのですが、通常、私たちに関係しているのは、B、O、IB、この3種でしょう。
 「B」が一般に「就労ビザ」と呼ばれているもので、タイで働こうという場合、必ず持っていないといけないビザです。Non-Immigrant(IB)というのもあるのですが、Non-Immigrant(B)から派生したもので、基本的にはNon-Immigrant(B)と全く同じです。「IB」の「I」は、「Investment」なのですが、BOIが絡んでいる場合はNon-Immigrant(IB)、絡んでいない場合はNon-Immigrant(B)で発給されます。これは、最初にタイ大使館(領事館)でNon-Immigrant(B)を申請する際にBOIからのレターを出すか出さないかにすぎず、BOI企業かどうかということではありません。
 タイで就労しようとする場合、一般企業であれ、BOI企業であれ、タイ入国前にタイ大使館(領事館)にNon-Immigrant(B)を申請しておかなくてはいけませんが、通常に申請した場合はNon-Immigrant(B)が発給されます。BOI企業であっても、通常に申請し、Non-Immigrant(B)をもらい、それで入国しても全く問題ないのですが、BOIにはビザ発給協力要請というのがあり、「こういうことのためにこの人物をタイに入国させたいので、ビザがスムーズに発給されるよう、協力してください」というものです。だいたいほんの数時間でレターを発行してくれるのですが、このレターを提出してNon-Immigrant(B)を申請した場合、Non-Immigrant(IB)となります。
 最近では、タイ大使館(領事館)も厳しくなり、ノービザでの渡航履歴が多い場合、先に労働許可証を申請し、その受理票を持って来い、とか、タイ渡航の全日程について、会社からの休暇証明を持って来い(ノービザなので仕事ではなく、観光ということになりますので)、とか突っ込まれ、簡単には発給してくれないようになりましたが、このようなとき、BOIからのレターを出せば、そのようなものは必要なく、簡単に発給してくれます。タイ大使館(領事館)での申請に何の問題もなければ、IBなど不要なのですが、ノービザでの渡航履歴が多く、引っかかった場合は有効な手段ですから、覚えておくとよいでしょう。
 タイで働こうという場合、就労ビザであるNon-Immigrant(B)か、(IB)を持っていないといけないのですが、タイ人と結婚していれば、「O」のカテゴリーでも労働許可証を申請することができます。
 「O」というのは範囲が広く、駐在員の奥さんとか、子供とかもこのOですし、タイ人を配偶者に持つ場合もこのOです。定年後、タイでのんびり暮らしたい人向けに「リタイアメントビザ」と呼ばれるものがありますが、これもまたOです。
 タイで働こうという場合、通常はNon-Immigrant(B)ということになりますが、タイ人と結婚している場合はNon-Immigrant(O)でも労働許可証を申請することができます。タイ人と結婚していない場合、Non-Immigrant(B)に限られますが、タイ人と結婚している場合、Non-Immigrant(B)でもNon-Immigrant(O)でも、どちらでもかまいません。どちらでもかまわないのですが、一般企業の場合、Immigrant(B)よりもNon-Immigrant(O)のほうが圧倒的に楽です。
 Non-Immigrant(O)で労働許可証を申請する場合、資本金が100万バーツでOKとか、特例措置が適用され、Non-Immigrant(B)で申請するよりは、はるかに楽です。特に延長する場合がNon-Immigrant(B)よりもはるかに楽です。Non-Immigrant(B)の延長は、会社関係書類を大量に提出しないといけず、審査も厳しいのですが、Non-Immigrant(O)の延長は、基本的に会社関係書類は必要なく、夫婦あわせて月4万バーツ以上の収入があればOKです。月4万バーツ以上の収入がなくても、2カ月以上連続して80万バーツ以上の預金があればOKです。
 などなど、タイ人配偶者がいればかなり楽になり、私なども、タイ人のヨメさんがいたら楽になるのになあ、なんていつも思っています。ただし、あくまで一般企業での話であって、BOI企業では関係ありません。BOI企業では、Non-Immigrant(B)であろうが、Non-Immigrant(O)であろうが、全く違いはありません。
 印刷物やウェブなどでは「タイ人配偶者がいたら有利」と書かれていることもあり、現在持っているNon-Immigrant(B)からNon-Immigrant(O)に切り替えたがる人がたまにいるのですが、一般企業であれば、「タイ人配偶者がいたら有利」の「有利」の部分がダイレクトに享受できるので、切り替えたほうがいいでしょう。しかし、BOI企業の場合、切り替えるメリットなど、何もありません。
 駐在員としてタイに来て、タイ人スタッフとできちゃった、なんてのはよくあることで、籍を入れたあと、Non-Immigrant(O)のほうが有利と聞いたので、Non-Immigrant(O)に切り替えてほしい、という依頼を受けることもたまにあり、実際、昨年もお客さんからそういう依頼を受けました。
   一般にNon-Immigrant(O)が有利であるとされるのは、

●資本金が100万バーツでもOK
●タイ人従業員が4人いなくてもOK
●夫婦あわせて4万バーツ以上の月収があればOK

などの理由によります。
 BOIから認可を受けると外国人の就労面での恩典がありますが、申請すれば誰でもOK、無条件でOK、という性質のものではなく、BOIが認めれば、他の規定は関係ない、というのがその恩典の性質です。
 この恩典は、実務上では、

●BOIの最低投資額は100万バーツなので、資本金100万バーツで労働許可証が申請できる。
●タイ人と外国人の割合は関係なく、タイで就労する必要性が認められればOK。
●タイでの生活費をどうするのか(たとえば、日本本社から海外赴任手当を受け取っている、など)ということが説明でき、BOIが認めれば、タイでの給与は0でもかまわない。

 以上のように反映され、実際に得られるメリットは、Non-Immigrant(O)と変わりありません。
 一般企業では、確かにNon-Immigrant(O)のほうが有利なので、現在、Non-Immigrant(B)を持っていたとしても、Non-Immigrant(O)に切り替える意味はありますが、BOI企業では、すでに持っているNon-Immigrant(B)をわざわざNon-Immigrant(O)に切り替える意味はありません。
 Non-Immigrant(O)はあくまで例にすぎませんが、どのようなことであれ、「有利」といっても、すべての人に通用するわけではないと思います。「有利」と聞くと、誰しも本能的にそのとおりにしたがるものですし、逆に「不利」と聞くと、避けようとするものですが、「有利だから」といってそのとおりにしても、実際のところ、全く意味がなく、いたずらに無用な経費、労力、時間を費やすだけになってしまうかもしれません。場合によっては、「意味がない」だけでなく、「損失」を引き起こす場合もあると思います。逆に「不利」だからといっても、やはり各人の状況によっては、「利益」になることもあると思います。
 そもそも「有利」「不利」というのは、ある特定事項の比較で言うことであって、全体的な「利益」「損失」の一要因にすぎず、重要なのは、全体の「利益」「損失」なのですから、「利益」「損失」という大局から「有利」「不利」の個別事項を検討すべきではないかと思います。
 先のNon-Immigrant(O)を例にしますと、タイ人配偶者を持っており、これからタイで働こうとする場合、一般企業であれば、Non-Immigrant(B)よりもNon-Immigrant(O)のほうが有利であることは確かです。しかし、Non-Immigrant(O)のほうが有利だからといって、Non-Immigrant(O)で入国し、Non-Immigrant(O)で労働許可証を申請することが「利益」になるかというと、必ずしもそうとは限らず、夫婦関係次第では「損失」を引き起こすこともあります。
 たとえば、夫婦関係が冷めており、離婚の可能性をすでに自覚している場合、あるいはすぐさま離婚するつもりはないものの、いずれは離婚しようと思っている場合には、Non-Immigrant(O)ではなく、最初からNon-Immigrant(B)のほうが無難でしょう。
 最初にNon-Immigrant(O)で入国して労働許可証を申請し、さらにNon-Immigrant(O)を延長したとします。そして離婚したとします。Non-Immigrant(O)というのは、タイ人配偶者がいることで成り立っているビザなのですし、そのビザで労働許可証も発行されているのですから、離婚すれば、当然それらは失効し、1からやり直さなくてはならなくなります。ところが最初からNon-Immigrant(B)にしておくと、離婚しても、ビザも労働許可証も失効しませんので、痛くも痒くも何ともありません。
 Non-Immigrant(O)でないと労働許可証が申請できない場合は仕方ありませんが、Non-Immigrant(B)でも可能である場合、私はいつも、「失礼ですが」という前置きであえて夫婦関係のことを尋ねているのですが、離婚を視野に入れているという場合には、Non-Immigrant(B)のほうが無難です。
 労働許可証申請、ビザ延長という事項だけを見れば、確かにNon-Immigrant(B)よりもNon-Immigrant(O)のほうが「有利」ですが、Non-Immigrant(O)は、単独では維持できないという欠点がありますから、その「有利」を享受してしまったために、のちのち時間も経費も労力もかかる「損失」を引き起こすことになるかもしれません。一方、Non-Immigrant(B)は、単独でも維持できるのですから、プライベートで何が起ころうとも、タイでの就労に全く影響がないという「利益」を生み出すことになるかもしれません。
 Non-Immigrant(O)の「有利」が「損失」を引き起こすか、Non-Immigrant(B)の「不利」が「利益」を生み出すか、そんなことは、人それぞれの状況で変わるのですから、「有利」だからといってそのとおりにする、あるいは「不利」だからといってそれを避けるのは、短絡的な発想だと思います。
 もう1つ例を挙げますと、2015年1月からBOIの制度が変わりましたが、以前の制度では、恩典は地域別でした。さらに工業団地内か団地外かでも恩典が異なっていました。そのときよくあったのは、「工業団地外であれば、法人税免除期間が短くなって不利だ」です。確かに法人税免除期間という特定事項だけを見れば、工業団地内のほうが有利なのですが、だからといって、それが全体的に利益になるのかというと、そういうわけではないと思います。
 事業内容によっては、工業団地のような立派な工場である必要はなく、ちょっとした町工場程度で十分な場合もあります。工業団地内のレンタル工場と工業団地外のレンタル工場とどちらが安いか? 法人税免除期間の差とレンタル工場の家賃の差を比較したとき、工業団地外のほうが「利益」になる場合もあります。 法人税免除期間が長くなるという「有利」を享受しようとすれば経費が増えます。逆に法人税免除期間が短くなるという「不利」を受け入れれば経費が節約できます。どちらが利益になるのかは、各企業の事業規模などにより、異なってきますが、「不利」を受け入れることが「利益」になるのは、不自然なことではないと思います。
 「有利」「不利」と「利益」「損失」は全く別問題です。考えるべきことは全体の「利益」であり、特定事項の「有利」「不利」は、あくまで「利益」の一要因にすぎません。「有利」が実質上は損失を引き起こすことは、私たちの日常生活でも、多々見受けられると思います。
 たとえば、大安売りがあったとします。「大安売り」は、何が「有利」なのかというと、「通常よりも払う金が少なくてすむ」ということになるのでしょうが、その「有利」にこだわり、不必要なものまで買ってしまって「利益」になるのでしょうか? 子どももいないのに、安いからといって大量に紙おむつを買うバカはいないでしょうが、普段は気にならなくても、実際にその商品を目にすると、あればいいかな、と気になり始め、いつもよりもずっと安くて得だから、ということで買ったはいいが、結局、何の意味もなかった、なんてのは、誰にでも経験がある、というより、日常的なことではないでしょうか。
 「半額だから払うお金が半分ですんで有利」は、値段という特定事項についてのみ言っているだけで、半額だろうが、70%オフだろうが、タダではなく、お金を払うわけですから、その分、お金が少なくなるのは当たり前です。本当にその物が必要であれば「払うお金が半分ですんだ」は、残りの半分が「利益」になるでしょうが、自分には不要なものだったら、「半額であってもその分損した」ではないのでしょうか?
 「払うお金が半分ですんで残りの半分が節約できた」になるか、「余計な物を買って損した」になるかは、その人にとって、その物がどれだけ必要性があるかによりけりですよね?
 全く同じ銘柄で一升瓶とワンカップ、どちらが「有利」か? 一升瓶は1本2,000円、ワンカップは1個230円、一升瓶1本=ワンカップ10個、2,000円と2,300円、どちらが「有利」か? 言うまでもなく、一升瓶のほうが「有利」です。では、一升瓶のほうが「利益」になるのかというと、その人の飲酒スタイルで「利益」にはならないときもあるでしょう。
 たとえば、私のように、酒が好きだが酒に弱く、毎日100mlぐらいの場合、一升瓶のほうが「利益」になるでしょうが、毎日1合でやめておきたい場合、ワンカップのほうが「利益」になるかもしれません。
 毎日100ml飲めば、一升瓶は18日で消費されます。毎日1合飲めば10日で消費されます。しかし1日1合と決めていても、一升瓶であれば、ぴったり1合というわけにはいかず、ついつい「もうちょっと」となってしまうもので、7日で一升瓶がカラになってしまうかもしれません。しかし、ワンカップであれば、「もうちょっと」と思っても、新しい瓶を開けようとまでは思わないでしょう。つまり、ワンカップ10個の消費日数は、確実に10日になるわけです。
 一升瓶を7日で消費すれば、1日あたり285.71円、ワンカップ10個を10日で消費すれば、1日あたり230円、一升瓶は、値段は「有利」ですが、1日1合でやめておきたい人には「損失」になっているじゃないですか。
 一升瓶が有利かつ利益になるか、有利だが損失になるか、ワンカップが不利だが利益になるか、これもまた、その人の飲酒スタイルによるとしか言いようがないですよね?
 私たちの日常生活では、こういうことが溢れており、「有利」が「損失」を引き起こすこともあれば、「不利」が「利益」になるときもあると思います。「利益」か「損失」か、そこには自分の価値観も大いに関係しており、「有利」というのでれば何が有利なのか、「不利」というのであれば何が不利なのか、それを自分の価値観と照らし合わせ、「利益」「損失」という大局から判断することが大事だと思います。

従うべきは法律
 タイでは祝日が飛び石になっている場合、年初には平日としていながらも、いきなり政府から「この日は休日とする」という公示が出るときがあります。たとえば、ある月、ある週の火曜日が祝日だったとします。間の月曜日は、最初は平日としていながらも、この日は休みとする、として、4連休にしてしまうことがあります。こういうときによくある質問が「この月曜日は当初は勤務日だったのだが、休日扱いとし、休日勤務手当を出さないといけないのか」です。また、タイ人従業員も「この日は休日になったのだから、休日勤務手当を出さないといけない」と言ってくることが多いようなのですが、民間には、というより、別組織には関係ないんですよ、こんな休日。
 政府が勝手に「この日は休日にする」と言っているだけで、公務員が休みになるというだけのことです。公務員は、この日勤務すれば、休日勤務手当が受け取れますが、民間がこれに従う必要はありません。たとえば、顧客が何かの都合でいきなりある日を休日にしたとします。そんなとき、「顧客が休日にしたのだから、うちも休日にしなくてはいけない」こんなことを言うのと全く同じことです。
 そもそも、年13日以上の祝祭日を定めていれば、いつを休日にするかなんて会社次第で、政府のカレンダーに従う必要はありません。政府のカレンダーでは祝祭日であっても、その日は勤務日にすることもできますし、平日であっても、祝祭日にすることもできます。
 祝祭日はカレンダーどおりに定めなくてはならない、一旦はカレンダーどおりに定め、他の日にする場合は従業員から同意が必要、なんていう誤解もあるのですが、関係ないです。
 世間が休みのときに勤務し、世間が勤務しているときに休みにすると、家族、友人等との付き合いにどうしてもギャップが出てきて、従業員が嫌がり、人が集まりにくくなりますから、できればカレンダーどおりにしたほうがいい、というだけのことで、いつを祝祭日にするかは、会社が自由に決めることができます。一旦、この日を休みにする、として、他の日にする場合には、従業員の同意が必要になりますが、最初に決めるときには、従業員の同意なんて要りません。
 会社は、あくまで年13日以上の祝祭日を定めていればよく、政府のカレンダーに従う必要はありません。政府がこの日は休みにするからといって、民間もそれに従う必要は全くありません。
 数年前、公務員の大卒最低賃金が15,000バーツに引き上げられたのですが、このときよくあったのが「大卒の最低賃金は15,000バーツになった」という誤解です。タイ人従業員のほうからも、わかって言っているのか、本当にそうだと思い込んで言っているのかはわかりませんが、「大卒の最低賃金が15,000バーツに引き上げられたのだから、大卒全員の給与を上げないといけない」と言ってくるケースが多発しました。
 これも休日と全く同じで、法律で中卒以下はいくら、高卒はいくら、大卒以上はいくら、というように、学歴によって最低賃金が定められたのであれば、それに従わないといけないでしょうが、政府が勝手に公務員の大卒最低賃金を15,000バーツにしたというだけですから、民間には関係ないことです。
 政府機関とはいえ、一組織にすぎません。一組織がこの日を休日にするからといって、別組織が休みにしなくてはならないなんてことはないのですし、一組織が大卒給与を引き上げたからといって、別組織が同額に引き上げないといけないなんてこともありません。
 従うべきは法律であって、政府機関の内部規定ではありません。

根拠は明確に
 よくある質問の1つとして、「従業員がこういう違反をしたが、解雇してもいいか」というのがあります。解雇してもいいか、と尋ねられても、会社にとって、その違反がどの程度の重大性を持っているかによりけり、会社の判断になるのではないでしょうか、としか答えられないんですよね。
 どこの会社も、就業規則には以下の文言があるのではないかと思います。

【罰則】
 従業員は、厳格に就業規則、会社の規定、会社又は管理者の合法的で正当な命令に従わなければならず、違反したとき、会社は、違反の性質、重大性に従って、以下のとおり、処罰を検討する。
(1)口頭での注意
(2)文書での注意
(3)停職
(4)解雇

【代償金を支払わない例外事項】
 会社は、以下のいずれかの場合によって解雇する従業員には、代償金を支払わない。
(1)職務に対する不正、会社に対する意図的な刑事犯罪を行った場合。
(2)意図的に会社に損害を与えた場合。
(3)過失により、会社に重大な損害を与えた場合。
(4)就業規則、規定、あるいは合法的で正当な会社の命令に違反し、会社がすでに文書で注意してある場合。ただし、重大である場合、文書で注意する必要はない。注意文書の有効期間は、従業員が違反をした日から1年間とする。
(5)休日を挟んでいる、挟んでいないにかかわらず、適切な理由なく、3日連続して職務を放棄した場合。
(6)禁錮刑の確定判決を言い渡された場合。これについては、過失、軽犯罪によるものを除くが、過失、軽犯罪によるものであっても、会社に損害を与えた場合、会社は、代償金を支払うことなく、解雇することができる。

 「違反の性質、重大性に従って」「会社に重大な損害を与えた場合」、とありますが、どういう違反が重大なのかについては、法律では、全く触れられていません。こんなことをスタンダード化することは、最初から無理ですから、それぞれの会社の判断に委ねられています。
 全く同じ行為であっても、会社によって重大性が異なってくるのは当たり前で、たとえば、工場敷地内で立小便をしたとします。自動車部品を作っている会社と、食品を作っている会社とでは、重大性が異なってきますよね。食品工場であれば、

 食品を作っている工場の敷地内でトイレ以外の場所で糞尿をたれるとは言語道断、食品にかかる、かからないの問題ではない、食品を作っている工場で働いているという自覚のなさが問題、また近所の住民が目撃したらどう思うか、衛生には人一倍、注意を払わなくてはならない食品工場で働く者としては失格。

 という主張も、正当性があるものとして認められるでしょう。
 会社側の日ごろからの従業員に対する意識付けも重大性の判断には影響してくるものです。
 規則には、単に会社の規定に違反しただけのものもあれば、法律に違反しているものもあります。たとえば、病気でもないのに病気休暇を届け出たとします。病気休暇というのは、有給で年間30日を認めないといけないことになっているわけですが、当然病気の場合に限っているもので、所用の場合は有給休暇を使うか、有給休暇がないのであれば、こういう事情で休みがほしいと会社に検討を求め、無給で認めてもらうことです。
 病気でもないのに病気休暇を届け出るというのは、会社の規則に違反したというのではなく、立派な刑法犯(詐欺)なんですよね。
 詐欺は刑法第341条に定められているのですが、

第341条
 虚偽の内容を示して、又は告げるべき真実を隠して他の者を欺き、その者又は第3者の財物を得た、あるいは権利書を作成させた、取り下げさせた、破壊させた者は、詐欺の罪となり、3年未満の禁錮又は6千バーツ未満の罰金、もしくはその併科に処する。

 病気でもないのに病気休暇を届け出るのは、ぴったりあてはまっていますよね。
 有給休暇は、消化しなければ翌年に持ち越すか、買取しなくてはいけませんし、持ち越し分があって退職する場合は、その分のお金を払わないといけません。有給休暇は金銭に換えることができるもので、それを使わず、病気休暇を届け出るというのは、まさに、虚偽の内容を示して、他の者(会社)を欺き、その者の財物(その日の賃金)を騙し取った、ことになるんですよ。
 だからといって、1回目で即解雇できるのかというと、会社がきちんと説明してあったかどうかによりけりでしょう。虚偽の病気休暇は、大して重大な違反とは思っていない人がほとんどで、そんな意識のとき、1回目で即解雇は、そんなに重大な違反だとは思っていなかった、もう二度とやらないからチャンスをくれ、ということになるでしょうし、たぶん、役所も、1回目で解雇は不適切、警告を与えた上で雇用を継続すべき、という判断をすると思います。
 ところが最初から、「虚偽の病気休暇は、虚偽の事実を示して会社を欺き、得るべきではない金銭を得ようとする行為であり、刑法第341条に抵触する行為である。いかなる諸事情があろうとも、虚偽の病気休暇を届け出る必要性が発生することはありえないことから、これが発覚したとき、会社は、直ちに解雇を検討する」と、強い警告を掲示板に張り付けておけば、1回目で解雇しても、「最初から警告してあるはず」と主張できるでしょう。
 虚偽の病気休暇という全く同じ行為であっても、最初から警告しているか、していないかによって、処罰の仕方は異なってきます。
 会社の方針、理念を大きく打ち出しておくことも大事なことです。大きく打ち出しておくことにより、スローガンとして掲げているとおり、当社の理念がこうであることは、従業員にも周知徹底しているはず、この違反は会社理念に直接逆らうものであることから、重大違反とみなす、と根拠を持って判断できるのではないでしょうか。

法律と内部規定
 ちょっと前のことなのですが、知り合いから、こういうケースはどうなのか、ということで相談を受けました。その知り合いも自分のところではなく、知り合いの会社で起きたことなのだそうですが、何でも、業者へのお金の支払いでメッセンジャーを銀行に行かせたところ、窓口の行員がスマホをいじくっていたか何かできちんと確認せず、間違ってかなり多くのお釣りを渡してしまったそうです。その後、間違って渡したことに気付いた行員がすぐに連絡してきて、差額分を返すように言ってきたそうですが、メッセンジャーは、ない、もう使った、間違ったのはそっちじゃないか、と開き直ったそうです。メッセンジャーは、強盗したわけではないし、不正な手段でごまかしたわけでもない、行員が間違って渡したのだから、悪いのは行員、自分は悪くない、そう思っていたから、しらばっくれず、行員がお釣りを多く渡したことは、素直に認めたのでしょう。上司である日本人もまた、確かに倫理上はそのときに返さないといけないのだろうが、間違った行員のほうが悪いのだから、こっちが責任を取る必要はない、と銀行側に言ったところ、銀行側が、じゃあ被害届を出し、差額分を請求させてもらいますよ、と言ってきたそうです。その日本人は現地採用者で、タイ人の奥さんがおり、たまたま奥さんが銀行に勤めていたので奥さんに確認したところ、奥さんが「行員は、お客さんの目の前でお金を数え、お釣りに間違いがないことをお客さんと一緒に確認しないといけない、そういう規定になっているはず」と言ったことからその日本人も勢いづき、銀行にはこういう規定があるはず、その規定を守らなかったそっちが悪い、被害届を出すなら出せ、こっちは悪くないんだから、そんな要求には応じられない、と強気で言ったそうです。
 これ、もし裁判をやれば、銀行側が余裕で勝ちます。なぜかというと、行員は「悪くない」からです。
 銀行には、お客さんの目の前でお金を数え、お客さんと一緒に確認しなくてはいけない規定があるかもしれませんが、それを怠ったとしても、行員は「悪くない」です。ですから、「悪いのはそっちじゃないか」という主張は通りません。
 「悪いか、悪くないか」は「法律に違反しているか、していないか」ということなのですが、お客さんの目の前でお金を数え、お客さんと一緒に確認するのは、銀行内部の規定であって法律ではありません。何らかの法律に「第・・・条 銀行の被雇用者として働き、一般国民の金銭を数える、支払う、預かるなどの業務を行うものは、金銭を受け取る、あるいは支払うたびに、一般国民の面前にそれらの金銭を提示し、誤りがないことを確認させなければならない。」こういう条文があれば、そりゃ行員が「悪い」でしょう。「法律違反」なのですから。しかし、どのような法律にも、そんなことは定められていないのですから、外部の人間が内部規定を引用し、「悪いのはそっちじゃないか」なんてこと、主張できないんですよね。
 たとえば、前を歩いている人が財布を落としたのを目撃し、その財布を拾ったとします。ところが相手がすぐに財布を落としたことに気付き、返してくれ、と言ってきたとします。そこで、確かにあなたの体から落ちるのは見たが、1度地面に落ちたものだから、落ちていたものだ、だから拾った自分のものだ、こんな主張が通りますか? 「たとえば」と書きましたが、「たとえば」ではなく、法的には全く同じことなんですよ。
 その人の体から落ちただけで、状況からして所有権、占有権を放棄したのではないことは、普通の社会生活を営む良識人であればすぐにわかることです。ですから、「財布を落としましたよ」とすぐに教えてあげないと軽犯罪になりますし、そのまま財布をちょろまかせば窃盗罪になります。
 行員がお釣りを間違えたことは、一目瞭然、気が付かなかったのであればともかく、気が付いていたのですから、そこで「間違えてるよ」と言わないと軽犯罪になりますし、そのまま差額分をちょろまかせば窃盗罪になります。
 行員は、銀行内部の規定に違反しましたが、法律には違反していません。しかしメッセンジャーは、法律に違反しています。銀行は、すぐに返してくれと言ってきました。時間が経っておらず、認知してからすぐに言ってきたのですから、占有権が離脱したとはされず、メッセンジャーは、窃盗罪になってしまいます。
 内部規定が法的な争点として効力を持つのは、双方に適用される場合に限られます。たとえば、この行員が今回だけでなく、これまでにも何度かお釣りを間違ったことがあったとします。そこで銀行が注意力散漫、お金を扱う業務に携わる適性なし、として、解雇したとします。そして行員が不当解雇で訴えたとします。こういう場合、当然銀行は内部規定を引用することができ、裁判という場で内部規定を争点にすることができます。
 内部規定は内部の人には適用されますが、外部の人には適用されません。一方には適用され、もう一方には適用されない規定など、裁定の判断基準になりえるわけはなく、双方に適用されるもの、すなわち法律が裁定基準になるのですから、法律違反をしていない行員、法律違反をしたメッセンジャー、どっちが正当なのかは、争うまでもないことです。
 「悪いのはそっちじゃないか」というのは、自分にも適用され、相手にも適用される枠組み中で有効な主張なのですから。

海外研修承認申請
 従業員を日本本社に研修に行かせる場合、海外タイ人労働者管理事務局(労働省)に申請して、承認をもらわないといけません。申請には、45日未満の海外研修と45日以上の海外研修とがあるのですが、ほとんどが45日以上になるのではないかと思いますので、ここでは45日以上の申請について、ご説明いたします。
 ここで素朴な疑問なのですが、海外研修なんて、企業と労働者が合意し、日本の入管が滞在許可を出せば、タイがどうのこうのいうことではないのではないか、海外で働いているタイ人はたくさんおり、タイ人が自由に海外に渡航できないなんてことはなく、どこに行くかなんてことは、国民の自由、基本的人権じゃないのか、相手国が入国、滞在を許可すれば、タイは関係ないのではないか、なぜ、このような申請をし、承認を受けなければならないのか、と思ってしまうところで、実際、ほとんどの方がこの申請のことを知っていても、あくまで任意の届け出で強制ではないと思っているのではないかと思います。ところがこれは強制で、申請しなかった場合、3年以上10年以下の禁錮、もしくは罰金6万バーツ以上10万バーツ以下、もしくはその併科、と罰則が定められています。とはいっても、国民には渡航の自由がありますから、厳密な適用は難しいのではないかと思います。親告罪ではありませんが、たぶん、人身売買とか人権侵害とか、そういう問題が起こったときにのみ、適用されるのではないかと思います。
 なぜ、こんな申請をしないといけないのかというと、タイは労働力を「タイ国内の労働力」と「外国の労働力」と区分けしており、これは国籍は関係ありません。たとえば、私は日本人ですが、「タイ国内の労働力」であり、タイ政府は私の労働に関与する権限を持っています。実際、労働許可証がないと働けないのですから、管理下にあるわけです。ところが日本勤務ということで日本の企業が募集し、それにタイ人が応募し、日本で就職したとします。これはタイ人であっても「外国の労働力」とされ、日本が労働を許可するか、しないかの問題のみとなり、タイは関係ありません。従ってこのような場合(外国の労働力とされる場合)、企業はこんな申請をする必要など、ありません。
 ところが研修の場合、研修地は日本であったとしても、何のための研修かといえば、タイ法人のための研修ですから、「タイ国内の労働力」とされ、タイ国内の労働力なのだからタイ政府がどこの国にどれだけのタイ人が行っているのかを管理するのは当然、というのがタイのスタンスのようです。たぶん、これには、人身売買、人権侵害(安い賃金でこき使うなど)を防止する自国民保護策という意味合いもあるのではないかと思います。
 ということで、研修の場合、承認を受けなければいけないということになっています。
 必要書類は以下のとおりです。

1. 様式ng44
 インターネットからダウンロードすることもできますが、実際に提出するのは、印章があるものでないとダメなので、各役所で印章の入ったフォームを買わないといけません(1部10バーツ)。

2. 会社登記謄本(6カ月以内)

3. 株主名簿(6ヵ月以内)

4. 工場操業許可書
 なければ、なぜないのかの説明文を提出します。たとえば、工場操業許可が必要ない事業であれば、「当社の事業内容は・・・・なので、工場操業許可は必要ない」、必要ではあるが、先に研修をし、それから事業を開始する計画であれば、「研修が修了し、従業員がタイに帰国してから事業を開始する計画なので、まだ申請していない」という内容で作成します。

5. 招聘状、もしくは研修受け入れ合意書
 研修を行う日本本社が作成者となります。本部の案内では、「合意書」であってもいいとされていますが、実際に提出する役所では、タイトルを「招聘状」に書き直せ、と言われることが多いです。日本語で作成したものをタイ語に翻訳すればOKです。

6. 研修スケジュール表、カリキュラム
 これも日本語で作成したものをタイ語に翻訳すればOKです。

7. 会社の被雇用者であることの証拠となるもの
 基本的には、研修に行かせる従業員の源泉税納付様式と領収書、社会保険納付様式と領収書、それぞれ6ヵ月分が必要ですが、入社したばかりであれば、当然6ヵ月分はありません。日本本社に研修に行くことを前提として採用し、採用直後、すぐに日本に行かせ、帰国後、会社の核にしようということも、会社としてはごく普通の計画といえ、このような場合、とりあえず、先に社会保険に登録し、その月の納付様式、領収書を提出し、さらになぜ6ヵ月分がないのかの説明文と従業員であるという証明書を作成して提出します。

8. IDカードコピー

9. パスポートコピー(日本の研修ビザ)
 この手続きは、先に在タイ日本大使館から研修ビザを受けておく必要があります。先にビザを申請し、写真のページ、ビザのページを提出します。

10. 研修契約書 ※少なくとも以下の条件が記されていること
 10.1 研修期間、研修日時、休日
 10.2 福利厚生、食事、住居
 10.3 飛行機代
 10.4 医療費
 10.5 手当
 10.6 タイでの賃金の支払い
 以上の内容が入っていれば、形式は自由なのですが、指定のフォーマットを渡され、それをそのまま使わせようとしてきます。たぶん、形式が自由だと、以上の内容がきちんと入っているかどうかを確認するのが面倒臭いので、確実に入っている指定のフォーマットを使わせようとしてくるのではないかと思います。

11. 研修者名簿
 指定のフォーマットがありますので、それをそのまま使います。

12. 会社代表者のパスポートコピーと労働許可証

13. 委任状(手続きを他の者に委任する場合)

14. オリエンテーション参加申し込み書
 役所は、海外に研修に行く者を対象としたオリエンテーションを実施しているのですが、その参加申し込み書です。ただし、強制ではなく任意で、行かせなくてもかまいません。参加したという人を知りませんので、どのような内容なのかは不明ですが、任意であるところをみると、大した内容ではないのでしょう。
 参加させない場合、「1度日本に研修に行ったことがあり、日本のことはよくわかっているので必要性が認められない」とか、「日系企業である当社で・・・年間、勤務しており、日本の文化、習慣などについては、よく理解しているので必要性が認められない」とか、数人いて、そのうちの1人が日本渡航経験があれば、「○○は日本に行ったことがあり、日本のことはよく知っている。日本滞在中は、○○がいつでもアドバイスできるので、必要性が認められない」とか、そういう説明文を提出すれば、参加させなくてもかまいません。

 ここで最大の障害になるのが会社代表者の労働許可証です。役所が配布している必要書類リストには、「委任状(申請者が外国人で、手続きを他の者に委任する場合は労働許可証のコピー)」と書かれてあり、文面からは、他の者に委任せず、自分で申請する場合には必要ないと受け止められるのですが、委任状とは無関係に要求されます。
 すでに労働許可証を持っている場合は問題ないのですが、会社を設立したばかりで、先に採用したばかりの従業員を日本本社に研修に行かせ、戻ってきてから操業を開始するというケースの場合、その間は何もしないので、ほとんどの会社がその段階では労働許可証は申請しないのではないかと思います。これが最大の障害になるのですが、このような場合、労働許可証を申請するか、あるいはタイ人に一時的に署名権を持たせ、そのタイ人を申請者とするしか方法はありません。場合によっては、研修に行かせる従業員に署名権を持たせ、自分で自分を日本に送り込ませることも一手です。どのみち、ずっと日本にいて、署名権の悪用など、できない環境におかれるわけですから、日本から帰ってきたとき、署名権を外せばいいでしょう。

就労の前提
 ビザも労働許可証もずいぶん厳格化され、より一層の注意が必要になりました。BOI企業の場合、就労を申請するのはBOIであって入管や労働局ではありません。入管は、BOIの許可に従ってビザを延長するだけですし、労働局もまた、BOIの許可に従って労働許可証を発給、延長するだけなので、BOI企業では、BOIが許可した就労期限がビザの期限、労働許可証の期限となりますので、ビザの期限と労働許可証の期限は同じです。ところが一般企業の場合、ビザの延長は入管、労働許可証の新規申請、延長は労働局と、別々ですから、ビザの期限と労働許可証の期限は同じにはなりません。以前は労働許可証を申請しても、延長しても、期限はビザの期限にあわせられ、労働許可証の期限=ビザの期限だったのですが、7年前ぐらいからビザの期限は関係なく、最初から1年単位で発給されるようになりました。
 以前は労働許可証をうっかり失効させても、1週間ぐらいであればそのまま延長できたのですが、いつのころからか、1日でも過ぎれば新規申請ということになり、さらに今では相当ややこしいことになります。
 つい最近、労働許可証を失効させてしまったお客さんがいました。労働許可証の有効期限が2月23日までであったところを、お客さんのところのタイ人総務マネージャーが3月23日までと勘違いしていたようで、連絡があったのが3月14日、延長は確実に受け付けてくれないし、もしかしたら、1回タイを出てNon-Bを取り直して来いと言われるかもしれない、とにかく、労働局、入管にすぐに連絡するように、と言ったところ、すぐに連絡したのですが、やはり1度タイを出てNon-Bを取り直して来ないといけなくなりました。
 まず、労働局ですが、労働許可証の期限とビザの期限はスタンプ上、確かに異なっているが、ビザは労働許可証が有効であるという前提で有効であるものなのだから、労働許可証の期限が過ぎればビザも無効になる、スタンプ上、残っているかどうかは関係ない、つまり、今、この外国人はビザがない状態にある、ビザがない外国人に労働許可証は発給できない、入管が従来のビザの継続を認めれば、労働許可証は発給できるから、まずは入管に相談すること、もしかしたら罰金で勘弁してくれるかもしれない、とのことでした。
 そして入管ですが、「本人が入管に出頭し、なぜそうなったのかの説明をすること」とのことで、翌日お客さんと総務マネージャーが入管に行き、労働許可証の期限を3月23日と誤解していたと説明したのですが、勘弁してくれず、一回出国してNon-Bを取り直してくるように、とのことでした。
 結局、タイから一時的に離れざるを得ず、経費もかかれば時間もかかり、つまらないことから大きな問題になってしまいました。
 なぜ、こんなことになったのか。期限を勘違いしていた総務マネージャーにも責任はあるでしょうが、一番の責任は、当然お客さん本人にあるでしょう。お客さん自身がきちんと自分の労働許可証の期限を確認していれば、こんなことにはならなかったでしょうし、私は「総務マネージャーに任せていたから自分は知らない」が通用するわけはないと思っています。ビザ、労働許可証は、外国人がタイにいてもいいかどうかを決める要因であり、これがなければ、仕事もへったくれもありません。ときには他人が対処できないときもあります。たとえば、入国審査の時に入管がスタンプを押し間違えることもあり、一番多い入管のミスは、ノービザと勘違いして30日間のスタンプを押してしまうケースです。タイ入国後、労働許可証を申請する予定でいて、ちゃんと日本でNon-Bを取得して入国したとしても、入国審査官がNon-Bを見落として、ノービザ扱いで滞在許可を出せば、BOI企業であれ、一般企業であれ、この状態では労働許可証は申請できません。一旦入管に出頭し、滞在ステイタス、滞在期限をノービザ、30日間からNon-B、90日間に変えてもらってからでないと申請できません。入国審査時であればすぐに訂正できますから、入国審査が終わったあと、その場で自分がパスポートをちょこちょこっと確認していれば、こんな煩わしいことにならなくて済むのです。入国審査時に総務マネージャーが付き添えるわけないのですから、自分で確認するほかないのですし、そもそも全く難しいことではないのですから、外国人それぞれが意識すべきことだと私は思っています。ビザも労働許可証も期限は英語で書かれているのですから、容易に確認できるはずですし、どう考えても難しいこととは思えません。
 このお客さんだけではなく、ビザ、労働許可証に無関心な人はたくさんいます。いつも思うのですが、なぜ、みなさん、こんなにビザ、労働許可証に無関心なのでしょうか。タイにいてもいいかどうか、働いてもいいかどうかを決める要因になっているのがビザ、労働許可証であり、これがなければ仕事もへったくれもないというのに、なぜ、無関心なのでしょうか。
 BOIへの就労申請はウェブ申請なのですが、BOIが許可すると、就労許可書が発行されます。それを入管、労働局に提出してビザの延長、労働許可証の取得(延長)というステップになるのですが、この作業は外国人本人が出頭しないといけません。労働許可証の新規取得の場合、BOIが許可した日から2週間以内に出頭して発行手続きを行わないと無効になるのですが、早めに手続きをしてもらおうと思っても、忙しいから当分行けません、とか、行けと言われてもこっちは仕事があって暇じゃないんですよ、とか平気で言ってくる人もたくさんいます。
 こういう人、私は馬鹿だと思っています。たとえば、5日間の出張でタイに来たとします。5日間であれば、そのうちの1日は大きなダメージになり、取り戻すことは難しいかもしれませんが、1ヶ月ぐらいになれば、そのうちの1日を取り戻すことは全然難しくないでしょう。これがタイに常駐し、タイでずっと仕事をするということになれば、行けないわけはありません。1日の時間が割けないわけはありません。その1日を取り戻すことぐらい、たやすいことです。忙しいから当分行けないとか、仕事があって暇じゃないとか、単に忙しいやり手ビジネスマンを気取っているだけで、物事の優先順位がつけられないただの馬鹿です。
 ビザ、労働許可証は、私たち外国人にとっては、タイにいてもいいかどうか、働いてもいいかどうかを決める要因になっているものです。これがなければ、仕事もへったくれもないのですから、本来は仕事よりも優先されてしかるべき事項です。
 これを疎かにすれば、1度タイを出国してNon-Bを取り直し、労働許可証を再申請しないといけなくなります。さらに失効した状態でタイに滞在していて、ひょんなことから見つかってしまった場合、一定期間入国拒否されることもあります。不法滞在は、本人が自分から出頭した場合(=自首した場合)、不法滞在期間にもよりますが、入国拒否されることはあまりありません。ところが、入管側が発見した場合(=摘発された場合)、逮捕扱いとなって、一定期間、入国が拒否されます。
 それでも「忙しいから行けない」「こっちは仕事があって暇じゃない」なのか、仕事を優先した結果、仕事にダメージを食らうことになれば、優先した意味がないじゃないですか。ビザ、労働許可証を仕事よりも優先させるのは、仕事を大切に思えばこそです。仕事を大切に思うからこそ、その前提としてあるものを優先しないといけない、単純な理屈だと思います。

研修費用の弁償請求
 日本本社で研修させることはいいことではありますが、どこの会社も頭を痛めているのが、タイ帰国後、すぐに辞めてしまう場合です。日本に研修に行かせたい、しかし、タイ帰国後、すぐに他社に転職されれば日本に行かせた意味がない、ん~、悩むところです。
 どこの会社も、タイ帰国後、だいたい2年間はタイ法人で働くという誓約書を書かせているようですが、法的拘束力はなし、本人のそんな誓約など、信用できるわけもない、実際、私のお客さんのところで、きちんと約束を守ったタイ人は1人もいません。ひどいところになると、最初に4人まとめて採用し、日本本社に行かせたのですが、1人はタイ帰国後、初日に消えてしまいました。2人目は、最初に給料をもらった翌日に消えてしまい、残り2人も約半年後に消えてしまいました。研修に行く前の面接では、彼らはみんな「約束はちゃんと守ります」と口を揃えて言います。しかし、ちゃんと約束を守ったタイ人など、1人もいません(私のお客さんのところでは、ですけど)。
 日本本社に研修に行かせ、契約期日前に辞めた場合、研修費用、違約金を請求することはできるのか、という質問はたまに受けるのですが、これはなかなか難しい問題で、「法的拘束力はない」とされていますが、実はあります。法的にはあるのですが、「法律上」と「現実問題」は別問題で、現実問題として研修費、違約金を請求することは、非常に困難なことで、実質上は「ない」と言ってもいいかもしれません。
 1つ、航空会社が原告の最高裁判例があるのですが、あるとき、航空会社が新機種の操縦を学ばせるために、パイロットを海外研修に行かせました。研修に行く前の契約では、帰国後3年間は退職しない、3年未満で退職した場合は研修費と研修費の3倍の違約金を支払う、というものでした。つまり、弁償額、違約金、合わせて研修費の4倍を支払うというもので、パイロットは承諾し、連帯保証人もつけました。ところがパイロット、研修から帰ってきて、352日勤務したあと、競合他社に転職しました。そこで航空会社、契約どおり、研修にかかった経費300,000バーツと違約金900,000バーツ、合計1,200,000バーツを支払えと、パイロット、連帯保証人を相手に訴訟を起こしました。一審では、航空会社側の主張がほぼ認められ、パイロットに1,164,163.23バーツの支払いを命じる判決でしたが、パイロットが控訴しました。そして最高裁の判決は、弁償額は7,973.52バーツ、違約金はその3倍の23,920.56バーツ、合計わずか31,894.08バーツの支払いをパイロットに命じたもので、実質上はパイロットの勝訴といえるでしょう。
 航空会社は研修費を300,000バーツとしましたが、キリのいい数字なので、たぶん、宿泊費いくら、食事代いくら、研修費いくら、なんていう具合にどんぶり勘定で計算したものと思われます。ところが最高裁の算定では、研修費は223,871.70バーツとなりました。やけに細かい数字なので、1つ1つ領収書を調べ、これは含む、これは含まない、と丁寧に仕分けしたものと思われます。認定された研修費が223,871.70バーツであれば、違約金は671,615.10バーツとなり、合計で895,486.8バーツとなるはずなのですが、判決は、弁償額7,973.52バーツ、違約金23,920.56バーツ、合計31,894.08バーツと大幅に下回っています。
 最高裁が認定した研修費は223,871.70バーツだったもしれませんが、研修費にもまた「減価償却」があります。また、不利、不平等、不当とされる部分はカットされ、あとからひっくり返すこともできます。たとえば、年30%の利息に納得し、承諾してお金を借りても、上限を超えた利息は不当とされ、「本人が承諾している」は通用しなくなりますが、それと同様、納得した上での契約であったとしても、不利、不平等、不当とされる部分はカットされます。
 航空会社とパイロットとの契約は、「帰国後3年間は退職しない」だったかもしれませんが、最高裁の判決は、「3年間は長すぎる、1年間が妥当、それ以上拘束するのは不当」とされています。明確に法律としての規定はありませんが、研修の拘束期間(償却期間)は1年間が妥当とされているようです。最高裁が認定した研修費は223,871.70バーツ、償却期間は1年間、そしてパイロットは352日で退職、これを計算しますと、
  ①1日あたり223,871.70÷365 = 613.3471バーツ
  ②すでに埋め合わせた金額(勤務日数) 613.3471×352 = 215,898.1792バーツ
  ③残り(埋め合わせていない金額)223,871.70-215,898.1792= 7,973.5208バーツ
となり、③の「残り(埋め合わせていない金額)」が弁償すべき額となります。従って、パイロットが支払うべき金額は、
  研修費7,973.52+違約金23,920.56(7,973.52×3) = 31,894.08バーツ
以上のようになるというわけです。
 違約金は、判例では「まさに競合相手への転職であり、直接的に原告に損害をもたらすものである」され、契約どおり、3倍が認められていますが、これはパイロットという特殊技能を必要とする職業で、まさに競合相手への転職ということから認められたものだと思われます。転職によってどのような損害が実際に発生したのかということが証明できなければ、「違約金」の部分は、契約にあったとしても、損害がないのに違約金は不当、ということで、カットされるでしょう。転職によって具体的かつ直接的にどのような損害が発生したのかを証明するのは、現実問題では極めて困難ですから、一般企業にあっては、弁償金請求は認められても、違約金請求は、認められないのではないかと思われます。
 「研修費」には、交通費も宿泊費も食費も含まれますが、それらがすべて弁償請求対象になりうるかというと、これまた、難しいところです。まず、基本的なことですが、「日本に研修に行かせる」といっても、それは会社が言っているだけのことで、「研修」とは認められず、「労働」とされれば、「研修費」もへったくれもありません。では「研修」とは何なのか? これは学習としてのカリキュラムがあるものをいいます。「日本本社で研修する」といっても、確かに研修は研修なのかもしれませんが、学習としてのカリキュラムがないものは、法的には「労働」であって「研修」ではありません。つまり、請求すべき「研修費」が最初からないのですから、請求することはできないということです。
 では、カリキュラムがあればいいのかというと、そういうわけでもありません。カリキュラムは会社が自由に作れるものですから、「会社が勝手に作ったもの、このとおりに実施していなかった」と言われればそれまでです。
 労働省には、45日未満の海外研修と45日以上の海外研修の届出というものがあって、労働省に届け出て、承認を受けていれば、労働省がいわば「証人」となり、「研修」とされますが、承認には、カリキュラムを提出しなければなりません。そして、そのカリキュラムどおりに研修をやらないといけません。
 労働省に届け出ず、会社と労働者との契約だけでも「研修」は成立しますが、この場合、純粋な研修であったことを会社が証明しないといけません。しかし、「モノを教えた」といっても、現場で顧客に納品する製品を製造する過程の中であれば、「研修」にはならず、「お手伝い」、つまり「労働」になってしまうかもしれません。入ってきたばかりの新人に作業手順を教える「研修」と、学習としての「研修」は違っているのです。
 先の判例は、海外の操縦訓練機関での新機種操縦訓練ですから、当然、シミュレーション何時間、実技何時間とか、訓練機関が定め、政府から承認を受けたカリキュラムがあるでしょうが、一般企業では、そういうカリキュラムもないでしょうし、あっても実質上は「労働」の場合が多いのではないかと思います。
 研修機関を通じての研修であれば、「研修」の信憑性は高まり、裁判にあっても「研修」は認められるでしょう。しかし、研修費が請求できるかどうかは別問題です。「実地研修」が現場で顧客に納品する製品を製造する過程の中で行われれば、その分は「労働」とされ、「償却済み研修費」となり、帰国後初日に消えたとしても、すべてが「償却済み」となるかもしれません。学習としての研修もあった、と主張しても、では何時間なのか、きちんと区別しろ、という話になり、その時間が少なければ、「労働」のための単なるガイダンス、作業手順の説明にすぎない、とされるかもしれません。
 では、違約金はどうかというと、これは明らかな損害が発生した場合にのみ、認められるもので、判例のパイロットは、特殊技能の研修であり、損害額を具体的に計算することはできないかもしれませんが、損害があったことは明白で、このくらい、明白でなければ違約金は「不当な労働契約」ということで、いくらそのとき本人が承諾したとしても、あとからひっくり返せるということです。
 パイロットの新機種操縦訓練ほどのことであっても、この程度の金額になってしまうのです。これが一般企業になると、仮に取れたとしてもスズメの涙、裁判を起こす労力、経費と比較すると、裁判なんかやらなきゃよかった、裁判費用でかえって損した、と後悔するかもしれません。権利が認められたとしても、実質上は損をするのであれば、そんな権利に何の意味があるのか、私には全く意義が感じられません。
 牽制のために「帰国後・・年間は退職しない。退職した場合は研修費の全額を弁償し、研修費の・・倍を違約金として支払う」と雇用契約書に書くのはいいでしょうが、あくまで牽制にとどめておき、本当に請求しようという場合は、よく弁護士と相談してからにしたほうがいいと思います。

略称、カタカナの意味を確認する
 先日、IPOで認可を取っているお客さんからいろいろ質問があったのですが、どうも何だか認識にズレがあるような感じがして、しっくりきません。「すみません、今更、なんですが」という前置きで尋ねられたのは、「実を言うと、私、BOIとIPOのことがよくわかっていないのですが、うちが認可を取っているのはIPOで、BOIじゃないですよね?」・・・基本的なことなので、本人も恥ずかしかったみたいなのですが、こういうことは、恥ずかしがらずに早めに聞いてほしかったものです。
 BOIは「Board of Investment」という政府機関の頭文字を並べた略称です。日本語では「投資委員会」「投資奨励委員会」という言い方をされていますが、政府機関を指しています。BOIは、タイが力を入れている産業を延ばしていくためにその事業を営む法人に各種の恩典を与え、投資を促進させていこうというのを目的としていますが、認可対象事業の1つに「International Procurement Office(国際調達事務所)」というのがあり、「IPO」とは、この頭文字を並べた略称です。ですから、IPOを営むことでBOIから奨励認可を受けた、というのが正しい認識なのですが、「うちが認可を取っているのはIPOで、BOIじゃないですよね?」・・・ IPOを政府機関と誤解していたか、あるいはBOIを何らかの許可と誤解していたのでしょう。その他にも「BOIとTISOとでは、どっちが認可を取りやすいのでしょうか」という質問を受けたこともあります。 認可対象事業の1つに「Trade and Investment Support Office(貿易及び投資支援事務所)」というのがあるのですが、「TISO」とは、この頭文字を並べた略称です。つまり、「貿易及び投資支援事務所を営むことでBOIから奨励認可を受ける」わけであり、これが理解できていれば、「BOIとTISOとでは、どっちが認可を取りやすいのでしょうか」というのはありえない質問です。
 BOIは、2015年1月から新制度になり、IPOという名称は廃止され、ITCという名称になったのですが、これは「International Trading Centers(国際貿易センター)」の略称です。「ITC」というのは、事業を指しており、何らかの許可や政府機関を指しているのではありません。BOI特有の単語ではなく、商業振興局(商務省)も「ITC」という言い方をしています。また、BOIの認可対象事業の1つに「IHQ」というのがあり、これは「International Headquarters(国際地域統括本部)」の略称なのですが、やはりBOI特有の単語ではなく、商業振興局も同じ言い方をしています。ちなみに商業振興局は、「DBD」という略称が使われているのですが、これは「Department of Business Development」の頭文字を並べたものです。
 外国人事業法は、事業を第1類、第2類、第3類に分類しており、第1類は外国人が営むことは禁止、第2類は商務大臣から許可を取ればOK、第3類は商業振興局長官(DBD長官)から許可を取ればOK、ということになっており、ほとんどが第3類になりますので、外国人事業許可を申請する場合、ほとんどの場合、DBDに申請することになりますが、許可を取れば、BOIの認可を取らなくても、外資100%で営むことができます。DBDにあっても、どういう事業を営むのかを審査し、その事業の範囲内で許可を出すのですが、ITCとIHQの2つは審査が簡素化され、さらにBOIとは無関係に国税局の恩典を受けることができますので、今後、BOIの認可ではなく、DBDの許可という選択肢も出てくるかもしれません。そうすると、ITC(又はIHQ)を営むことでBOIから奨励認可を受けたのか、ITC(又はIHQ)を営むことでDBDから許可を受けたのか、さらにBOIから認可を受けたとしても、DBDにBOIから認可を受けたことを届け出て、外国人事業許可を受けなければいけませんから、BOI、ITC、IHQのほか、DBDという略称も加わることで、政府機関、事業、許可がごちゃごちゃになり、さらに誤解が増すかもしれません。
 その他、よくあるのは「IEAT」です。先日もお客さんから、「BOIは面倒なので、IEATでやることにしました」なんてことを言われました。
 このお客さんは、こういう製品を作ってほしいと顧客から注文を受け、そのとおりに生産して顧客に納品しますので、請負業になり、外国人事業法に引っかかります。そうすると、BOIの認可を受けるか、DBDから外国人事業許可を受けるか、タイ資本を51%入れるか、3つに1つしか選択肢がありません。DBDの外国人事業許可よりはBOIの認可のほうがはるかにハードルが低いですし、何の恩典も行使しなければ、一般の会社経営と変わりませんので、外資100%、労働許可、この2点だけも十分メリットはある、タイ資本を入れたくないのであれば、BOIから認可を受けるのがベスト、と何回も説明したのですが、あるとき、「BOIは面倒なので、IEATを申請することにしました」なんて言ってきました。このお客さん、とある工業団地に入居しているのですが、工業団地から土地を買って工場を建設したのではなく、レンタル工場を賃借しています。レンタル工場の所有者は工業団地ではなく、とある大手ゼネコンなのですが、そのゼネコンが工業団地の土地を買って工場を建設し、賃貸しているというわけで、そのゼネコンから「IEATを取得すれば大丈夫」と言われたみたいです。
 「IEAT」とは何なのか、知ってますか?と聞くと、やはり全く理解していませんでした。「IEAT」とは、「Industrial Estate Authority of Thailand」の頭文字を並べたもので、タイ工業団地公社そのものを指しています。そうすると、この客さんの言葉は「タイ工業団地公社を取得すれば大丈夫」ということになります。
 工場を操業するには、工場操業許可が必要なのですが、通常は管轄の県工業局に申請します。ところが工業団地の場合、工業団地公社が発行します。しかし、その許可は、単に工場として使ってもいいという、工場としての物理的な要因に対するものにすぎず、外資100%をも含んで許可されるものではありません。ゼネコンがこのようなことを言ってきたのは、請負業と製造業が区別できていないものと思われます。製造業だから外国人事業法に引っかからない、外資100%でも操業できる、だから工業団地公社から操業許可を取るだけで大丈夫、たぶん、ゼネコンはこういう理解で「IEATを取得すれば大丈夫」と言ったのではないかと思います。
 「IEAT」とは「Industrial Estate Authority of Thailand」の頭文字を並べたもので、タイ工業団地公社そのものを指しており、何らかの許可のことではない、工業団地に入居すれば、いくつか恩典がありはするが、外資100%OKという恩典はない、つまり、工業団地公社からいかなる許可を取ろうとも、外資100%がOKになるなんてことはありえない、と説明して、ようやくわかってくれたみたいなのですが、どうやら引っかかっていたのは「IEAT」で、IEATが何の略称で、何を指しているのかが理解できると、すべてがすんなり理解できたようでした。
 なぜ、このような誤解が多いのか、一概には決め付けられないでしょうが、頭文字を並べた略称の乱用が誤解の原因になっているところはあると思います。確かに略称を使えば、文章が簡素になるというメリットはありますが、読み手が何の略称で、何を指しているのかをきちんと理解していなければ、全体の内容を誤解してしまいます。書き手が不親切なのか、読み手がきちんと確認すべきなのか、私は読み手がきちんと確認すべきだと思います。
 日本語でも、いろいろな略称があり、この文章の中でも「ゼネコン」という略称を使いましたが、「ゼネコン」とは何の略称なのか、実はフル名称がきちんと言えない人も結構いるのではないかと思います。日本語であれ、タイ語であれ、これだけ略称が乱用されている中にあっては、略称が出てきたときには、こういう意味だろうと推測で読むのではなく、何の略称なのか、フル表記は何なのか、どういう意味なのかを読み手がきちんと確認すべきではないかと思います。
 同時に私たちコンサルタントは、これから進出しようというお客さんには、略称はなるべく使わない配慮は必要でしょう。冒頭のお客さんは、たぶん、略称に慣れていないときに略称を連発された → 何となく理解はできるが、はっきりとした意味はよくわからない → その略称が当たり前になったので、今更聞くに聞けなくなった → そのままズルズルきた、というところではないかと思いますので、これから進出しようというお客さんに対し、「知っていて当たり前」とばかりに略称を使うのは、コンサルタントとしては配慮が足りないと言えるでしょう。たとえば、先の青色の部分を以下のように書くとどうでしょうか。

ほとんどの場合、商業振興局に申請することになるが、許可を取れば、投資奨励委員会の認可を取らなくても、外資100%で営むことができる。商業振興局にあっても、どういう事業を営むのかを審査し、その事業の範囲内で許可を出すが、国際貿易センター、国際地域統括センターの2つは審査が簡素化され、さらに投資奨励委員会とは無関係に国税局の恩典を受けることができるので、今後、投資奨励委員会の認可ではなく、商業振興局の許可という選択肢も出てくるかもしれない。国際貿易センター(又は国際地域統括本部)を営むことで投資奨励委員会から奨励認可を受けたのか、国際貿易センター(又は国際地域統括本部)を営むことで商業振興局から許可を受けたのか、投資奨励委員会から認可を受けたとしても、商業振興局に投資奨励委員会から認可を受けたことを届け出て、外国人事業許可を受けなければいけない。

 略称に慣れていない人は、たぶん、このほうがよく理解できると思います。
 略称のほか、カタカナ表記にも注意が必要だと思います。仮に使い慣れた言葉であっても、日本語のほうがしっくり理解できるのではないかと思います。たとえば、「ロイヤリティーレベニューアップのために、エンジニアのモチベーションをいかにしてアップさせるか?」・・・・出てきているカタカナは、ごく一般的に使われているものかもしれませんが、「特許料の収入を上げるために、技術者の意欲をいかにして高めるか?」と置き換えたほうがしっくり理解できるのではないでしょうか。
 文章というのは、書き手、読み手がきちんと同じ理解をしてこそ意味があるもので、双方が別々の理解をしていたら意味がありません。カタカナ表記は概念が曖昧になりがちで、意味が曖昧なまま、使っている人も多いと思います。カタカナ表記を多く使いたがる人がいたら、そのカタカナの意味を聞いてみるといいでしょう。たぶん、意味がよくわかっていない場合が多いと思います。意味がよくわかっていなくても、カタカナを使えば、何となく、文書に格好がつき、それらしい文章になると錯覚しているのだと思いますが、書き手が曖昧なまま書いていて、どうやって読み手が「しっくり理解する」のか?私の経験でいえば、カタカナ表記を使いたがる人にはバカが多いです。「ロイヤリティーレベニューアップのために、エンジニアのモチベーションをいかにしてアップさせるか?」・・・こう書くヤツはバカです。「特許料の収入を上げるために、技術者の意欲をいかにして高めるか?」・・・こう書く人がお利口さんだと思います。

Non-O延長申請
 先日、お客さんのNon-Immigrant(O)ビザの延長に行ってきました。Non-Oはカテゴリーが広いのですが、たとえば、タイに赴任してきたとします。奥さん、子供も一緒にタイに来たとします。この場合、駐在員本人は労働許可証を申請し、タイで働こうというのですからNon-Immigrant(B)です。しかし、奥さん、子供はタイで生活するだけで、働くわけではありません。こういう場合、Non-Oです。また、タイ人と結婚している場合の配偶者ビザもNon-Oです。一般企業であれ、BOI企業であれ、労働許可証の発給条件はNon-Bを持っていることなのですが、例外があり、タイ人と結婚している場合はNon-Oでも労働許可証は発給されます。
 タイ人と結婚している場合、労働許可証発給には特例措置が適用され、通常よりも緩やかなのですが、この特例措置の適用は、Non-Oを持っていることが条件になっていますので、「Non-Oでも労働許可証が発給される」というより、Non-Oでないと特例措置が適用された労働許可証は発給されません。しかし、通常どおり、Non-Bで労働許可証を申請することもできますので、タイ人と結婚している場合はNon-Bで労働許可証を申請する方法とNon-Oで申請する方法と、2通りあります。とはいっても、Non-Bの延長とタイ人と結婚している場合のNon-Oの延長は、書類、審査が全然違いますので、偽装結婚でもない限り、Non-Bで申請する理由はないでしょう。
 Non-Bの延長は、書類もたくさん必要ですし、審査も厳しいのですが、Non-Oの延長は、基本的には婚姻証明と2ヶ月以上連続して銀行口座に40万バーツ以上の預金があるか、夫婦あわせて月4万バーツ以上の収入があるかだけが重要事項で、その他にも必要書類はあるのですが、どうということはないものばかりです。
 労働許可証がなく、配偶者の収入が月4万バーツ未満である場合、40万バーツ以上の預金が必要ですが、労働許可証がある場合、タイ人と結婚していても、日本人の場合、労働許可証の発給条件は月5万バーツ以上ですから、夫婦あわせて月4万バーツ以上の収入があることという条件は自動的にクリアされます。
 大企業であれば、特に感じることはないかもしれませんが、小さな会社だと、タイ人と結婚していると随分楽になります。私なども、タイ人のヨメさんがいたら、随分楽になるだろうなあ、と感じることもたびたびあります。
 Non-Oの延長は、Non-Bに比べれば、かなり簡素で、どうということはないのですが、労働許可証がなく、配偶者の収入が月4万バーツ未満である場合、いくつか注意しておかないといけないことがあります。
①入国から1ヵ月以内に銀行口座を開設し、40万バーツ以上を入金すること
 たとえば、東京のタイ大使館でNon-Oを申請し、タイに入国したとします。そうすると、まずは空港で90日間の滞在が許可されます。これを延長するわけですが、入国後すぐに延長できるわけではありません。「2ヶ月以上連続して40万バーツ以上の預金があること」というのが条件ですから、まずは銀行口座を開設して40万バーツ以上を預金し、2ヶ月が経過するのを待たないといけません。入国時に空港で許可された滞在期間は90日(3ヶ月)ですから、1ヵ月以内に口座を開設し、40万バーツ以上を入金しておかないと、滞在期限に間に合わなくなりますので、またNon-Oを取り直さないといけなくなります。
※すでに預金口座を持っており、2ヶ月以上連続して40万バーツ以上の預金がある場合には、入国後、すぐに申請することができます。
②銀行発行の残高証明
 Non-O延長の際の残高証明書の有効期間は、入管は7日間と定めていますので、7日以内に申請を出さないと、また取り直さないといけなくなります。Non-O延長申請の際には、本人だけでなく、配偶者も一緒に行かないといけませんので、自分の都合だけでなく、配偶者の都合も確認し、まずは2人の都合をすりあわせて確実に行ける日を決め、それから7日以内になるように、残高証明を取り寄せることです。
③預金通帳コピー
 預金通帳原本とコピーも必要なのですが、これは申請日当日の記録がないといけません。銀行からの証明書は発行時の残高を示すもので、当日の残高を示すものではありません。まさに申請の時点で40万バーツ以上の預金があることを示すために、申請日当日、キャッシュカードで100バーツを引き出すなど、何らかの動きを作り、それから記帳し、コピーを提出するとともに、通帳原本を提示します。
 さて先日、お客さんと一緒にNon-O延長申請に行ってきましたが、暇つぶしに周りを観察していると、面白いことに、ほとんどの人が同じ行動をとります。順番が回ってくると役人の前に座ります。書類を提出します。役人がチェックします。その後、ほどんどの人が預金通帳を持って席を離れ、しばらくしてコピーを持って戻って来ます。入管が配布している必要書類リストには「預金通帳原本とコピー」としか書かれておらず、「当日の記録があること」とは書かれていませんから、みんな事前にコピーをとってきはしていても、申請日当日に何らかの動きを作り、それをコピーすることはしておらず、預金通帳を持って外に出て行くのは、たぶん、このためではないかと思われます。
 それにしても、いつも思うのですが、申請日当日の記録がある預金通帳の原本を提示し、コピーを提出するのだったら、なぜ②が必要なのか、理解に苦しむところです。

増資登録の注意点
 今年1月5日から会社登録、増資登録の規定が変わり、ちょっとばかりやりにくくなりました。会社登録の際、これまでは「・・・から・・・株分の・・・バーツを受け取った」という書類だけでよく、資本金はぼちぼち振り込めばよかったのですが、資本金が500万バーツ以上の場合、会社を登録してから15日以内に銀行からの残高証明書を提出しないといけなくなりました。資本金が500万バーツぐらいであれば、すぐに資金も用意できるでしょうが、日本円で何千万円ぐらいになってくると、金融機関への融資の申し込み、審査やらで、すぐには用意できないこともあります。また、日程的にもちょっときついところがあります。会社設立、銀行口座開設、資本金の送金、残高証明の取り寄せ、提出、これらの作業を15日以内に行うことは、十分可能ではあるのですが、ほとんどの方がこの段階では、タイにいても特にすることがないので、それだけの期間、連続してタイにいることは時間の無駄になります。
 商務省の会社設立、増資に関する新規定が公示されてから、とりあえず、資本金500万バーツ未満で会社を設立し(500万バーツ未満だと新規定は関係ありませんから)、それから増資登録をして本来予定している資本金にするケースが増えてくるのではないかと予想していたのですが、やはり、そういう傾向が出てきました。増資をして資本金が500万バーツ以上になる場合、先に増資分を送金し、銀行から証明書を取り寄せ、増資登録申請書類とあわせて銀行からの証明書を提出しなくてはいけないのですが、2点注意しないといけないことがあります。

①送金のタイミング
 増資は資本金の変更であり、定款変更になりますから、先に新聞に掲載しないといけません。何を掲載するのかというと、「何月何日何時からどこそこで増資を議題とした株主総会を開催する」という株主への通知文です(日系企業では全く意味がないのですが)。この通知を新聞に掲載してから2週間の期間をおき、株主総会を開催します(書類上ですが)。株主総会で増資を決議し、それから増資登録ということになりますので、増資登録は、新聞で通知した株主総会の日以降ということになりますが、送金は、株主総会の日以降でないといけません。株主総会で増資を決議し、それから増資分を振り込むというのが筋ですから、株主総会の日以前に振り込まれた資金については、増資分の資金とはされませんので、この状態では増資登録はできません。株主総会の日以前に振り込んでしまった場合、会社代表が増資分の資金を預かった、ということにし、一旦、会社代表の個人口座に振り替え、それから改めて、会社口座に振り替えます。こうい手段もあるので、大したことではないのですが、最初から株主総会の日をきちんと確認しておき、送金はその日以降にすると、二度手間が省けます。

②銀行からの証明書
 増資の際に必要なのは、確かにそれだけの資金が会社口座に振り込まれたという証明書ですから、残高証明ではなく、入金証明になります。銀行側には、「何月何日、・・・・・バーツのお金が・・・・・名義の口座に入金された」という内容で作成してもらいます。入金された金額は、増資分とぴったり合っていなくても、増資分以上の金額であれば、かまいません。

パスポート更新の証明書
 パスポートには有効期限がありますから、いつかは更新しないといけません。タイの日本大使館で更新した場合、古いパスポートと新しいパスポート、それとパスポートを更新したという日本大使館からの証明書を入管(BOI企業であればワンストップサービス)に持っていけば、「・・・・・・番のパスポートを持っていたが、この・・・・・・番の新らしいパスポートに変えた」という内容のスタンプを押し、これまでのビザもそのまま新しいパスポートに移してくれます。以前は、古いパスポートと新しいパスートだけでよく、日本大使館からの証明書は必要なかったのですが、いつのころからか、要求されるようになったみたいです。私自身、今のパスポートは日本大使館で更新したのですが、そのときは古いパスポートと新しいパスポートを持って行っただけでした。でも2007年のことで、どうやらその間に規定が変わったみたいです。タイ在住であれば、ほとんどの方がタイで更新すると思うのですが、労働許可証を持ってはいるが、日本にいるほうが長いという人は、日本で更新することが多いと思います。この場合、どうすればいいのか?
 まず、古いパスポートは有効でなくなったわけですから、そのパスポートでは日本を出国することもできませんし、タイに入国することもできません。とはいっても、きちんと手続きが終わるまでは、必ず古いパスポートも新しいパスポートと一緒に持っていないといけません。
 タイ入国時には、新しいパスポートと古いパスポートを提示します。ビザは古いパスポートにあっても、そのビザは有効とされますので、新しいパスポートに押された入国スタンプの下に手書きで「ビザは・・・・・番の古いパスポートの・・・ページにある」と書かれ、Non-BならビザクラスはNon-B、滞在期限も従来どおりの滞在期限を書いてくれます。
 ただし、これで終わりではありません。入国後は、入管(BOI企業はワンストップサービス)に行き、古いパスポートにあるビザを新しいパスポートに書き換えてもらわないといけないのですが、以降の手続きは、日本大使館で更新した場合と同じです。日本で更新した場合にあっても、日本大使館で証明書を発行してくれます。発行には、それほど時間はかかりません。30分以内には発行してくれます。日本大使館に問い合わせたところでは、16時までは入館できるが、受付は15時30分まで、15時30分までに受付を済ませれば当日に発行可能、15時30分までに受付ができなかったが、16時までの開館時間に間に合い、交付申請を出していれば翌朝受取可能、交付申請には申請者本人が行かないといけないが、受取は代理人でも可、代理人はタイ人でも可、とのことでした。
※変更される可能性もあるので、実際に行くときには各人で確認してください。

健康診断に行ってきた!
 会社を設立して11年が経過、考えてみれば、この間、健康診断なんてしたこともありませんでした。労働許可証取得、更新にあたっては健康診断書が必要なのですが、ごく簡単なもので、本格的な健康診断なんて、したこともありませんでした。俺ももうすぐ50歳になるんだよな、よし、健康診断でもしてくるか、ということで行ってきました。
 まず最初は身長、体重、血圧検査。体重は相変わらず40.5キロ、やっぱり痩せすぎだよな。私の家系はみんな血圧が低く、私も以前から低かったのですが、今回も上が93、下が58、ま、高いよりはいいだろう、次に採血、やっぱり大人になっても針が刺される瞬間はついつい目をそらしてしまいます。それから心電図検査、これ、私、好きなんですよ。吸いつく感覚に思わず感じちゃいます。心電図検査のあとは「服を着替えろ」、お医者さんごっこか? コスプレでもするのかと思いきや、「水を飲め」、え?水?、大量に出された水を飲まされ、そのまま約30分、膀胱パンパン、そうか、わかったぞ、SMプレイをしようというんだな、だが、悪いが俺にそんな趣味はないぞ、ヌルヌルローションを胸部、腹部に塗りたくられ、思わず感じてしまったところに何やら先が丸まったアイロンのようなものが押しあてられる、電マか? 目の前のモニターには、自分の腹部らしきものの陰影が・・・電マではなく、超音波検査器でした。
 次は検尿、検便でしたが、検便には、私はちょっとしたトラウマがあります。
 1990年から1992年にかけて、私はいろいろな国を旅行していました。インドでのことなのですが、蚊に刺されたあとのような赤い隆起が背中とわき腹に広がりました。それが痒いんですよ。1つだけでも痒いのに、背中、わき腹中ですから、ほとんど拷問です。寝ている間に大量の蚊が一斉に襲ってきでもしていたのか? とにかく痒い、しかし、背中だから手が届かず、かけない、当時はホテルではなく、安っぽいゲストハウスを渡り歩いていたのですが、安いだけに床はコンクリートそのまま、床に寝て、体を動かし、背中をかいていたのですが、ついには膿んで、赤い背中が黄色い膿だらけになってしまいました。40度近い高熱が続き、下痢も激しく、こりゃもうダメだ、と病院に行きました。しばらく入院が必要ということで、そのまま入院したのですが、すぐに点滴を打たれました。このときの点滴は気持ちよかったですね。ほんとに体が潤ってくるのがわかるような感覚でした。その病院には、インド人だけでなく、チベット人の看護婦さんもいたのですが、このチベット人がきつかったです。点滴をしているとき、「検便するからウンコとって来い、少しでいいからこの中に入れてこい、いいか、リトルビットでいいからな、リトルビットだぞ」とビーカーを持って来ました。わかった、じゃ、点滴を外してくれ、と言うと、「そのままやってこい」、点滴の針は右甲に刺されており、点滴の瓶をぶら下げて歩く器具もなし、左手で瓶を持ってトイレに入りました。トイレには瓶を引っ掛けておくものがあるかと思いきや、何もなし、しかもその瓶、ペットボトルのようなプラスチックではなく、ガラスです。重いです。手がだるくなって下がっていきます。さらに点滴の管はそのままつながれており、瓶が下がると、血が逆流してきます。いかん、いかん、と左手を上げると、血が入っていき、だるくなって下がってくるとまた血が逆流、逆流防止器具ぐらい、つけてくれよ、そもそもなぜガラスの瓶なんだ? なぜトイレに何の器具もないんだ? この状況でどうやってこのビーカーにウンコ入れるんだ? しかし、考えている暇はない、考えてりゃ腕がだるくなるだけ、もはやビーカーへのダイレクト注入しかない、左腕で点滴の瓶を上に掲げ、管がつながれた右手でビーカーを持ち、オケツにあてがい、「リトルビット、リトルビット」と心の中で復唱し、そろり、そろりとオケツの穴を緩めようとするものの、いきなり「ドバッ」という確かな手応えあり、右手には生温かさが伝わってくる、激しい下痢をしているところにあって、ほんの少し緩め、少し出したあと、すぐに締める、なんて芸当、できるわけもない、恐る恐るビーカーを見てみると、3分の2ぐらい、入っていました。しかも、激しい下痢をし続けていたのでオケツも切れていて、ビーカーの下のほうはどす黒い血、上のほうは下痢ウンコ、それがまたきれいなストライプになっていたんですよ。もはや芸術品と言ってもいいでしょう。別にその「芸術品」にこだわったわけではなく、一旦入ったものを出すと、汚くなるという単純な理由からそのまま持って行ったのですが、そのビーカーを見たときのチベット人看護婦の顔、今でもよく覚えています。見た瞬間、唖然とした表情を示すものの、見る見るうちに顔色が変わり、「リトルビットと言っただろ!」と無茶苦茶怒り始めました。ものすごく怒られました。なんでここまで怒られなきゃいかんのだ、というぐらい、無茶苦茶怒られました。後から考えれば、まず、第一波ウンコを放出し、次の第二波ウンコに照準を定めりゃよかったんです。第二波ウンコ、これがビーカーへのダイレクト注入のテクニックです。しかし、せっかく習得したこのテクニックも、以降、使う機会は全くありません。ちなみにこの病気、背中とか、わき腹とか、弱い皮膚の毛穴で病原菌が繁殖し、それで体全体が高熱におかされるという、熱病の1種だそうです。
 さて、それはともかく、結果はほとんど正常値でした。一番気になっていたのは肝機能で、10年ぐらい前から極端に酒に弱くなり、飲んだときは何ともないのですが、翌朝二日酔いで頭がガンガンということがよく起こるようになりました。いつもビール330mlを3缶、あとウィスキーか焼酎の薄い水割り100ml程度なのですが、たったこれだけでも二日酔いがひどくなるようになりました。寝るときは何ともないのですが、翌朝頭がガンガンなんですよね。しかし、おかしなことに、風邪薬を飲んで寝るとなんともありません。そういうことで、毎晩というわけではないのですが、風邪でもないのに風邪薬を2錠飲んで寝ることが多く、ネットには、酒と風邪薬は厳禁、アルコールも風邪薬も「毒」、どちらも分解するのは肝臓だから、同時に摂取すると負担がかかりすぎて肝機能の低下、肝硬変の原因になる、なんて書かれてあり、かれこれ10年近く、酒と風邪薬を同時に摂取していますので、さすがに心配になっていたところだったのですが、どちらも量が少ないからか、肝機能に異常はありませんでした。
 あと、もう1つ気になっていたのはコレストロールで、日本にいたときは毎年健康診断を受けさせられていたのですが、いつも240ぐらいでした。それが今回、205になっていました。ネットで調べてみると、199以下は正常、200~249は要注意、なんて書かれていましたが、199は正常で200は要注意というのもおかしな話です。わずか1の差で正常か要注意かを分類する、こういうのを「ナンセンス」といいます。199も200も同じじゃないですか。どこが違うんですか。だったら、200も201も同じじゃないですか。そうすると、201も202も同じ、202も203も同じ、203も204も同じ、204も205も同じ、すなわち、199も205も同じ、つまり、コレストロールは正常値ということです(私の論理では)。
 目、耳の検査もあったのですが、左耳が軽度の難聴であることがわかりました。たぶん、耳管開放症の影響でしょう。私は両耳とも耳管開放症なのですが、左耳のほうがひどいです。耳管開放症は難聴になりがち、とネットに書かれていますが、もう30年近いですから、これだけ患っていれば、ネットに書いてあるとおりになってもおかしくはないでしょう。日常生活には全く影響はないのでどうということはないのですが、音楽でも始めようかな、と思っています。音楽でもやれば、ピアノが弾けなくても、楽譜が読めなくても、もしかしたら、いきなり治るかもしれませんし。

誤解の元 ~ 私の対策
 ここ数年は全く引き受けていませんが、以前、それほど忙しくなかったころは、たまに通訳、翻訳セミナーの講師を引き受けることがありました。対象はほとんどが日系企業で通訳として働いているタイ人で、通訳、翻訳のコツ、気をつけないといけないことなどを話していました。
 日ごろから感じていることなのですが、タイ人は読むことと書くことが全体的に弱いと思います。外国語かどうかというのではなく、母国語であるタイ語の文章を読んでその内容を把握する力、タイ語であっても文章そのものを書く力が欠けており、この2点はダイレクトに翻訳に影響しますので、外国人の目から見ると、全員が全員ではないが、全体的にタイ人にはこういう弱点があると思うので、各人意識しておいたほうがいい、と毎回言っていたものです。
 いつも例として挙げていたのが以下の文章です。

①今年のインフレ率は去年から上昇し、3%になった。
②今年のインフレ率は去年から3%上昇した。

 以上の2つの文章は、日本語ではなく、タイ語で見せます。これを日本語に訳させるわけですが、まずは、この2つの文章の違いを説明させてみます。そうすると、何人かは必ず怪訝な顔をし、同じじゃないか、と言ってきます。タイ語であるにもかかわらず、この違いがわかならない人が必ずいます。同じじゃないだろ、よ~く考えてみろ、と言うと、じっと考えて、そうか、そうか、違っている、と気がつく人もいれば、相変わらず、同じじゃないか、と言ってくる人もいます。そもそも考えるほどの文章ではないのですが、考えないとわからない人もいます。ほとんどの人はわかるのですが、こんな簡単な文章でも正しく意味が把握できない人もおり、原文の意味が正しく理解できていなくて、翻訳など、できるわけありません。
 翻訳させても意味がさっぱりわかない、とボヤくお客さんも多いですが、翻訳した人を呼んでもらい、尋ねてみると、原文の意味をよく理解していないことが度々あります。もちろん、日本語能力そのものが足りなくて変な翻訳になることもありますが、意味がきちんと理解できていないことから(母国語でありながら、です)意味不明な訳になることもよくあります。
 次にこの2つの文章を日本語に訳させますが、正しく理解していながら(違いがわかっていながら)、①の文章を訳させると②の意味になっていたり、②の文章を訳させると①の意味になっていたり、きちんと理解が反映されている文章になっていない人のほうが毎回多かったものです。
 「文章を書く力」、それは、ある意味「読む人のことを考える力」と言い換えてもいいかもしれません。文章というのは、通常は人に読ませるために書くものです。日記や備忘録など、完全に個人のものはともかくとして、通常は、人が読むということが前提になっていますので、自分の文章を読んで、読む人がどう思うか、きちんとこちらの意図どおりに理解してくれるだろうか、そういうことを考えながら書かないといけないのですが、タイ人の多くは、自分が思ったとおりに書き連ねるだけで、読む人のことは考えません。自分だけがわかって書いていることが多く、タイ語でレポートを書かせても、これはどういう意味だ?と聞かないとわかない文章が多いです。ところが、おもしろいことに、タイ人同士では特に気にならないみたいなんですよね。文章の意味が不明確であっても、まあ、これはこういう意味だろう、と自分で勝手に解釈するようで、書いた人にきちんと意味を確かめることはしません。だからみんなそんな文章になるのでしょうし、誤解や勘違いが多くなるのだと思います。
 ①と②の2つの文章を日本語に訳させたとき、原文が①であっても訳文は②になったり、②であっても①であったりするのも、語学能力の問題ではなく、読む人のことを考えていないからではないかと思います。こういう文章は、見た瞬間、読み手が誤解するかもしれないということは簡単に予想できますから、①の文章を訳すときは、もしかしたら②と誤解されるかもしれない、②の文章を訳すときは、もしかしたら①と誤解されるかもしれない、ということは考えて訳すべきなんですよね。
 翻訳だけでなく、タイ語でレポートを書かせても、もしかしたらこういう具合に誤解されるかもしれない、ということは全然考えていないようで、自分が書きたいように書いています。うちの従業員にもそういう傾向はあり、私は毎日、従業員には、商務省、BOI、国税局、社会保険事務局など、主な役所のホームページにアクセスさせ、新しい公示が出ていないかをチェックさせています。出ているようであれば、原文をきちんと確認すべき公示かどうかの判断で、どういう内容なのかを簡単にまとめさせているのですが、やっぱりどういう意味か聞かないとわからない箇所があります。こっちが聞くと、それはこういう意味だ、と説明するのですが、だったら最初からそう書け、と毎回言っているにもかかわらず、同じことを繰り返します。
 文章だけでなく、会話にあっても、相手がどのくらい自分の言っていることを理解しているのかは観察しながら喋らないといけないと思うのですが、どうもタイ人は、文章と同様、自分だけがわかって喋っていることが多く、相手の理解度はあまり観察していないようです。聞き手も相手の言っていることがよくわからなくても、こういう意味だろうと勝手に解釈し、あまり気にならないようです。
 従業員と役所に行くことも多いのですが、そこで役人が何か言ったとします。うちの従業員は、はい、はい、と言って聞いているだけですが、横で聞いていると、こういう具合に解釈もできるし、こういう具合にも解釈できる、と思うことがよくあります。あとで従業員に、あれはどういう意味だ?と聞くと、こういう意味だ、と答えるのですが、こっちが、そうか?こういう意味じゃないのか?こういう解釈もできないか?と聞くと、そこで初めて、う~ん、と考えます。どっちなのか確認しろ、と再確認させると、従業員の理解どおりでなかったことは、これまでに何回もあった、というより、日常的なことなので、こっちもすぐには従業員の言うことは鵜呑みにはせず、他に解釈できるのであれば、必ず再確認させるようにしています。
 書き手は自分が書きたいように書く、話し手は自分が喋りたいように喋る、読み手も聞き手も特に相手が書いていること、喋っていることをきちんと理解しようというわけでもなく、よくわからない部分があっても勝手に解釈する、誤解があっても「マイペンライ」、お互い、それが気にならない、これじゃ誤解が多いのも当然で、タイで誤解、勘違いが多いのも、こういう意識に原因があるような気がします。
 私は、通常は相手方に落ち度があるとされても、全面的に相手方のせいにするのは好きではありません。何もこれは、卑怯だとか潔くないとか、そういう精神論でのことではありません(私はそこまで人間はできていません)。単に実務上のメリットから、そういうことを言っても自分の不利益になるだけ、というエゴイズムにすぎません。エゴイズムを徹底的に追求すれば、結局、相手のことを考えないといけないんですよね。相手がミスをすれば自分の不利益になりますし、相手が誤解すれば、これもまた自分の不利益になります。最大限に自分のメリットを考えるのであれば、最初から相手がミスをしないように、あるいは誤解しないようにしておくべきで、相手が勝手に誤解したからといって、何を聞いてたんだ、バカヤロウ、では自分の実益にはなりません。一応、相手方を責めはしても、それで終わらせては同じことの繰り返しになりますし、自分にそういう癖をつけるためにも、相手がミスをしないやり方があったのではないか、こういう言い方をしていれば相手も誤解しなかったのではないか、という自省の念は意識的に持つようにしています。
 従業員に仕事を指示するときでも、従業員がこっちの指示を誤解すれば、こっちの意図とは違った結果になってしまいます。それで一番困るのは社長である私です。重要なことを従業員に指示する場合、私はいつも指示し終わってから、従業員に、今、俺が言ったことをお前はどう理解したんだ?と必ず聞いています。どう理解したんだ?何をしないといけないと理解したんだ?どういう目的で俺はそういう指示を出したと理解したんだ?と、こっちから念を押すのではなく、どう理解したのかを説明させています。こっちが一方的に言うだけでは、何回言っても最初に理解したとおりにしか理解していませんので、「念を押す」(繰り返し言う)というやり方では、誤解は防げないと思います。
 従業員に自分の理解を説明させるのは、私の経験ではかなり有効な手段ですので、みなさんもぜひ、試してください。たぶん、かなりの高確率で誤解が防げると思います。

商務省の動きに注意
 最近、商務省の動きが活発になってきました。試行錯誤の段階なのでしょうが、昨年末から一旦公示を出すものの、抜け道が発覚、その抜け道を訂正する公示、他の機関との関係で矛盾している公示、そしてそれを訂正する公示が短期間のうちに連発して出されています。
 具体的には会社設立、増資に関する公示なのですが、まず最初に昨年11月19日付けで、

1. 資本金500万バーツ以上の場合、会社登記日から15日以内に銀行の預金残高証明を提出すること。
2. 500万バーツ以上の増資の場合、増資登録の際に銀行の預金残高証明を提出すること。

 以上の内容の公示が出されました(現金での払込でなく、他の資産での払込についても触れられていますが、通常は関係ないので、ここでは触れません)。この公示の最後には、「ごまかしの代理人については、継続的、本格的に調査する」と書かれてあり、他の文書にも「実際のところは払込がないにもかかわらず、大きい企業と見せかけるため、登録資本金だけ大きくしている見せかけの企業が多い。今後はこのような実態と異なった企業を取り締まる」と書かれてあり、このような規定を設けた目的は、名前だけ貸して実際のところは出資しない(「ごまかしの代理人」=名義貸し)、実際のところはそれだけの資本力はないにもかかわらず、そこそこの企業と見せかけるために登録資本金だけ大きくする、こういった行為を防止するためと考えていいでしょう(※タイでは「払込済み」とすれば、払い込んだとされ、その証拠となるものは求められませんでしたので、実際には資金がなくても会社を設立することは可能でした)。
 しかしこの公示、抜け道があることが一発でわかります。たとえば、実際に予定している資本金が1,000万バーツだったとします。そして最初は400万バーツで会社を登記したとします。その後、300万バーツの増資を2回やればどうなのか。「資本金500万バーツ以上の場合」「500万バーツ以上の増資の場合」なのですから、400万バーツ(登記)、300万バーツ(増資)、300万バーツ(増資)であれば、この規定に引っかからないことになります。商務省に「400万バーツで登記し、その後300万バーツの増資を2回やればどうなのか。銀行からの残高証明が必要なのか」と問い合わせると、必要ない、とのことでした。だったら、こんな規定、全然意味がないですよね?
 そういう抜け道に気が付いたのか、すぐにこれを訂正する公示が出されました。訂正事項は、

 増資をし、資本金が500万バーツ以上になる場合、増資登録の際に銀行の預金残高証明を提出すること。

 以上のとおり、「500万バーツ以上の増資の場合」が「増資をし、資本金が500万バーツ以上になる場合」に訂正されました。これだったら、400万バーツ(登記)、300万バーツ(増資)、300万バーツ(増資)としても、最初の増資で資本金が700万バーツになるわけですから、預金残高証明が必要になり、措置としては適切性はあるでしょう。
 しかし、この公示で疑問に感じたのでは、400万バーツで登記し、その後、100万バーツを増資し、さらに500万バーツ増資をして1,000万バーツにするのはどうなのか、ということです。最初の設立時は400万バーツなので残高証明は必要ありません。最初の100万バーツの増資で資本金が500万バーツになるのでここでは残高証明が必要になるでしょう。しかしその後の500万バーツの増資はどうなのか。「増資をし、資本金が500万バーツ以上になる場合」であり、すでに資本金が500万バーツあっての増資は「資本金が500万バーツ以上になる」も何も、すでに500万バーツあるのだからから残高証明は必要ないのではないか。だったら、実質上は500万バーツしかなくても、登録資本金を2,000万バーツ、3,000万バーツとすることもできるのではないか、と問い合わせると、すでに500万バーツあるかどうかは関係ない、増資をした結果、資本金が500万バーツ以上になるというのではなく、500万バーツが600万バーツになろうが1,000万バーツが1,500万バーツになろうが、従来の資本金にかかわらず、増資後の資本金が500万バーツ以上であれば残高証明が必要、これはそういう解釈だ、との回答でした。ん~なるほど、それなら話はわかります。
 その後、さらに以下のような公示が出されました。

 登録資本金が500万バーツ以上の場合、会社を設立する際には登記申請書とあわせて、いずれかの署名権付き役員が資本金を回収したことを示す残高証明を提出し、登記後15日以内に法人名義口座に回収した資本金を移したことを示す残高証明を提出すること。

 ようするに会社代表者の個人口座に各出資者が振り込み、その個人口座の残高証明を登記申請時に提出し、その後、法人名義口座を開設し、資金をそこに移して残高証明を取り寄せ、それを登記後15日以内に提出しろ、ということです。
 しかし、署名権付き役員が外国人である場合はどうなのか。各出資者がいずれかの署名権付き役員の個人口座に振り込むも何も、外国人の場合、労働許可証がないと口座が作れません。たまに労働許可証がなくてもOKというところがありますが、外国人は、原則的には労働許可証がないと口座は作れません。労働許可証は会社がないと申請できません。登記には個人口座の残高証明が必要、しかし口座開設には労働許可証が必要、労働許可証取得には会社が必要、じゃ、どうすればいいのか。
 このときの商務省の役人の回答は面白かったですね。まず、この公示の意味は、「会社代表者の個人口座に各出資者が振り込み、その個人口座の残高証明を登記申請時に提出し、その後、法人名義口座を開設し、資金をそこに移して残高証明を取り寄せ、それを登記後15日以内に提出しろ」ということか、と尋ねると、そうだ、と答えます。じゃ、署名権付き役員が外国人の場合はどうなんだ? BOIから認可を受ければ外資100%が可能なんだし、49:51の企業でも、タイ人は金を出す株主にすぎず、経営は日本人、署名権付き役員が日本人だけというのは珍しいことではない、こういう場合はどうなのか? 外国人は労働許可証がないと個人口座が作れない、労働許可証は会社がないと申請できない、それでどうやって登記申請時に個人口座の残高証明を出せというんだ?と尋ねると、「その場合、まず、誰かタイ人を署名権付き役員にするといい。そうすれば残高証明が提出できるはず。その後、そのタイ人を署名権付き役員から外せばいい」と堂々と言ってきました。それって、名義借りじゃないのか、商務省の公示に「ごまかしの代理人については、継続的、本格的に調査する」と書いてあるじゃないか、「ごまかしの代理人」とは名義借りのことだろ? 本来は署名権付き役員ではないのに、そのときだけ署名権付き役員にするのは名義借りだろ? 名義借りしてもいいのか? 商務省はそれを認めるのか? と突っ込むと、返答に困り、口をもごもごさせました。別にいじめようというわけではないのですが、こっちとしては、ものすごく重要なことですから、はっきりさせておかないといけません。どうなんだ、名義借りしろというのか、どうすればいいんだ、とさらに追い討ちをかけると、「とにかく、公示ではそうなっている」、公示の内容は理解できた、公示でどうなっているのかを聞いているのではない、登記には個人口座が必要、個人口座開設には労働許可証が必要、労働許可証申請には会社が必要、ではどうすればいいのか、と聞いている、返答に窮した役人から出てきた言葉は「私は知らない」でした。
 気持ちはわかりますが、「私は知らない」はないでしょう。「現時点での公示ではこのようになっているが、本当に今あなたが指摘している矛盾があるというのであれば、それに対応した新たな公示が出るはずなので、今後の公示に注意してほしい」とか、当たり障りのないことでも言えばいいものを、いかにも自分の職務ではないから関係ないとばかりに「知らない」と堂々と言ってきます。別に商務省だけではないのですが、タイの役人は、「自分には関係ないことだから知らない」と当たり前のように言ってきます。そりゃそうかもしれませんが、一般国民に言うことじゃないですよね?
 話を続けますが、たぶん、いろいろなところから指摘されたのでしょう、続いて以下のような公示が出されました。

 署名権付き役員が外国人である場合、口座開設には労働許可証が必要、労働許可証申請には会社が必要、従って、署名権付き役員個人の残高証明が提出できないことの説明文を会社登記の際に登記官に提出すること。

 BOIやIEATのことにも触れられていましたが、ようするに、他の法律、規定との関係でどうしようもない場合には、説明文を作成して提出しろ、ということです。
 たぶん、今、法規定の見直し、整備を急速にやっている役所は商務省だと思います。これまでは実際には資本金がなくても会社が作れたのですが、これはどう考えてもおかしいわけで、資本金以外にも、まだまだおかしいことはたくさんあります。たとえば、株の持ち合いです。
 たとえば、Aという日本法人があったとします。そしてBというタイ法人とCというタイ法人があったとします。B社の株主がA社49%、C社51%、C社の株主がA社49%、B社51%とすると、アホみたいな話ですが、現行の規定では、実質上はB社もC社も外資100%でありながら、外国人事業法に引っかかりません。A社は日本法人ですから外国人になりますが、B社はC社が51%持つことにより、C社はB社が51%持つことにより、ともにタイ人が51%を保有しているタイ法人となり、外国人事業法には引っかかりません。
 株の持ち合いについては、数年前から商務省も動き始めているようで、個人的には、資本金よりは、こっちのほうがよほど重要だと思うのですが、まだ明確な規定は出されていません。たぶん、これも資本金と同様、そのうち規制がかかることでしょう。
 サービス業に多いのですが、実際にはそれだけの資本金はないのに会社を作っているところはたくさんあります。会社を2つ作り、株の持ち合いをしているところもたくさんあります。商務省の公示には「クリーンなビジネス界」という言葉があったのですが、実態と異なることについては、今現在は法律違反でなくても、たぶん、いずれは何らかの規定が出されるでしょう。
 今後の商務省の動きには、注意しておいたほうがいいと思います。

勉強不足の旅行代理店
 最近、ちょくちょく「WP3」の話が出るようになりました。
 つい最近も、お客さんから「Non-Bの取得を旅行代理店に依頼したところ、旅行代理店からWP3が必要と言われた、どうすればいいのか」という相談を受けました。このお客さんはBOIから認可を受けていますので、スムーズにNon-Bが申請できるよう、あらかじめNon-B発給協力要請をBOIに提出し、そのレターをもらっていましたので、BOIからのレターがありますのでWP3は必要ないと旅行代理店に言って下さい、とお客さんに言ったところ、お客さんも旅行代理店にそのように言ったらしいのですが、この文書(BOIのレター)はWP3ではない、タイ大使館からはWP3と言われているのだから、WP3を用意してほしい、と言われたそうです。じゃ、申請者本人に自分で申請に行かせてみてください、と言ったところ、何事もなく、ちゃんとNon-Bが取れました。
 以前、なんとかというクソ旅行代理店から「そちらと顧問契約をお願いしたい、今検討中だが、その前にお聞きしたいことがある」なんていうコンタクトがあり、質問は基本的なことばかり、こんなことも知らなくて、よくもまあ、専門家気取りで客から金を取っているものだという内容でした。で、根掘り葉掘り聞いて、その後はプツリと連絡なし、顧問契約もへったくれもない、ようは顧問契約とか何とか適当なことを言って、こちらのノウハウをタダで手に入れたかっただけ、ま、旅行代理店に限らず、サービス業の連中というのはこういうやつらばかりなので、最初から意図は見え見えでしたが、ほんとに腹の立つ連中が多いです。
 話を元に戻しますが、「Non-Bの取得を旅行代理店に依頼したところ、旅行代理店からWP3が必要と言われた」という相談が来るたびに、WP3とは何なのか、旅行代理店にちょっと聞いてみてください、と言っているのですが、いまだかつて、WP3のことをきちんと理解している旅行代理店はありませんでした。WP3というのは、会社(雇用主)が本人入国前に事前に労働許可証を申請する様式を言うのですが、WP3=事前の労働許可証申請、ということを知っているところはありましたが、どういう性質のものなのか、本質まできちんと理解しているところはありませんでした。
 以前はWP3がなくても大丈夫だったのですが、日本人の場合、ノービザでも30日間滞在できますから、ノービザで行き来することも可能ではあります。しかし、いざ、本当に労働許可証を申請しようと思ってNon-Bを申請しようとしても、明らかに観光目的とは思えない渡航履歴が多い場合、どうせNon-Bを取っても労働許可証は申請しないつもりだろうという疑いの目で見られてしまうのは当然で、WP3が要求されるようになったのも、きちんと労働許可証を取得する意思があることの確認のためでしょう。タイ大使館に確認したわけではありませんが、これまでタイへの渡航履歴がほとんどない人は要求されずにそのまま発給され、ノービザでの渡航履歴が多い人に限って要求されたことを考えると、たぶん、この推測は当たっていると思います。
 今回のケースについては、こっちもノービザでの渡航履歴が多い人であることは知っていたので、たぶん、引っかかるだろうと思って事前にBOIからのレターを用意していたのですが、旅行代理店のほうがレターの意味を全然理解していなかったらしく、必要書類の中に入っていない、と勝手に申請書類一式の中から抜いてタイ大使館に提出し、タイ大使館からWP3を持って来いといわれ、それで「WP3を用意してください」と言ってきたみたいです。こっちからすれば迷惑千万、バカじゃねえの、もうちょっと勉強しよろ、といったところです。
 WP3というのは、会社(雇用主)が本人入国前に事前に労働許可証を申請する様式を言いますが、労働局の様式であって、BOIの様式ではありません。一般企業の場合、

①Non-B申請(国外のタイ大使館)
②タイ入国
③労働許可証申請(労働局)
④Non-B延長申請(入管)

 通常は以上の流れなのですが、

①労働許可証事前申請(労働局)
②Non-B申請(国外のタイ大使館)
③タイ入国
④Non-Bを取得してきたことの届出(労働局)
⑤Non-B延長申請(入管)

 以上のように事前に申請することもできます。この場合の①の様式をWP3といいます。しかしBOI企業の場合、

①Non-B申請(国外のタイ大使館)
②タイ入国
③就労許可申請(BOI)
④労働許可証取得(労働局)
⑤Non-B延長(入管)

 以上の流れになります。
 以上のように、一般企業の申請先は労働局と入管の2箇所ですが、BOI企業の場合、申請先はBOIのみであり、労働局、入管 に対するものは、文書は「申請」ですが、実質上は「申請」ではなく、「BOIから就労許可を得たことの届出」という性質を持つものです。
 BOI企業が就労を申請するのはBOIであって労働局ではないのですから、労働局への事前申請の様式であるWP3が入手できるわけはありません。BOIの恩典を行使せず、一般企業と同様に労働許可証を申請することもできますので、できないこともないのですが、なぜここでBOIの恩典を行使せずに一般企業と同様に労働許可証を申請しないといけないのか、BOIにはビザ発給協力要請という恩典があるのですから、その恩典を行使せず、WP3を申請する必要性など、全くありません。ようは、旅行代理店が全然わかっていないだけなんですよね。
 BOIからのレターを用意しているにもかかわらず、「旅行代理店からWP3が必要と言われた」という相談を受けるたびに、旅行代理店にはもうちょっと勉強してほしいな、と思います(本業ではなくても、それで金をもらっているのですから)。

罰金も1つの方法
 つい最近、お客さんの住所変更をしました。会社を設立したばかりなのですが、設立時にはまだレンタル工場が決まっていなかったので、とりあえず、お客さんの知り合いの会社の住所を借りて会社登記をし、その後、レンタル工場を契約して住所を変更するという形でしたが、このような場合、罰金を払って、さっさと変更したほうが後々の作業がスムーズになることもあります。
 住所を変更する場合、VAT登録をしていなければ国税局は関係ありませんから、商務省への届出のみとなり、県が違う場合には、住所を変更することを(定款を訂正することを)先に新聞に掲載し、14日間の期間をおいて変更手続きが可能になるのですが、同じ県である場合、定款を訂正する必要はありませんから、そのまま手続きを行うことができます。すでにVAT登録をしている場合は、商務省だけでなく、国税局にも変更届を出さないといけないのですが、国税局の場合、同じ県であろうが違う県であろうが15日前までに変更届を出さないといけません(単なる書類上の問題にすぎませんけど)。
 たとえば、2月15日に国税局に届け出る場合、移転日は3月2日以降でないといけないのですが、これは単なる原則にすぎず、2月15日に翌日の2月16日を移転日として届け出ても全然かまいません。過去にさかのぼって(たとえば2月1日を移転日として)届け出てもかまいません。15日前までに届け出なかったとしても、機械的に罰金を払えばそれで済むことです。罰金が数万バーツとか、あるいはその後の会社経営に影響を及ぼすというのであれば考えものですが、最高で2,000バーツですし(届け出る期間や担当官の判断によります)、罰金とはいっても、駐車違反と同じようなもので、全然会社運営に不利益になるものではありませんから、さっさと払ってしまったほうがいいときもあります。
 単なる書類上の問題にすぎず、移転日を便宜上15日後にして提出すれば罰金を払わなくてもいい、だったら15日後にして提出してもいいのではないか、たかが2,000バーツとはいえ、払わなくてもいいものは払わなくてもいいのではないか、というところなのですが、こういうところがトラブル防止のポイントになります。
 私の理念は「予防」です。考えられうるトラブルを事前にシミュレーションしておき、可能な限り、1つ1つ潰しておくことです。移転日を15日後にして届け出れば、確かに罰金を払う必要はありません。しかし、この場合、その日までは旧住所を使わないといけません。その日までは旧住所、その日以降は新住所、そうすると、必ずと言っていいほど、本来は旧住所でないといけないところが新住所になっていたり、新住所でないといけないところが旧住所になっていたり、書類の住所がごちゃごちゃになります。住所がごちゃごちゃになっていたら、書類を作り直さないといけなくなり、もしタックスインボイスであれば、自社だけでなく、お客さんに渡したタックスインボイスも差し替えてもらわないといけなくなります。ところが翌日を移転日として届け出れば、翌日以降作成する書類は新住所にすればいいので、住所がごちゃごちゃになることはありません。もしかしたら、そんなトラブルは起こらないかもしれません。しかし、2,000バーツ以上の労力がかかるトラブルになるかもしれません。金額が大きければ考えものですが、たかが2,000バーツで確実にそのトラブルが防止できるのであれば、払ってしまったほうがいいというのが私のスタンスです。
 あえて罰金を払ってすぐに変更するか、あるいは15日後にするか、それはお客さんの状況を考えた上で判断します。すでにタイ人スタッフを採用しており、そのスタッフがベテランでしっかりしている場合は15日後にしますし、未経験とか単なる通訳とか、あるいはまだ採用していないという場合には、罰金を払ってすぐに変更します。
 払わなくてもいい罰金をあえて払うことがお客さんのためになることもあります。トラブルを予防するためには、こういう角度から見ることも大切ではないかと思います。

外国人事業法改定の動向
 昨年末から外国人事業法が改定されるという噂が流れていましたが、当面、改定しないことが発表されました。
 外国人事業法では、事業を第1類、第2類、第3類に分類しており、通常の事業のほとんどは第3類になりますが、今回の改定は、第3類の見直しがポイントでした。第3類のいくつかは、もう削除してもいいのではないか(=外資100%でもいいのではないか)ということで、ちょっぴり期待したのですが、今のところは現状のままとなりました。
 商務省の発表では、

①外国からの投資の促進
②手続きの簡素化
③既存の事業主への影響
④タイの競争力

などの観点から第3類の事業リストを見直すというもので(=第3類から削除されれば、規制対象外となり、外資100%でも操業可となる)、保険業と銀行業が削除の候補例に挙げられていたのですが、

1)双方ともに他の法律によって管理されている(保険業=保険業管理事務局、銀行業=タイ中央銀行)
2)双方ともにタイの競争力はある

つまり、別の法律で管理、監視されているのだから、外国人事業法規制対象とするのは二重の管理になるのではないか、すでにタイの競争力はあるのだから、規制をかけずに外国からの投資を誘致したほうがタイ経済には有益なのではないか、ということです。
 当面は改定されないことになりましたが、さらなる検討が必要ということで中止ではありませんから、改定に期待したいところです。
 個人的な意見なのですが、飲食業は削除してもいいのではないかと思っています。店を開いたが全然客が入らない、ということになっても、開店資金やら何やらである程度の金は使うことになるわけですし、そもそも飲食業はタイも競争力がある、というより、日本人が日本料理店を開いたところで、一般タイ料理店に影響があるとも思えませんので、飲食業はどうでもいいのではないかと思っています。
 この商務省の発表の最後には「ビジネス界全体に良きイメージを築き、ビジネス界のクリーン化のために、ごまかしの代理人の調査は継続的かつ本格的に行う」と付け加えられているのですが、「ごまかしの代理人」というのは、たぶん名義貸しのことでしょう。
 数年前から会社登記の際には、外国人が署名権を持っている場合や署名権を持っていなくても40%以上の株主である場合には、タイ人株主全員の銀行発行の残高証明の提出が義務付けられたのですが、これは本当にそのタイ人が出資しているかどうかのチェック(名義貸しかどうかのチェック)のためです。しかし、それでも名義貸しは防止できません。抜け道なんて、いくらでもあります。たとえば、会社登記時には日本人の株保有率を40%未満にし、署名権者はタイ人のみにしておくと残高証明は提出しなくてもかまいません。登記したあと、日本人の株を49%にし、日本人を署名権者とすればいいだけです。また、日本人100%で登記し(※事業ができないというだけで登記は可能です)、登記後、タイ人を51%の株主にすれば、事業を行うことができるようになります。株主の変更は、新しい株主名簿を提出するだけで、チェックなんてされません。
 以上のように、どのように法律、規定を改定しても、必ず抜け道はありますから、名義貸しを根絶することは、まずできないといっていいでしょう。そんなことは商務省もわかっていると思います。だったら、どうでもいいものは最初から外国人事業法規制対象外にしたら?という議論が出てくるのも自然な成り行きだと思いますので、そういうことも見直しの一因になっているのではないかな、という気もします(私の推測にすぎませんけど)。

国内観光旅行が所得税控除対象に
 個人所得税の確定申告(通称ポーゴードー91)は、毎年3月31日までなのですが、そのとき、昨年度分の国内旅行の経費も15,000バーツを限度に控除対象にすることができるようになりました。たぶん、デモやらクーデターやらで外国人観光客が減り、観光業界が落ち込んだからでしょう。
 条件は以下のとおりです。

1. ツアーの場合、正規の旅行代理店(きちんと登録している業者)であること。
2. 個人の場合、チケット代、飲食代は不可。正規のホテルのみ(きちんと登録しているホテル)。
3. 申告する本人の氏名で領収書又はタックスインボイスを発行してもらうこと。
4. 本人、配偶者ともに収入があり、それぞれが確定申告している場合、それぞれが15,000バーツを限度に控除してもよい。
(※申告者本人にしか収入がない場合は一家族15,000バーツ。配偶者にも収入がある場合は一家族30,000バーツ)

 とはいっても、日本人の場合、労働許可証の関係もありますし、日本のように配偶者も気軽に働けるという環境ではありませんから、一家族15,000バーツが限度になるでしょう。日本人の給与を考えると、たかが15,000バーツでは微々たるものでしょうから、日本人にはあまり意味のない措置かもしれません。

資本金の払込証明
 日本では、会社を設立するときに先に代表取締役になる予定の人の個人口座に各出資者が自分の出資分を振り込み、その通帳のコピーを提出するかと思いますが、タイでは、領収書だけでOKなので、実際の支払いがなくても会社を設立することは可能です。
 会社を設立する際にはいろいろな書類が必要ですが、資本金については、「誰それから○○株分の△△バーツを受け取った」という領収書を提出します。受取人は会社登記申請者です。決められたフォームはなく、必要な事項が入っていれば、様式は自由です。つまり、会社登記申請者が出資者から各人の出資分を現金で受け取り、それをその人が保管しているという形で設立します。
 通常は会社登記申請者が各株主から現金で受け取り、それを自分が保管しているということにして(あくまで書類上ですが)会社を設立し、その後、会社名義の銀行口座を開設し、資本金を振り込む、ということになり、これまではその振込みには期限はなかったのですが、来年1月5日から、資本金が500万バーツ以上の場合、会社設立後15日以内に銀行が発行した残高証明(通帳コピー不可)を提出しないといけないことになりました。これは2014年11月19日付中央会社登記事務局(商務省)の公示によるもので、主な内容は以下のとおりです。

1. 資本金500万バーツ以上の場合、登記日から15日以内に銀行の預金残高証明を提出すること。
2. 増資をし、資本金が500万バーツ以上になる場合、増資登録の際に銀行の預金残高証明を提出すること。

 現金での払込のほか、他の資産での払込の場合についても触れられていますが、これは関係ないでしょう。
 2. は、先に増資分を振り込んでおけばいいだけなので、特に影響はないと思われますが、1. は、大きな影響が出てくることが予想されます。
 新規に会社を立ち上げる場合、これまでは資本金の払込期限がありませんでしたので、まだそれだけの資金は用意できていないが、とりあえず、払込100%で会社を設立し、ボチボチ資本金を払い込む、ということでもよかったのですが、今後は本当に払込がないといけませんので、日程、払込額は十分検討しておかないといけません。
 たとえば、資本金が4,000万バーツとします。満額払込済みということで会社を設立すると、登記日から15日以内に4,000万バーツの残高証明を提出しないといけなくなります。タイでは登録資本金の25%以上の払込みで会社設立が認められますので、25%(1,000万バーツ)の払込で会社を設立すると、1,000万バーツの残高証明を提出しないといけなくなります。
 資本金4,000万バーツを予定しているが、すぐさま用意できるわけではない、①とりあえず用意できるのは1,000万バーツだけ、というのであれば、25%の払込で会社を設立し、設立後、直ちに1,000万バーツを送金し、銀行から残高証明をもらい、それを提出する、②とりあえず用意できるのは700万バーツだけ、という場合は、25%以上の払込があること、という会社設立の条件が満たされませんので、設立は見合わせたほうがよいでしょう。
 これは日程にも影響すると思われます。これまでは、とりあえずタイに来て会社を設立し、その後すぐに日本に帰り、次回来たときに銀行口座を開設する、というケースが多かったのですが、今後は設立直後に銀行口座を開設しないと、15日以内という提出期限に間に合いません。あらかじめ資金を用意しておき、送金準備をしておいて、その上でタイに来て会社を設立し、翌日直ちに銀行口座を開設、開設後、準備しておいた資金を送金、入金後、残高証明を取り寄せて提出、そういう段取りでないと間に合いませんので、設立から残高証明提出まで連続してタイにいる必要があります。
 これを回避する方法ですが、先に述べたように、以上は資本金が500万バーツ以上の場合ですから、500万バーツ未満にしておけば、以上の新規定は適用されません。
 仮に本来の資本金が4,000万バーツとします。これをまともに登記しようとすると、以上のような問題が発生しますので、登記時の資本金は500万バーツ未満にしておくことです。そうすると、銀行の残高証明を提出する必要はありませんので、そう焦って資金を用意したり、銀行口座を開設したりする必要もありません。
 たとえば、とりあえず400万バーツで設立し、その後、銀行口座を開設し、資金が調達できたとき、4,000万バーツを送金する、それから銀行から残高証明を取り寄せて増資登録をする、会社設立と増資と、二度手間になりますが、資金がすぐに用意できない、あるいは日程に余裕がないという場合、これが1番無難な方法ではないかと思います。

「みんなやっているじゃないか」
 タイ人を雇っていると、つくづく感じるのが精神年齢の低さです。ここまで言わなきゃわからないのか、なぜここまで言わないといけないのか、なんて思うことが度々あります。
 昨年9月から採用した従業員は、これまでの従業員に比べると掘り出し物といってもいいぐらい、よくやってくれています。その意味では感謝しているのですが、やっぱり精神年齢が低いことは否めません。
 先日、i-phoneのことで注意したときのことです。前々から気になっていたのですが、私と話しているときでも、i-phoneをちらちら見て、いじくっています。「お前なあ、いつも俺と話をしているときでもi-phoneをいじくっているが、失礼だと思わないのか?」と尋ねると「自分たちの世代では人と話をしているときでもi-phoneをいじくるのは普通だ」と答えました。こういう意識であるとき、頭から「俺と話をしているときにi-phoneをいじくるのはやめろ」と注意すると、かえって逆効果になることがあります。こういう意識の人間にガツンと言うと、「大したことないじゃないか、この程度のことでグチャグチャ文句を言う、細かい、口うるさい」ということになるでしょう。
 「俺は日本人だし、歳もお前よりはずっと上だ、もしかしたら俺がタイ人、お前たちの世代に理解がないのかもしれない、人と話をしているときでも、しかも雇用主と話しているときでもi-phoneをいじくるのは、日本人、俺たちの世代の感覚では失礼だ、だが、タイ人、お前たちの世代では失礼ではないというのであれば、今後、誰を雇っても、みんな同じことをするだろう、それでいちいち怒っていたら誰も雇えない、だったら俺がタイ人、お前らの世代の行為を理解しないといけない、でないとタイで仕事なんかできない、だから聞くが、本当にタイ人、お前らの世代では、雇用主と話しているときでもi-phoneをいじくるのは失礼じゃないのか、一般的な社会通念上、失礼とされるのか、失礼じゃないのか、どっちなんだ?」と聞くと、「みんなやっていることだが、一般的には不適切だとはされると思う」と答えました。「不適切かどうかではなく、失礼か、失礼じゃないのかを俺は聞いている」と言っても、決して「失礼」とは言いません。言葉を濁しながら「まあ、不適切だと思う」としか言いません。「それならそれでいいが、じゃあ、お前はどう思っているんだ?一般的には不適切とされている、しかしお前は俺の前でもi-phoneをいじくる、一般的には不適切とされてはいても、お前自身はどう思っているんだ?それは古い人の考えで、今の世代には通用しない、決して不適切ではない、と思っているのか?」とさらに突っ込むと、「自分でも不適切だとは思う」、「自分自身で不適切だと思っていながら、なぜお前はやるのか?お前自身が不適切だとは思っていないというのであれば、まだ話はわかる、だが、お前自身が不適切だと思っていながら、なぜ、やるのか?」、「不適切だけれども、この程度のことはいいと思っていた、みんなやっている」と答えました。
 でました!「みんな、やっているじゃないか」・・・・・子供の言い訳ですよね?親が子供を叱る、子供は「だって、○○ちゃんもやっているよ」と言う。全く同じレベルの言い訳です。
 この従業員は、私と一緒にいろいろな役所に行っていますので、日ごろの私の行動は見ているはずです。私はタバコを吸いますが、ポイ捨てはしません。車には水を入れたペットボトルを置いており、それを灰皿にしています。また、私はオフィスにはほとんど行かず、自宅で仕事をしていますので、たまに自宅に来させることもあります。私の家は私の家です。2年前に会社名義で買ったものです。100%私のものです。この中では何をしようが私の勝手です。誰もいないときには室内でタバコを吸いますが、従業員が来たときには外で吸っています。「あのな、お前は俺がタバコの吸殻を道端に捨てないことは見ているだろ?必ずペットボトルに捨てているだろ?吸殻程度、道端に捨てたところで誰も文句は言わないことは俺もわかっている、でも道端に吸殻を捨てるのは不適切なことだと俺は思う、みんな捨てているからといって、自分も捨てていいとは俺は思わない、俺は不適切だと思う、だから道端には捨てない、お前が家に来たとき、俺は外でタバコを吸っているだろ?俺の家は俺の家だ、何をしようが俺の勝手だ、でもお前が来たときには中では吸わないだろ?いくら自分の家だからといって、タバコを吸わないお前がいるときに中で吸うのは、俺は不適切だと思う、だから外で吸っている、みんなやっているかどうかは関係なく、自分自身が不適切だと思うのであれば、やらないべきなんじゃないのか?『みんなやっている』=『自分もやっていい』ということにはならないんじゃないのか?」
 ・・・以降、i-phoneをいじくるのはやめましたが、たかがi-phone 1つでここまで言わなきゃいかんのですよ。疲れますよ、ほんとに。
 以上のi-phoneのように、自分自身でも「良くない」という自覚はあることが多いので、叱ったところで、なぜ叱られたのかは、もちろん理解できるでしょう。でも、すぐに「みんなやっているじゃないか」ということになりますので、頭ごなしに叱ると、「みんなやっていることなのに口うるさい、細かい」と反発を持たせることになりかねません。日本人の場合、頭から叱りつける人が多いのですが、叱り方には注意したほうがいいと思います。「こんなことまで言わなきゃいけないのか」と思いつつも、子供を叱るようなつもりで叱るほうがいいと思います。

新聞掲載の必要性
 会社設立をはじめ、その後の役員変更、住所変更、株主変更などの作業にどのくらいの時間がかかるのかはよく尋ねられます。書類そのものはすぐに作成できるのですが、新聞に掲載し、一定期間が経過しないと実行できないことが多いので、「どのくらいの時間がかかるのか」=「新聞に掲載する必要があるか」と考えてもいいでしょう。
 では、何を新聞に掲載するかのというと、株主への株主総会召集文です。たとえば、まだ工場が完成していないことから最初はバンコクの仮事務所で会社を設立し、完成後、住所を変更するとします。その場合、

○○社株主殿
何年何月何日、どこそこで(会社住所)で住所変更を議題とした株主総会を開催する。

 まずは以上のような告知文を新聞に掲載します。ただし、日付に注意しないといけません。県をもたがった住所変更の場合、株主総会の14日前までに掲載しないといけないことになっていますので、たとえば2014年11月15日に新聞に掲載したとすると、上記の「何年何月何日」は、2014年11月30日以降になります。つまり、11月15日に「住所変更をしたい」と言われても、16日の掲載に間に合えば12月1日以降、17日になれば12月2日以降でないとできないということです。ただし、住所変更の場合、同じ県であれば、掲載する必要はなく、そのまま変更することができます。つまり、11月15日に「住所変更をしたい」と言われれば、すぐに書類を作成し(大した量ではありませんので)翌日の16日には変更が可能です。
 以上のように、書類作成そのものには大して時間はかからないのですが、新聞に掲載し、一定期間が経過しないと作業ができませんので、「どのくらいの時間がかかるのか」=「新聞に掲載する必要があるかどうか」と考えてもいいわけです。新聞はどの新聞でもいいです。
 でも、日本資本100%のBOI企業にとっては非常にバカバカしい召集文で、「○○社株主殿」といっても、ほとんどの場合、日本本社じゃありませんか。株主が日本本社、社長、役員、現地法人社長の場合、こんなものを、しかもタイ字紙に掲載したところで何の意味もありません。全く意味がないのですが、日系企業だけではありませんから、仕方ないといったところでしょうか。
 主な作業については、以下のとおりです。

1. 会社設立
 掲載の必要なし。すぐに可能。

2. 住所変更
 ①同じ県である場合は掲載の必要なし。すぐに可能。
 ②県が違う場合は掲載の必要あり(14日が経過したとき可能)。

3. 役員変更
 掲載の必要あり(7日が経過したとき可能)。

4. 株主変更
 掲載の必要なし。すぐに可能。

5. 増資
 掲載の必要あり(14日が経過したとき可能)。

6. 社判変更
 掲載の必要なし。すぐに可能。

社判に日本語を使う場合
 会社を設立するとき、社判も登録しますが、社判はロゴだけでもかまわず、社名は入れても入れなくてもかまいません。従って選択肢としては、

1. ロゴのみ
2. 社名のみ
3. ロゴと社名の両方

 以上の3つがありますが、ほとんどの企業が3ではないかと思います。ただし、社名を入れる場合は、社名だけでなく、株式会社なら「株式会社」という単語も同言語で入れなくてはいけません。
 ごくたまに、従来から社名そのものを少しデザインし、それをロゴにしている場合もあり(たとえば、このページの上の「さいとう」など)、それを中央に置き、周りをタイ語と英語の社名で囲むという社判を希望される方もいらっしゃいます。日本語を社判に入れるのは、ちょっとした手続きをすれば簡単にできることではあるのですが、たぶん、入れようという気にはならないと思います。
 ロゴは各企業が好きにデザインしてよく、あくまでシンボル、マークにすぎませんし、社名はタイ語と英語で入れており、日本語とはいってもロゴなんだからどうでもいいじゃないか、というところなのですが、ロゴが記号とかマークとか、発音できないものであればともかく、文字として発音できるものであれば、ロゴではなく、社名とみなされ、社名を日本語で表記しようとしているということで、「社名を入れる場合は株式会社という単語も同言語で入れなくてはいけない」という原則が適用されます。つまり、社名を日本語でデザインし、それをロゴにしようと思っても、ロゴではなく、社名を社判に入れようとしているとみなされ、「株式会社」という単語も日本語で入れなくてはいけないということです。
 この手続き自体は全然難しいことではなく、通常の書類に加え、「外国語使用許可申請書」という簡単な書類を機械的に提出すればいいだけのことなのですが、問題は「株式会社」という単語です。
 商務省には「外国語で社名を入れようとする場合、合資会社、合名会社、株式会社など、形態を示す単語が以下のとおり、その言語で記されていなくてはならない」という内部規定があり、実際に登記官に見せてもらったのですが、フランス語、ドイツ語、オランダ語、インドネシア語など、各国の言語が書かれており、日本語の株式会社のところを見ると、「株會式社」と書かれていました。
 この内部規定に書かれてあるとおりの単語でなくても「株式会社」という単語が日本語で入っていればいいのか?と尋ねると、「このとおりでなくてはならない」、これ、間違っているぞ、間違っていてもこのとおりでなくてはならないのか、と突っ込むと、「日本語がわからない我々は商務省本部の取り決めに従うしかない」、まあ、実際に登記手続きを行う一介の登記官としては当然でしょう。本部をなんとかしないとどうにもならない問題ですから、登記官にどうのこうの言ったところでどうしようもありません。
 「株會式社」という単語を入れ、外国語使用許可申請書を提出すれば簡単に認められることではあるのですが、「株會式社」・・・入れようという気にはならないのではないでしょうか。

先輩のアドバイスを疑うべし
 私たちの仕事で障害の1つになるのが先に進出している企業からのアドバイスです。実際のところは法律違反であっても、「すでに進出しているところから問題ないと言われた」というのは、よくあることで、こうなると、いくら説明しても、なかなか聞き入れてくれようとしません。これから進出しようとしている企業にとって、先に進出している企業からのアドバイスは大いに参考になることではあるのですが、ときには道を誤らせてしまうこともあります。
 つい最近、知り合いから「ベーカリーショップを開きたいという人がいて、日本資本100%で会社を設立したいとのこと。何でも、先に進出している日系ベーカリーから、ベーカリーショップはパンを作って販売するので製造業になる、だから外資100%でも営業できるとアドバイスされたそうだが、これはどうなのか?」と尋ねられました(※製造業は外国人事業法規制対象外なので、外資100%でも、そのまま営業ができます)。
 話を聞くと、一般の店舗を借り、厨房でパンを作って棚に並べ、お客さんがトレイを持ってパンをつかんでいくという、ごく一般にイメージするベーカリーショップのようで、こんなのは「飲食物販売業」といい、製造業になるわけはありません。
 製造業といっても、必ずしも工業関係である必要はなく、食品でももちろん対象になるのですが、製造業というのは、簡単に言うと、①全く同じものを複数個作り、不特定多数の人に販売する、②オーダーをもらってから作るのではなく、まずは自社製品があり、それを顧客が買っている、の2点がポイントになります。全く同じものを複数個作るには、きちんとした設備、機械を完備し、生産ラインを持たないといけません。つまり、規定としては「製造業は工場でなくてはならない」という条件はないのですが、実質上は工場でないといけないということです。日本におけるヤマザキパンにように、タイのパンメーカーでまず思い浮かぶのはファームハウスというところなのですが、スーパー、コンビニ、どこででも売られています。私の毎日の朝ご飯もファームハウスのパンです。会社を見たことはありませんが、当然工場で生産しているでしょう。こういうところであれば、製造業になるでしょうが、街角のベーカリーショップが製造業になるわけはありません。もし製造業になるというのであれば、その辺の飲食店、すべてが製造業になってしまいます。
 「先に進出している日系ベーカリーから、ベーカリーショップはパンを作って販売するので製造業になるとアドバイスされた」、道を誤らせるアドバイスもいいところです。特に会社の根本部分になることですから、私たちからすれば、迷惑極まりないアドバイスです。
 先に進出している企業がやっていれば、ああ、そうなんだ、それで問題ないんだ、と思ってしまいやすいですが、先に進出している企業がやっている=問題ない、とは思わないことです。
 先に進出しているベーカリーショップがどういう形態なのかはわかりませんが、もし同様の形態であれば、外国人事業法違反もいいところです。単に発覚していないというだけで、ベーカリーショップが製造業として認められているわけではありません。外国人事業法規制対象であることから、その状態では事業を行うことはできなくても、会社を設立すること自体は可能なので、たまに「会社が設立できたのは問題がないからで、問題があるのであれば、最初から会社設立が認められるわけはない」「設立=事業OK」という、とんでもない勘違いをしている人もいます。実際、それで営業しているところもあります。しかし、こういうことは、なかなか発覚しません。発覚は、ほとんどの場合、労働許可証申請時です。外資100%の場合、労働許可証申請には、よく外国人事業許可書が要求されますが、製造業である場合、「当社は製造業なので外国人事業法の規制対象外だから、外国人事業許可書は必要ない」という説明文を提出します。そこで労働局側が、「ほんとに製造業なのか?」という疑問を持てば、製造業であるというレターを商務省からもらい、それを提出しろ、と言ってきます。そのとき、製造業ではないということが初めて発覚するわけで、労働局の役人が何も思わず、そのまま労働許可証を発給すれば、外国人事業法違反であることが発覚しないまま何年も過ぎてしまうこともあります。
 食品関係では聞いたことはないのですが、生産業では、決して珍しいことではありません。3年ぐらい前のことになるのですが、日系企業が工場内搬送システムを作っている会社に増資という形で投資しようとしたところ、弁護士から外国人事業法違反であることが指摘されました。そこで「どういうことなのか?製造業は外国人事業法規制対象外ではないのか?」ということで、その会社から相談が持ち込まれたのですが、この会社は、各産業のメーカーから「こういう搬送システムがほしい」という注文を受け、それで製造していましたから、製造業ではなく、請負業になるので外国人事業法規制対象になる、と説明すると、本人もびっくり、意図的に法律違反をするつもりはなくても、結果的に10年以上も法律違反をしていたことになります。
 製品が製品なので、労働局側も何も疑問に思わず、労働許可証を発給していたようで、その状態で10年以上操業していたにもかかわらず、それでも弁護士から指摘があるまでは、何の問題も起こらず、操業していたわけです(※ちなみにこういう場合、「本来は就労できないのに労働局が労働許可証を発給したことから、問題がないものとこちらに誤解を与えた」という理屈で労働局に責任を転嫁しようとしても無駄です。逆に「製造業であると偽って労働許可証を申請した」とされます)。この会社は根本部分で外国人事業法に違反していましたが、同じような会社はたくさんあります。
 BOIの認可を取れば、ほとんどの業種が外資100%でも営業が可能ですが、BOIの認可事業とは別の事業をやっているところもあります。みなさん、「BOI事業とNon-BOI事業とをきちんと区別していれば問題ない」「BOIに確認したところ、区別していればやってもかまわない、と言われた」と口を揃えて言いますが、外資100%である限り、BOIから認可を受けた事業以外のことをやれば、その部分について、外国人事業法違反となります。
 確かにBOIに確認しても「BOI事業とNon-BOI事業とをきちんと区別していれば問題ない」と回答しますが、これは単にBOIの観点からでしかモノを言っていないだけです。BOIとしては、認可事業の状況がよくわかるように、また、BOIの恩典を悪用した脱税を防止するためにきちんと区別するようにと言っているだけで、認可事業以外のことについては、BOIの知ったことではありません。
 認可外事業は外国人事業法違反であり、商務省のみとの問題になるのですが、商務省が単独で摘発をするということはありませんので、たとえば、脱税容疑で国税局に徹底的に調べられ、その拍子に発覚したとか、何かがないと発覚することはほとんどないと言っていいでしょう。そうなると、「BOIに確認したら、きちんと区別していればOKという回答をもらった」→「実際にやっているが、何の問題も起こったことはない」、その結果「きちんと区別していればよい、うちはそれで問題が起こったことはない」というアドバイスにつながり、後から進出する企業もまた、「先に進出している企業がやっているのだから問題ないはず」と同じことをやるわけです。
 その他、人事労務関係でも先に進出している企業からのアドバイスで法律違反をしてしまうこともあります。たとえば、今では試雇期間中であっても解雇は1ヶ月前までに通知しないといけないのですが、いつでも解雇できるといまだに思っている人もおり、そういう人であれば、後から出てくる企業に対し、「試雇期間中なんだからいつでも解雇してもかまわない」とアドバイスすることでしょう。
 後から進出する企業にとっては、タイでの操業が長い企業ほど、信用性を感じ、アドバイスも重みをもってくるのは当然だと思いますが、同時に操業が長い企業ほど、情報がアップデートされておらず、古い情報を正しいものと思い込んでいることが多々あることは、念頭に入れておいたほうがいいでしょう。

「ブローカー業」とは?
 BOIの認可カテゴリーはいろいろありますが、その中に「International Procurement Office」、通称「IPO」というのがあります。日本語では、「部品及び半製品の国際調達事務所」と訳されているのですが、商社向けのものです。
 商社は生産能力を持たず、物品の仲介をしているだけのことが多く、「仲介」というと、なんとなく「ブローカー」というイメージを持ってしまいますが、IPOは、ブローカー業を禁止しています。
 BOIから認可を取得すると、奨励証書が発行されますが、IPOの場合、ほとんどが事業内容に「○○のための原材料、半製品、部品の調達。ただし、ブローカー業、代理業の範疇に入るものであってはならない。」と定められていることが多いのではないかと思います。問題は最後の「ただし、ブローカー業、代理業の範疇に入るものであってはならない。」というただし書きで、これだと、単に原材料、部品をよそから買ってきて、何も手を加えずにそのまま横流ししてはいけない、という印象を持ってしまいますが、BOIにおけるブローカー業というのは、そういう性質のものではありません。何も手を加えずに(品質検査は必要ですが)、そのまま横流ししてもかまいません。
 たとえば、顧客からこういうものがほしいという注文を受けたとします。それを仕入先に発注し、商品代を支払い、顧客のところに送ってもらい、顧客に商品代、輸送料、手配料を請求する、こういう流れであれば、ブローカー業になるのですが、顧客から注文を受け、仕入先から購入し、一旦自社倉庫内に入れ、きちんと品質をチェックし、それから出荷し、利益を上乗せして「商品代」として顧客に請求すれば、ブローカー業にはなりません。
 IPOの認可条件は、

1.倉庫を所有するか、長期契約によるレンタル倉庫を有し、コンピューターによる倉庫管理システムを有すること。
2.商品の調達、品質検査及び梱包業務を行うこと。
3.国内を含む複数の調達先を有すること。
4.登録資本金が1,000万バーツ以上であること。

 以上の4項目があるのですが、3.と4.はともかく、1.と2.の意味をよく考えれば、なぜ、BOIがこのような事業を認可対象にしているのかも理解できると思います。
 IPOというのは、生産サポートと考えてもいいでしょう。主役ではなく、脇役ですが、脇役の働きにより、主役は思う存分、力を発揮できるというものです。実際に生産を行うメーカーにとっては、確実に品質の良いものがスムーズに手に入れば、生産をスムーズに進めることができます。たとえばこれをメーカー自身がやったとします。納品された商品の品質が悪ければ、仕入元にクレームをつけ、ああだ、こうだということになることも当然あるわけで、そうなると生産も計画どおりに進まず、時間的ロスも発生します。
 ようするにIPOというのは、そういう手間を省くためのものです。商品を一旦自社倉庫に入れ、きちんと管理し、品質検査を行った上で納品することにより、メーカー側にとっては、計画どおりに生産を進める上で重要な存在になってきます。各メーカーが計画どおりに生産を進めることができれば、タイ経済にとってもメリットはあるわけで、そういう後方支援としてIPOは意味を持っています。
 これが、単に顧客からこういうものがほしいという注文を受け、それを仕入先に発注し、商品代を支払い、顧客のところに送ってもらうだけでは、単に顧客に代わって発注しているだけにすぎず、そういうのを「ブローカー業」といいます。
 奨励証書には、「ただし、ブローカー業、代理業の範疇に入るものであってはならない。」と書かれているが、商品を仕入れ、それを販売するだけではダメなのか、という質問を受けることもたまにあるのですが、一旦自社倉庫に入れ、自社の商品管理システムに登録し、きちんと品質検査をした上で販売していれば、ブローカー業にはなりません。
 BOIが認可を与えるのは、投資してほしい事業に限られており、どうでもいい事業に認可を与えることはしませんから、根本的なこととして、なぜ、この事業を認可対象としているのか、それを考えると、いろいろなことが理解しやすくなると思います。

源泉後の支払額
 タイでは、業者等への支払いの際、源泉徴収が義務付けられていることが多いので、請求書の金額がそのまま支払額になるというわけではありません。物品の直接売買の場合には、源泉義務はありませんので、請求書の金額=支払い額になるのですが、サービスは3%、広告は2%、輸送は1%、賃貸は5%など、取引の性質によって異なっています。また、1つの請求書の中に違った税率が混在していることもよくあります。

①サービスオフィス
 たとえば、賃貸料が40,000バーツだったとします。借主の認識では40,000バーツかもしれませんが、通常は40,000バーツまるまるが賃貸料というわけではなく、賃貸料そのものは、だいたい15,000~20,000バーツぐらいです。では、残りの20,000~25,000バーツは何なのかというと、管理費です。仮に賃貸料が17,000バーツ、管理費が23,000バーツとし、この月の電気代が5,000バーツだったとします。このような場合、

1)賃貸料  17,000バーツ
2)管理費  23,000バーツ
3)電気代   5,000バーツ
VAT    1,960バーツ
合計   46,960バーツ

 賃貸はVAT対象外ですが、管理費名目の23,000バーツと電気代名目の5,000バーツはVAT対象になりますから、VATはこの2つの7%(1,960バーツ)ということになります。そしてこの場合、いくら源泉すればいいのかといいますと、電気代には源泉義務はありませんので、

1)17,000×5%=850バーツ ※賃貸は5%
2)23,000×3%=690バーツ ※管理費はサービスの提供になるので3%
源泉合計 1,540バーツ

ということになり、実際の支払額は、45,420バーツ(46,960-1,540)ということになります。

②自動車保険
 自動車保険になると、複数の税率が混在することはありませんが、印紙代が入ります。仮に保険料が15,000バーツだったとすると、以下のようになります。

1)保険料  15,000バーツ
2)印紙代    60バーツ
3)VAT   1,054.20バーツ
合計  16,114.20バーツ

 印紙代は保険料の0.4%で、1バーツ単位です。端数がある場合は、四捨五入ではなく、切り上げます。VATは保険料からでなく、保険料と印紙代の合計額から計算します。源泉税も同様です。保険料の源泉税率は3%ですから、源泉額は451.80バーツ(15,060×3%)ということになり、実際の支払額は、15,662.40バーツ(16,114.20-451.80)ということになります。

③輸送
 ちょっとばかりややこしいです。VAT対象か対象外か、源泉対象か対象外か、源泉対象であっても税率が同じではないなど、いろいろな要素が混在しています。たとえば、

1)Insurance Premium    1,200バーツ
2)Ocean Frieght     18,000バーツ
3)THC        2,600バーツ
4)CFS Charge   1,600バーツ
5)Document Fee   1,200バーツ
6)Surrender Fee  1,200バーツ
7)Seal Charge     120バーツ
8)Customs Formality Fee   1,000バーツ
9)Service Charge    1,000バーツ
VAT  610.40バーツ
合計 28,530.40バーツ

 以上は比較的シンプルなもので、もっといろいろあります。以上のうち、1)と2)はVAT対象外です。さらに1)は源泉も対象外です。1)以外は源泉対象なのですが、2)から7)までは1%、8)と9)は3%です。これを計算すると、

VAT 8,720(3~9までの合計)×7%=610.40バーツ
源泉税 24,720(2~7までの合計)×1%=247.20バーツ
2,000(8と9の合計)×3%=60バーツ
源泉合計 307.20バーツ

 従って実際の支払額は、28,223.20バーツ(28,530.40-307.20)ということになります。

オーバーステイに注意!
 ビザを延長する際、「The Acknowledgment of Penalties for a Visa Overstay」という文書の提出が義務付けられました(初回の延長のときのみ)。内容は、「オーバーステイをした場合、以下の罰則があることを承知しました」というもので、いわば確認書のようなものです。その罰則とは、以下のとおりです。

(本人が出頭した場合)
90日以上1年未満→1年間の入国拒否
1年以上3年未満→3年間の入国拒否
3年以上5年未満→5年間の入国拒否
5年以上→10年間の入国拒否

(逮捕された場合)
1年未満→5年間の入国拒否
1年以上→10年間の入国拒否

 以上の内容からでは、90日未満で本人が出頭した場合、入国拒否はないことになりますが、摘発等で捕まった場合、1日であっても5年間入国拒否されるということになります。本当にこれが厳格に適用されるかどうかはわかりませんが、今後もずっとタイと付き合っていきたいと思うのであれば、「1日ぐらいは」といった楽観視はせず、きちんと守るようにしておいたほうがいいでしょう。

どうなる?ノービザ入国
 8月12日から入国審査が厳格化されるということで、そろそろ問い合わせが多くなってくるのではないかと思っていたのですが、思っていたほどではないにせよ、やはり、ポツリ、ポツリと問い合わせが増えてきました。
 「厳格化される」ということで、「何万バーツ以上の現金を持っていないと入国拒否される」とか、「クレジットカードを持っていないと拒否される」とか、「ホテルのバウチャーが必要」とか、いろいろな噂が流れているようなのですが、今回の措置はノービザで出入国を繰り返す行為を防止するためのもので、Non-Bでも観光ビザでも、ビザを持っていれば関係ありません。また、ノービザでも普通に休暇を取って、観光旅行に来る分にも関係ありません。
 今回の措置は、一般国民への公示という形ではなく、入管内部の通達なのですが、もともと入管は入国の是非を判断する権限を持っており、今回の通達は、全国の入局管理局、入国審査官に対し、このように権限を行使するように、という実施規範を定めたものです。
 通達の直訳は以下のとおりです。

 韓国など、対象国籍者の入国審査を以下のとおりとする。

1. 国境に、観光を目的とせず、継続的に領土内に居住する権利を与えることとなるVisa runの性質を有するOut-Inを許可することを禁止する。
2. 本日から2014年8月12日まで、空路での入国でVisa runの性質を有するOut-Inであると思われる者に対しては、その者に入国目的にあわせてビザを申請するよう指導し、入国スタンプ周辺にO-Iの記号を施すことにより入国を許可するものとするが、2014年8月12日以降、Out-Inを発見した場合、その者の入国を拒否すること。

備考:疑問点、問題点があれば、チサヌポン・ユックタタット警察少将、もしくはナッタトーン・プロスントーン警察少将副長官にまで連絡すること。

2014年5月8日

 韓国人が多いのでしょうか、韓国が名指しでターゲットになっています(なっているかのように見えます)。原文には「対象国籍者」とありますので、いかにもリストがあるかのように思えますが、実際のところは、そのようなリストはありません。また、特に韓国人が要注意国民としてマークされているわけでもありません。急増している韓国人旅行者の印象が強いというだけで、実際のニュアンスは、多くの国民がタイに来ている韓国をはじめとし、入国審査は以下のとおりとするように、ということです。
 「Visa run」「Out-In」とありますが、これは私が英語に置き換えたのではなく、原文にこのとおりに書かれています。タイから出国し、すぐに入国して、ノービザで継続的、連続的にタイにい続けることを俗に「Visa run」というのですが、問題はこの「Visa run」で、「Visa run」に該当するのかどうなのか、その判断、解釈が最大のポイントになるでしょう。
 陸路の場合、有名なのがカンボジアのポイペットで、余裕で日帰りが可能ですから、バンコクから毎日多数のVisa runツアーが出ています。1. に「国境にOut-Inを許可することを禁止する。」とありますが、全面的に陸路入国を禁止するのではなく、あくまで「Visa runの性質を有する」入国に限っており、「Visa runの性質を有しない」場合は、これまでどおり、15日間の滞在許可がでるはずです。
 空路入国も同様で、たとえば、シンガポール、クアラルンプールなどに行き、日帰りや1泊で帰ってきて「Visa runの性質を有する」と判断されれば入国拒否となるでしょうし、日帰りで戻ってきたとしても、それが初めてで「Visa runの性質を有しない」と判断されれば、30日間の滞在許可がでるでしょう。
 では4泊、5泊して戻ってきた場合はどうなのか、2週間後に戻ってきた場合はどうなのか、1ヵ月後はどうなのか、直ちにタイに戻ってきたとしても、過去半年分の渡航記録では、タイ国外にいる日数のほうが多い場合はどうなのか、どのような基準で「Visa run」とするのか、いまだ実施されていないこともあり、入国審査官が実際にどのような判断をするのかは、全く不明です。
 全く不明ではありますが、「Visa run」というのは、継続的、連続的にノービザでタイにい続けるために出入国を繰り返すことをいうのですから、①ノービザであること、②出国と入国とに時間的距離がないこと、③複数回にわたって繰り返していること、この3つが構成要因となります。もし「Visa run」を犯罪と同じ水準で考えれば、1回や2回では間違いなく成立しません。しかし「Visa run」は犯罪ではありません。今回の措置は、あくまで「そのときの判断で入国を拒否することができる」という元来入国審査官が持っている権限に基づいているものですから、「疑わしきは罰せず」という犯罪と同じ原則が成り立つわけではありません。
 BOI企業であれば、1ヶ月以内の緊急業務用就労許可、6ヶ月以内の臨時業務用就労許可を活用すれば、大して面倒な作業にもならないと思いますので、やっぱりきちんと労働許可証を申請するのが一番です。
 では一般企業はどうすればよいか?一般企業では、外国人1人につきタイ人を4人雇用しないと労働許可証が申請できません。しかし、顧客が日系企業であれば、いくらタイ人を雇用しても意味がないことが多く、どうしても日本人が必要になってきます。なんだかんだ言っても、日系企業相手では、やはり日本人でなければ営業、カスタマーサポートを充実させることができません。日本人が必要、しかし労働許可証が申請できない、タイ人を雇用してもやらせることがない、そこでノービザで出入国を繰り返す(Visa run)、これは一般企業の慢性的な問題ともいえ、個人的には、気持ちはわかりますが、そうせざるを得ないというのであれば、やはり最初からタイに出てくるべきではないでしょう。
 日本にも多くの外国人がいますが、日本の法律、規則を守らない外国人を見ると、やっぱり不愉快になりますよね?「外国人1人につきタイ人を4人雇用しないといけない」というのは、タイの規則なのですから、それを承知で進出してくる限り、「この規則はおかしい」という文句を言うことはできず、意味がなくてもタイ人を雇用するしかないでしょう。

Non-B申請が拒否された場合の対処法
 タイで労働許可証を申請しようとする場合、Non-Immigrant(B)を持っていることが条件となりますので、入国前にタイ大使館(領事館)で申請しておく必要があります。これは一般企業、BOI企業、すべて同じです。日本人だからといって、日本国内のタイ大使館(領事館)でなければダメということはなく、どの国のタイ大使館(領事館)でもいいのですが、日本人の場合、やはり在京タイ大使館か在阪タイ総領事館ということになろうかと思います。日本国内のタイ大使館(領事館)は、それほど厳しくはなく、比較的緩やかだったのですが、数年前から日本人出張者が急増していることもあり、かなり厳しくなっているようで、Non-B申請が拒否されるということも珍しいことではなくなってきました。
 大使館側が拒否の理由を明らかにすることはしませんが、拒否される人たちには1つの共通点がありますので、理由はそれ以外には考えられません。その共通点とは、これまでに何回もノービザでタイへの出入国を繰り返しているということです。日本人の場合、ノービザでも30日間滞在できますので(空路入国)、ちょっとした出張であれば、いちいち労働許可など申請していられない、ということで、ノービザで行ったり来たりしているケースも多いと思います。
 つい先日も、これまでは1回の滞在期間が30日以内ですんでいたのでノービザで出入国を繰り返していたが、長期間連続してタイに滞在する必要性が出てきたため、労働許可を取ろうと思い、在京タイ大使館にNon-Bを申請するも、拒否されるというケースが発生しました。
 どの程度の渡航記録があったのかはわかりませんが、ノービザでの出入国を繰り返していると、いちいち30日ごとに出入国するのも面倒だから、90日間連続して滞在できるNon-Bが欲しいのだろう、どうせNon-Bを取っても労働許可は申請しないつもりだろう、という目で見られてしまい、不法就労の意図ありということで、Non-B発給が拒否されることもあります。
 Non-Bが取得できなければ労働許可も発給されませんので、どうすりゃいいんだ、というところですが、そう慌てることもありません。このような場合、一般企業とBOI企業とでは対処法は異なっているのですが、以下のとおりです。

【一般企業】

 通常は、

①Non-B取得 → 本人入国 → 労働許可証の申請 → 受理票の発行 → 受け取り

という流れなのですが、場合によっては、

②労働許可証の申請 → Non-B取得 → 本人入国 → Non-Bのコピーを提出 → 受理票の発行 → 受け取り

 というように、就労者本人が入国する前に会社側が申請を出すこともできます。この②の場合の様式を通称WP3というのですが(ちなみに①の様式はWP1といいます)、WP3を提出した受理票のコピーを持っていけば、Non-Bを発給してくれます(※ビザの発給状況は流動的なので、必ず確認するようにしてください)。

【BOI企業】

 タイでの労働許可新規申請、延長の流れは、一般企業の場合、

①労働局に労働許可証発給を申請 → 入管にNon-B延長を申請 → (期限が近づく) → 労働局に労働許可証延長を申請 → 入管にNon-B延長を申請

 こういう流れなのですが、BOI企業の場合、

②BOIに就労許可を申請 → 入管がNon-Bを延長 → 労働局が労働許可証を発給 →(期限が近づく) → BOIに延長申請 → 入管がNon-Bを延長 → 労働局が労働許可証を延長

 以上のような流れで、どこに「申請」という言葉が使われているかを見るとおわかりかと思いますが、一般企業の場合、申請先は労働局と入管の2箇所ですが、BOI企業の場合、BOIのみです。
 WP3というのは、労働局の様式であってBOIの様式ではありませんから、BOI企業がWP3を申請することはできません。正確に言えば、BOI企業でもBOIの恩典は行使せずに、一般企業と同様の①のやり方で申請することもできますので、WP3を申請することも可能ではあるのですが、BOI企業にとって、Non-B発給のためのWP3など、全く意味がありません。というのは、WP3よりもよっぽど威力があり、時間も手間もかからず、書類も申請者本人のパスポートコピーしか必要のない方法があるからです。
 BOIへの就労許可申請はウェブ申請なのですが、申請には、ポジション申請、ポジション延長申請、着任申請、滞在期限延長申請、6ヶ月以内の臨時業務用就労許可申請、1ヶ月以内の緊急業務用就労許可申請など、いろいろなタイプがあります。その中に「ビザ発給協力申請」というのがあるのですが、わかりやすくいえば、「この人物をこういうポジションでタイで就労させたいので、Non-Bがスムーズに発給されるよう、協力をお願いします」というものです。BOIが了解すれば文書を発行してくれますので、それをタイ大使館(領事館)に提出します。BOIからの文書ですから威力は抜群で、いちゃもんをつけられることもなく、スムーズにNon-Bを取得することができます(この場合、Non-BはNon-Bなのですが、正式にはNon-IBといいます)。
 WP3は、いろいろな書類が必要ですし、労働局まで行かないといけないので、1日では難しいのですが、BOIへのビザ発給協力申請は、ウェブ申請ですからすぐにできますし、遅くとも、申請を出した翌日か翌々日には発行してくれますので、BOI企業がわざわざWP3を申請する理由など、どこにもありません。ただし、この段階はあくまでビザ発給に協力してくれているというだけで、正式な就労許可審査は別問題です。正式な就労許可審査はタイ入国後になり、もちろん、認められないこともありますので、ビザ発給協力文書を出してくれたからといって、就労が許可されたとは思わないことです。
 ちなみに就労者本人のNon-B申請だけでなく、家族のNon-O申請でも協力してくれます。

還付請求は慎重に
 先日、国税局から多額の罰金支払い命令がきた、経理の話では、仕入よりも安い価格で売るのは違反、そのことに対する罰金だ、という話なのだが、仕入よりも安く売ってはいけないのか、どうしたらいいのか、という相談を受けました。
 これは難しい問題で、売れ行きの悪い在庫を抱えてしまった場合はともかく、ちゃんとした製品であれば、どうしても利益操作という目で見られてしまいます(それがマルサの仕事ですから)。とはいっても、罰金支払い命令がきたからといって、その命令が確定というわけではなく、交渉で払わない、あるいは安くすることも可能です。これは明確な違反というわけではなく、国税局の見解にすぎませんので、たとえば、先にお客さんと契約してしまい、今更販売価格を上げることはできなかった、とか、まずは自社製品を使ってもらおうと思い、プロモーションで安くした、とか、なぜ仕入れよりも安く売ったのかをきちんと説明し、交渉するほかないでしょう。
 そのお客さんは3年前にタイに進出し、2年前から生産を開始しているのですが、いわば「新規参入組」であり、プロモーションが必要なときもあるでしょう。また、従業員が会社に馴染むにもそれなりの時間もかかり、合理的な生産がすぐにできるわけでもありませんので、最初は赤字覚悟で受注し、とりあえずは生産の流れを作り、そこから生産体制、管理体制を固めていく、というのは、ごく自然な考え方とも言えるでしょう。とはいっても国税局からすれば、不良品とか売れない在庫を抱えてしまったのであればともかく、きちんとした商品を原価割れで売るのは利益操作、ということになり、本来は売上税のほうが仕入税を上回っているのだから、これまで納めていなかった差額分を過去に遡って再計算し、VATと延滞金、及び不正販売に対する罰金を支払うように、という話になります。
 今回の国税局の調査の発端は、VAT還付請求だったそうです。お客さんもいろいろなところからVATにせよ、法人税にせよ、還付請求をすると国税局から徹底的に調べられますよ、と言われていたそうで、いずれ売上がたったときのために、ということで、これまでVAT還付請求をしたことはなかったそうですが、今回は経理スタッフがインターネットで勝手に還付請求したそうです。最初は顔が青ざめるほどの金額だったらしいのですが、交渉の結果、払えないほどの額ではなくなったそうなので、今回は決着したみたいですが、還付してもらうつもりが逆に払わないといけなくなったケースは今回だけではありません。もちろん、制度上では可能であり、還付してもらえたという例もありますので、全くダメというわけでもありませんし、会社を立ち上げたばかりで、買うだけで、全く売上がない段階では、さほど難しくはなく、簡単に還付してもらえたというケースも多々あります。しかし、すでに売上がある場合、あれやこれやといろいろ突つかれるようで、どこをどう突ついてくるかわかりませんので、どうしても、という場合は、還付請求に詳しく、実績のある会計士とよく相談し、慎重に進めたほうがよいでしょう。

計算期間中での昇給
 つい最近、給与の計算期間が月末締め、翌月25日払いのところにあって、1月26日から昇給させたいが、どう計算すればいいのか、という質問を受けました。
 対象の従業員の給与は64,000バーツで、これを1月26日から66,000バーツにしたいとのことです。給与計算期間が毎月1日から月末のところにあって、26日から昇給ということですので、単純に

①1月1日から1月25日まで = 64,000バーツ ÷ 30日 × 25日
②1月26日から1月31日まで = 66,000バーツ ÷ 30日 × 6日

 日割りにする場合、30日で割るのが原則なので、以上のように考えていたらしいのですが、以上の計算だと、①=53,333バーツ、②=13,200バーツ、合計すると66,533バーツとなり、66,000バーツに昇給したつもりが66,000バーツを超えてしまいます。
 割るのは30日で割るが、かけるのは31日だとおかしいのではないか(25日+6日)ということで、

A)1月1日から1月25日まで = 64,000バーツ ÷ 31日 × 25日
B)1月26日から1月31日まで = 66,000バーツ ÷ 31日 × 6日

 以上で計算すると、A)=51,613バーツ、B)=12,774バーツ、合計すると64,387バーツになります。質問の要点は、原則の30日で計算すると、昇給後の金額を超えてしまい、矛盾する、こういう場合は31日で割っていいのか、ということなのですが、どちらにせよ、給与計算期間中での昇給ですから、捉え方が間違っているといえるでしょう。計算期間中なのですから、ベースはあくまで64,000バーツであり、以下の計算が妥当ではないかと思います。

ア)1月1日から1月31日まで = 64,000バーツ
イ)1月26日からの昇給分 = 2,000バーツ ÷ 30日 × 6日

 以上だと、原則の30日を守りながら、合計すると64,400バーツになります。計算期間中での昇給は、普通はないと思いますが、もし期間中に昇給させるのであれば、従来の金額での計算期間なのですから、ベースはその金額、昇給分だけ日割りにすればよいでしょう。

シミュレーション
 トラブルを未然に防ぐこと、これはとても大事なことで、そんなこと、当たり前じゃないか、というところなのですが、現実問題では、そう簡単な話ではありません。機械の操作の仕方とか、現場作業になりますと、形あるものの話になりますので、具体的な方法論も論じることができるでしょうが、総務、人事の仕事は物理的な形がありませんので、シミュレーションが非常に大事ではないかと思います。今回はこういうトラブルが発生した、では、こういうケースではどうなのだろうかと、いつも考える癖をつけていれば、本当にそれが発生したとき、対応に困ることもないでしょうし、対応を誤ったことからトラブルが発生することもないでしょう。総務、人事に限ったことではないのですが、物理的な形がないものは、具体的に思考することが難しいので、それだけ余計に高いシミュレーション能力が必要なのではないかと思います。
 さて、今回のデモで思ったのですが、もし従業員が反政府デモに参加したいということで休暇を願い出た場合、どうすればよいのか。有給で認めるべきなのか、無給で認めるべきなのか、認めても認めなくてもいいのか、休暇を認めるか否かは会社次第なのだからということで認めなかった、しかし従業員はデモに参加し、欠勤した、ここで連続3日以上の職務の放棄ということで解雇してもいいのか、もし従業員が国民が政治に無関心でいいのか、日本でも国民が積極的に政治に参加するのはいいこととされているじゃないか、一国民としていい国にしたいと思ったから参加した、政治的活動は国民の権利だ、デモに参加したことによって解雇するのは国民の権利を侵害するものだ、解雇は雇用主の政治的見解によるもので無効だ、不当解雇だ、と反論してきたらどうするのか、こういう理由であっても、連続3日以上の職務の放棄で解雇してもいいのか、組合活動と同様、政治活動も解雇理由とはなりえないのか、あるいはなりうるのか、などなど、いろいろ考えてしまいます。
 シミュレーションは確かに架空のケースを想定してのことで、それが実際に起こるか、起こらないかはわかりません。しかし、実際に起こるか、起こらないかは結果論にすぎませんし、そもそもシミュレーションは、回答そのものよりも、回答に行き着くまでの過程が大事なのではないかと思います。
 自分である程度の予想をし、実際に役所に問い合わせてみたのですが、さすがに役人もこのようなケース、問い合わせはかつてなかったようで、ん~、どうだろう、と首をひねり、あくまで参考として聞いてください、という前置きで以下のように説明してくれました。あくまで一役人の見解にすぎず、法的に正しいとは限らないことをご承知ください(特に解雇補償金)。

①会社は利益を追求する営利団体であることから、利益を生産しない行動は、会社の目的に合致していないし、病気休暇や有給休暇などとは異なり、法律で権利として認められていない休暇なのだから、認める、認めないは、あくまで会社次第。
②その間、有給か、無給かということも会社次第で、無給であってもかまわない。
③従業員は、従業員としての義務を忘れてはならない。デモに参加したいのであれば、法律や会社の就業規則で認められた有給休暇を使ったり、土日や祝祭日など、個人的な時間を使って参加すべき。
④会社が休暇を認めなかったにもかかわらず、欠勤してデモに参加した場合、通常の連続3日以上の職務の放棄により、解雇補償金なしに解雇するのは不適切と思われる。
⑤解雇するのであれば、解雇補償金を支払ったほうがよいのでは?
⑥解雇補償金なしに解雇できるのは、あくまで欠勤の理由が正当でない場合。連続3日以上の職務の放棄であっても、理由がデモ参加ということになれば、「従業員」の上にある「国民」の権利ともいえるかもしれず、欠勤の正当な理由になるという解釈もできるかもしれない。
⑦しかし、営利団体の構成員としては、自分が属する団体の目的達成に貢献しないのは不適切であることから、解雇対象にはなるだろう。
⑧デモ参加という国民の権利には理解を示し、違反をしたわけではないが、従業員としての義務を果たしていないということで、解雇補償金を支払って解雇するのが妥当なのでは?
⑨あくまで「従業員としての義務を果たしていない」ことが解雇理由であり、「反政府デモに参加したから」というのは理由になりえない。政治的見解の相違による解雇であることを伺わせるような理由であってはならない。

短~中期の就労許可
 ここのところ、「出張者の給与はどうすればいいのか」「出向の労働許可証を申請したいがどうすればいいのか」「短期間であれば労働許可証は取らなくてもいいのか」などなど、出張者の急増を伺わせる問い合わせが増えてきました。
 よくある質問に、「出向の場合は給与はどうすればいいのか」「出向なんだから、タイで給与は払わなくてもいいですよね?」「出向の労働許可証を申請したいがどうすればいいのか」というのがあるのですが、「出向」というのは、会社同士、会社内部の都合にすぎませんから、出向用の労働許可証など、ありません。
 労働許可証というのは、雇用主が「この人物をタイで働かせたいので労働許可証をお願いします」という筋道で申請するもので、必ず雇用主が必要です。本当の雇用主は日本本社かもしれませんが、タイで働く限り、タイでの雇用主はタイ法人となりますから、書類上では、必ずタイ法人の従業員でなくてはなりません。
 少し話がそれましたが、労働許可証はどうしているんだろう?と思うときもしばしばあり、実際、多くの方が労働許可証を申請せずに就労しているようです。不法就労であるという認識はお持ちのようなのですが、短期間でいちいち申請するのも面倒、1人、2人じゃないからとても申請できない、などなど、事情はわかるのですが、やはりきちんと申請すべきでしょう。
 BOI企業の場合、このようなとき、臨時業務用の労働許可証が大変便利です。臨時業務用の労働許可証は1ヶ月と6ヶ月があり、1ヶ月のものは申請後、ほんの数時間で許可されます。6ヶ月のものも2、3日で許可されます。1年近くになる場合は、最初に6ヶ月を取得し、期限が切れそうになったら再申請を提出して取り直すこともできます。それでも業務が終わらなかった場合は、また再申請を提出します。これを繰り返すわけですが、繰り返しがどこまで認められるかは必要性によりけりです。ただ、最初から繰り返しが必要であることがわかっている場合(長期になる場合)、通常の常駐者用の労働許可証を申請したほうがいいでしょう。必要性がなくなればキャンセルすればいいだけのことですから、ある程度長期間になる場合は、最初から常駐者用を取得しておいたほうがよいでしょう。
 最初に6ヶ月の労働許可証を取得したものの、間に合わず、さらに引き続いて就労する場合、もう1度6ヶ月の労働許可証を申請するわけですが、これは「延長」ではありません。臨時業務用労働許可証は延長できませんので「取り直し」ということになります。このとき、タイミングを間違うと、場合によっては一旦国外に出て、Non-Bを取り直さなくてはならなくなるので、タイミングに気をつけることです。
 この場合、以下のような段取りで手続きを進めます。すべてウェブで行います。

①離任届の提出
 ギリギリで事を進めようとすると、何かあったとき大変ですから、多少余裕を見て進めたほうがいいでしょう。離任届は離任日の15日前から提出することができ、日本に帰国するという場合はともかく、再申請を提出する場合は、その日を離任日として提出し、直ちに再申請を提出したほうがいいでしょう。
 たとえば、現在の滞在期限が11月30日までだったとします。多少余裕を見て、11月20日に同日を離任日として離任届を提出したとします。そうすると、1時間もしないうちに離任許可書受取通知書が登録者のメールアドレスに送られてきます。離任届に限らず、BOIへの申請は、許可されたとき、「許可しましたから、添付ファイルをプリントアウトし、許可書を受け取りに来て下さい」というメールが添付ファイルと一緒に送られてきます。添付ファイルは許可書ではなく、「許可書を受け取りに来て下さい」という通知書にすぎず、いわば引換券で、これをBOIに持って行って許可書を受け取ります。
 日本に帰国する場合は、すぐに受け取りに行かなくてもいいのですが、再申請を提出する場合は、再申請の際に添付しますので、すぐに受け取りに行きます。
 注意点は、滞在期限が11月30日までであったとしても、11月20日を離任日として離任届を提出すれば、滞在期限は11月26日に変更されるということです。この間に以下の②、③、④の作業を終わらせます。

②再申請の提出
 「延長」ではなく、「取り直し」ですから、申請の仕方は最初と全く同じですが、再申請の場合は、受け取った離任許可書をスキャナで読み取って添付します。そして、「添付した離任届にあるとおり、これまで6ヶ月間の臨時業務就労許可にてタイで就労してきたが、こういう理由でまだ業務が終わっていないので、引き続き、6ヶ月間の臨時業務就労許可を願い出るものである。」という説明文を付加えます。
 このとき、「こういう理由」の「理由」は、できるだけ詳しく、もっともらしく書くことです。単に「まだ終わってないから」だけだと、なぜまだ終わっていないのか、どういう障害があるのか、ということを聞かれますので、最初から詳しく書いておいたほうがスムーズに進みます。
 何も問題なければ、2~3日で許可されます。

③ビザ延長
 許可されると、BOIから「許可しましたから、添付ファイルをプリントアウトし、許可書を受け取りに来て下さい」というメールが添付ファイルと一緒に送られてきますので、それをBOIに持って行き、許可書を受け取ります。許可書は、会社保管用、入管提出用、労働省提出用の3通がありますので、まずは入管提出用を入管に提出してビザを延長します。

④労働許可証の再取得
 ビザを延長したら、労働省提出用を労働省に提出して新たに労働許可証を発行してもらいます。これまで持っていた労働許可証を延長するのではなく、新たに発行してもらいます。日本に帰国する場合は、労働許可証を返納する必要はないのですが、新たに発行してもらう場合、2通の労働許可証があることになりますので、これまで持っていた労働許可証は返納します。

 以上で手続きは完了です。審査も通常ほど厳しくありませんし、短~中期の場合は非常に威力を発揮しますので、活用されるとよいでしょう。

労働許可証の返納とビザのキャンセル
 赴任期間が終わり、日本帰国ということになると、労働許可証を返納し、ビザをキャンセルすることになりますが、BOI企業と一般企業の場合、ちょっと手続きが異なっています。

【一般企業】
 一般企業の場合、所定の返納様式に記入し、労働許可証原本を返納します。その後、入管に行き、ビザをキャンセルしてもらいます。タイで就労する場合、まず国外のタイ大使館(領事館)でNon-Immigrant(B)を取得して入国しますが、このとき許可される滞在日数は90日です。この間に労働許可証を申請し、滞在期限が切れる前に90日のNon-Bを延長します。しかし、Non-Bを国内で延長する場合、その会社で働くことを条件に延長されますので、その会社で働かないということになると、そのビザではタイに滞在してはいけないことになります。
 たぶん、多くの方が気がついていないと思うのですが、BOI企業、一般企業を問わず、ビザを延長する場合、通称ソートーモー2という書類を提出しているはずです。これは誓約書で、内容は、「延長条件を履行します。滞在理由が延長申請時と異なることとなった場合、この延長許可は直ちに無効になり、法的処置が適用されることを承諾します。」というものです。
 労働許可証を返納すれば、その会社ではもう働かないということですから、その会社で働くことを条件として延長されたビザも無効ということになり、きちんとビザをキャンセルせず、そのままタイに滞在し続ければ入管法違反となります。
 よくあるケースとしては、残り半年間を残して帰国したが、その後も出張ベースでたまにタイに来ることもあるので、労働許可証は返納するものの、ビザはキャンセルせず、そのビザが有効な期間(本当は有効ではありませんが)は、そのビザで出入国を繰り返すというケースです。これはもちろん、発覚すれば入管法違反に問われます。
 現地採用者でよくあるトラブルは、前の会社で働いていたときのビザが残っているので、そのままそのビザでタイに滞在し続け、転職先で労働許可証を申請しようとするものの、拒否されるというケースです。前の会社で働いていたときのビザは、その会社で働くことを条件としていたものですから、新たな会社で働こうとする場合、そのビザでは労働許可証は発給されません。この場合、どうするのかといいますと、そのビザはキャンセルし、国外のタイ大使館(領事館)でNon-Bを取得しないといけません。
 このときに問題になるのですが、そのビザをキャンセルしようとして入管に行くと、本来、前の会社を辞めたときにキャンセルしないといけないところを、その後も引き続いてタイに滞在していたということが発覚してしまいます。
 国外で新たにNon-Bを申請しようにも、そのビザをきちんとキャンセルしなければ、二重発給ということになりますので、発給されません。従って、どうあっても「自首」しないといけないことになります。
 ビザをキャンセルすると、すぐにその場でキャンセルされ、滞在期限はその日に書き換えられますが、1,900バーツ払えば1週間の出国猶予期間をくれます。その日のうちに出国する場合は必要ありません。

【BOI企業】
 BOI企業の場合、就労許可申請と同様、キャンセルもウェブで行います。
 BOIには離任届というのがあり、離任日の15日前から提出することができます。離任届日と離任日は同じである必要はありません。たとえば、10月31日に帰国しようとするとします。この場合、10月17日から離任届を提出することができますので、10月31日を離任日として10月17日に離任届を提出することもできますし、10月31日に当日を離任日として提出することもできます。いずれの場合にあっても、10月31日を離任日としていますので、離任日から7日後の11月6日まで出国猶予期間がもらえます。この間に労働許可証の返納、ビザのキャンセルということになるのですが、BOI企業の場合、労働許可証は返納する必要はありません。BOIのほうから労働省に通知が行きますので、それに基づいて労働許可証が無効にされます。労働許可証は捨ててもいいですし、記念に持っていてもかまいません。
 ビザについても、BOIから入管に通知が行きますので、データベースではキャンセルされるのですが、労働許可証とは違い、ビザはパスポート上に押されていますので、その日付を書き換えておかないといけません。
 実際にあったことなのですが、パスポート上のビザをきちんとキャンセルせずに出国し、その後、またタイに入国したとき、本来はノービザの30日滞在になるのですが、空港の審査官が間違えてそのビザでの滞在扱いにしてしまいました。この場合、入管法違反に問われます。データベースではキャンセルされているのだから間違った審査官のほうが悪い、という言い分は通用しません。なぜ空港の審査官が間違ったのかといえば、きちんとスタンプを書き換えていなかったからで、本来はきちんと書き換えないといけないところをそれをしなかった、最初に違反したのは本人、ということで、審査官のほうが悪いとはなりません。
 以上のように労働許可証を返納する必要はありませんが、パスポート上でのビザのキャンセルは、出国までにやっておく必要がありますので、BOIから入管に通知が行くから大丈夫、とは思わないことです。

外資100%での会社登記
 先日、ネット上のQ&Aを見ていますと、「タイで飲食店を開きたいが、どうればよいか。どうやって会社を設立すればいいのか。」という質問に対し、「外資は49%まででなければいけないから、51%のタイ人パートナーを探さないといけない。外資が50%以上だと、会社は登記できない。」という回答がありました。
 よくある誤解なのですが、外資100%であっても会社登記そのものはできます。手続きもごく普通の手続きで、何ら変わったことはありません。
 タイには外国人事業法というのがあり、外資50%超であれば、この法律の規制を受けることになります。外国人事業法では業種を第1類、第2類、第3類に分類して規制しているのですが、第1類は国家間の条約でもない限り、許可されることはありません。第2類は、商務大臣から許可を受ければ可能です。第3類は、商務省商業振興局長官から許可を受ければ可能です。
 つまり、外資100%であっても、商務省から許可を取れば営業は可能ということです。とはいっても、簡単に許可されるわけではなく、何十枚もの申請書を提出し、自分たちがタイ国内でこういう事業を営むことにより、タイ経済、タイ社会にはこのようなメリットがある、ということを強くアピールする必要があります。
 それはともかく、会社設立そのものは、外資100%であっても拒否されることはありません。ようは、その状態では営業できないというだけで、会社を設立すること自体は可能です。とはいっても、商務省からの許可書がなければ労働許可証も発給されませんので、そうすると、会社を設立したところで何もできませんから、それが「外資が50%以上だと、会社は登記できない。」という誤解につながっているのではないかと思います。
 何もできないのだから、外資50%以上=会社が設立できない、と考えても同じことじゃないか、と思われるかもしれませんが、そういうわけでもありません。
 たとえば請負生産業の場合、とりあえず会社を設立してレンタル工場を契約し、機械、設備の整備と並行してBOIの認可申請(または外国人事業許可申請)を進めれば、時間も短縮されて能率的です。外資100%であっても、営業してはいけないというだけで、レンタル工場を契約することは可能ですし、機械、設備を整備することも可能です。
 飲食業などにあっても同じです。たとえば、タイ側のパートナーを探していたとします。そこで3人のタイ人(タイ法人)が手を挙げたとします。1つをパートナーとして選び、一緒にやっていこうと決めてはいるものの、まだ交渉段階にあり、誰にするかははっきりと決まっていない場合など、先に外資100%で会社だけは立ち上げておき、物件も契約し、内装を進め、その間に交渉を進めて誰にするかを決め、最終的に選んだタイ人(タイ法人)に51%を買ってもらえばいいわけです。
 何もできなくても会社を設立する意味がある場合もあり、ケース・バイ・ケースで進め方は違ってくるのですから、「外資50%以上だと、会社は設立できない。」というのは最初から間違った理解ですが、「会社を立ち上げたところで何もできないのだから意味がない。」とか、「先に51%のパートナーを探しておく必要がある。」とか、そういう思い込みはせず、一般的なやり方はあったとしても、自分にあったやり方、自分に最適なやり方を柔軟に考えてみてはいかがかと思います。

解雇補償金の源泉義務
 会社が従業員に賃金を支払う際には、源泉徴収しないといけませんが、では、解雇補償金はどうなのか、源泉しなくてはいけないのか、源泉しなくてもいいのか、という質問はよく受けます。さあ、どちらだと思いますか?
 まず、解雇補償金についてですが、勤続年数に従い、以下のように定められています。

120日以上1年未満 → 30日(1ヶ月)
1年以上3年未満 → 90日(3ヶ月)
3年以上6年未満 → 180日(6ヶ月)
6年以上10年未満 → 240日(8ヶ月)
10年以上 → 300日(10ヶ月)

 基本的には、解雇補償金であれば、300,000バーツ以下は課税対象額に含めなくてもよいとされていますので、源泉義務はありません。
 たとえば給料が40,000バーツとし、勤続年数が満10年だったとします。そうすると、解雇補償金は10ヶ月の400,000バーツということになります。この場合、300,000バーツについては課税対象額に含めなくてもよいので源泉義務はありませんが、残りの100,000バーツについては、解雇補償金とはいえ、課税対象額に含まないといけなくなりますので、源泉義務が発生します。
 このことを定めた直接の法律は、歳入法典第42条と1966年発布第126号の省令なのですが、歳入法典第42条は、

「第42条 以下の所得は課税対象額に含めなくてもよい。」

とだけあり、その下に25号まであります。解雇補償金はその中の17号なのですが、この17号も

「(17)省令によって免除されたところの金銭。」

としか書かれていません。
 では、省令ではどうなっているのかといいますと、第2項51号に以下のように定められています。

「(51)被雇用者が労働保護及び補償金に関する法律によって受け取った補償金。ただし、定年又は雇用契約が終了したことによって受け取った金銭を含まない。これについては、最後の300日の賃金又は給与を超えない部分のみとするが、300,000バーツを限度とする。」

 たとえば、給与が20,000バーツとします。そして勤続年数が2年だったとします。そうすると、解雇補償金は3ヶ月分の60,000バーツということになります。しかし、あとあとのトラブルを避けるために本人にも気持ちよく辞めてもらおうと思い、奮発して2倍の120,000バーツを払ったとします。この場合、源泉義務がないのは解雇補償金の60,000バーツのみで、残りの60,000バーツは解雇補償金ではなく、会社の好意ということになりますので、支払う側には源泉義務が発生します。
 では、全額を解雇補償金という名目で支払ったらどうなのかということになりますが、これは確かに可能ではあるのですが、会社にとっては不利になります。
 解雇補償金を定めた法律は、労働保護法第118条なのですが、以下が直訳です。

【第118条】
(1)勤続年数が満120日以上1年未満の被雇用者には、最後の賃金級で30日以上、業務単位で計算し、業務成果で賃金を受け取っている被雇用者については、最後の30日の賃金以上を支払う。
(2)勤続年数が満1年以上3年未満の被雇用者には、最後の賃金級で90日以上、業務単位で計算し、業務成果で賃金を受け取っている被雇用者については、最後の90日の賃金以上を支払う。
(3)勤続年数が満3年以上6年未満の被雇用者には、最後の賃金級で180日以上、業務単位で計算し、業務成果で賃金を受け取っている被雇用者については、最後の180日の賃金以上を支払う。
(4)勤続年数が満6年以上10年未満の被雇用者には、最後の賃金級で240日以上、業務単位で計算し、業務成果で賃金を受け取っている被雇用者については、最後の240日の賃金以上を支払う。
(5)勤続年数が満10年以上の被雇用者には、最後の賃金級で300日以上、業務単位で計算し、業務成果で賃金を受け取っている被雇用者については、最後の300日の賃金以上を支払う。
(後略)

 以上のとおり「以上」とあり、最低でもこれだけは払いなさい、という最低のレートを定めているにすぎません。従って、以上のレートを上回っていれば、会社が独自に定めてもかまわないわけですから、全額を解雇補償金とすることも可能です。しかし、全額を解雇補償金とするのは、会社にとってはデメリットにこそなれ、メリットは何1つありません。
 そもそも源泉徴収は、支払う側には関係のないことで、受け取る側の問題です。これだけ支払うところを税金を引いて支払うのが源泉徴収ですから、源泉は支払う側の不利益になるものでも何でもありません。
 そして、ここで全額を解雇補償金としてしまうと、解雇補償金のレートの既成事実ができてしまうことになります。つまり、いくら就業規則で法律最低限のレートを定めていたとしても、それはあくまで最低のレートを定めているにすぎず、ある人に解雇補償金として2倍のレートで支払えば、その会社の解雇補償金はそのレートということになります。先に解雇した人には2倍支払い、その後解雇した人には1.5倍で支払うと、文書として明確に定められているわけではないとしても、実質上は就業規則の不利益変更となり、従業員が同意しない限り、その変更は無効とされるでしょう。
 源泉は全く会社の不利になることではないのですし、源泉をすることによって、どこまでが解雇補償金でどこからが会社の好意なのかが明確に区別されますから、解雇補償金のレートが上がらないよう、会社の好意については、きちんと源泉しておくほうがよいでしょう。

BOI就労許可ポジション変更申請
 最初はMDと工場長が就労するものの、会社も軌道に乗り、MDはほとんど駐在する必要がなくなったことから、じゃあ、あとは工場長に任せるか、ということで、工場長をMDにするというケースもあろうかと思います。この場合、工場長というポジションからMDというポジションへの変更申請を出さないといけないのですが、BOI企業の場合、そう簡単には変更できないときがあります。
 BOIへの就労許可申請は、まず、当社はこういう体制だから、外国人用にこいいうポジションを認めてください、という申請を出します。そのポジションが認められたら、この人物がこのポジションに適任なので、この人物がこのポジションに着任することを認めてください、という申請を出します。BOIが許可すれば、入管宛のビザ延長要請書、労働省宛の労働許可証発給要請書を発行してくれますので、それぞれを入管、労働省に提出してビザの延長、労働許可証の取得を行います。
 就労期限については、入管、労働省が決めるわけではなく、入管、労働省は、あくまでBOIが許可した期限に従ってビザを延長したり、労働許可証を発給するだけで、就労期限を決めるのはBOIとなります。
 その就労期限は、ポジション申請の段階で決められるのですが、ポジションを変更する場合、その2つのポジションの期限が全く同じでなくてはなりません。就労期限は、いつポジション申請を出したかによるのですが、MDと工場長を同時に申請したとすると、2つのポジションの期限も同じになり、このような場合は、そのまま工場長からMDへポジションを変更することができます。しかし、MDを先に申請し、6ヵ月後、工場長を申請したとすると、工場長の就労期限はMDの6ヶ月後ということになり、期限が同じではありませんから、そのままでは工場長からMDに変更することはできません。
 このような場合、どうすればいいのか、方法は2つあります。

方法①
 まず、MDが離任します。この場合、MDに就いていた人がMDを離任するというだけですから、単に空席になっているというだけで、ポジションそのものは残っています。それから工場長も離任し、一旦、労働許可証を返納し、ビザもキャンセルします。その後、改めてMDへの着任申請を提出し、許可されたら、改めてビザを延長し、労働許可証を取得します。

方法②
 MDが離任するのは同じですが、同時にMDというポジションもキャンセルします。この場合、空席になっているというのではなく、ポジションそのものをキャンセルします。そして改めてMDというポジションを申請するのですが、そのまま普通に申請を出すと、工場長と期限が同じになりませんから、「現工場長がMDに昇格するから、スムーズにポジション変更ができるよう、現工場長と同期限にしてほしい」という内容をMDポジション申請の際に目立つように書き入れることです。そうすると、工場長と同期限で許可されますので、工場長から新たに認めてもらったMDにポジションを変更することができます。 この場合、ビザをキャンセルする必要もありませんし、労働許可証も返納する必要はなく、現在持っている労働許可証のポジション、職務内容をMDに変更するだけですみます。

 以上、2つの方法がありますが、②のほうが簡単ですし、労働許可証の再申請の経費とかもかかりませんので、特別な理由がない限り、②のほうがいいでしょう。

労働時間の振替
 1日の労働時間が8時間以上であっても、週の労働時間が48時間以内であれば、問題ないのではないか、たとえば、月曜日から金曜日までの労働時間を8時から18時までの9時間とし(休憩1時間)、土曜日の労働時間を9時から12時までの3時間とすれば、違法ではないのではないか、という問い合わせを受けることもあり、微妙なところなのですが、原則的には違法と考えたほうがよいでしょう。
 まず、根拠ですが、これは労働保護法第23条で、内容は以下のとおりです。

【第23条】
 雇用主は、被雇用者の各日の労働開始時間と終了時間を定め、通常勤務時間を被雇用者に公示するものとし、省令に定められたところの業務種別の労働時間を限度とするが、8時間を超えてはならない。いずれかの日の労働時間が8時間より少ない場合、雇用主と被雇用者は、その日の残りの労働時間を他の労働日の労働時間に加算することに合意することができるが、1日9時間を限度とし、労働時間の合計が週48時間を超えてはならない。ただし、省令により、被雇用者の健康と安全に危険をもたらすかもしない職種と定められ、1日の労働時間が7時間、週の労働時間が42時間を超えてはならないと定められた職種を除く。(後略)

 以上のように、まずは「8時間を超えてはならない」ということが前提にあり、いずれかの日の労働時間を削って他の日に加算することを最初から規定化することはできません。これは労働開始時間と終了時間が不明確になりやすい職種、天候に影響される職種、予期せぬ出来事によってその日の仕事ができなくなった場合と考えてよいでしょう。
 たとえば、弊社でもよくあることなのですが、前日の役所での作業が16時に終わったとします。そして翌日は通常の勤務開始時間前に役所に行っておかなければならなかったとします。このような場合、従業員との合意の上、前日は16時で切り上げ、残りの時間を翌日に回すことができます。
 また、天候に影響される現場作業の場合も同様の措置を取ることができます。たとえば、土地の計測をしていたとします。午前中が終わったところで大雨が降り始め、計測しようにも雨で前が見えない、どうしようもない、という場合、その日の作業は切り上げて、残りの時間を他の日に回すことができます。
 その他、たとえば、いきなり停電したとします。これでは機械が動かない、生産ができない、全く仕事にならない、という場合、その日の仕事は切り上げて、他の日に1時間ごと振り分けるということもできます。
 文言のとおり、これには従業員の合意が必要なのですが、合意しなければ、何もしなくてもその場にいなくてはならならず、無駄に時間をすごすことになり、その日はそれで終わりにしたほうが従業員の利益にもなりますから、よほどひねくれた従業員でない限り、合意するのではないかと思います。合意は、特に文書でなくても口頭で、こういうことにするがどうか、と告げ、いいですよ、と従業員が承諾すれば、それで合意したとされます。
 以上は日常的に行われているごく普通の措置ともいえ、この第23条は、特に変わった条文というわけでもないと思います。ただ、注意しなければならないのは、原則的には、労働開始時間と終了時間が不明確になりやすい職種、天候に影響される職種、予期せぬ出来事によってその日の仕事ができなくなったような場合の一時的な措置であるということで、最初から所定労働時間を超えて労働時間を設定することはできないということです。規定では1日8時間とし、その後、従業員との合意で1日9時間とするのも一見、可能なようにも思え、この辺りはグレーゾーンになってしまうのですが、明確に開始時間と終了時間が特定でき、毎日同じように仕事ができる職種である場合、やはり不適切な措置ではないかと思います。

Non-B延長必要書類
※必要書類、フォームが変更されることもありますので、申請前に必ず確認して下さい。
1.ビザ延長申請用紙(様式 TM7)
2.写真 4×6cm 1枚
3.パスポート原本とコピー
4.雇用証明書
5.労働許可証原本とコピー
6.会社登記謄本・株主名簿謄本
7.前年度貸借対照表・貸借対照表提出様式・法人税申告書・領収書
8.所得税源泉徴収と領収書
9.前年度所得税申告書(申請者個人のもの)
10.社会保険料納付様式と領収書
11.付加価値税(VAT)申告書と領収書
12.外国人雇用必要説明書
13.会社地図
14.会社写真
15.延長許可条件承諾書
16.申請者本人
17.関係する許可書のコピー
18.その他

【解説】
1.ビザ延長申請用紙(様式TM7)
 通称「トーモー7」と呼ばれているフォームです。

2.写真 4×6cm 1枚
 延長申請書トーモー7に貼付します。

3.パスポート原本とコピー
 人定欄(写真があるページ)、ビザ、入国スタンプ、出入国カード(パスポートにホッチキスでとめられてあるカード)をコピーして提出します。パスポート原本は、あとで返してくれます。

4.雇用証明書
 通称ソートーモー1と呼ばれているフォームです。会社と申請者の雇用契約の期間などを記入する欄がありますが、実際に雇用契約書がなくても、便宜上、適当な年月日を記入しておきます。

5.労働許可証原本とコピー
 記載のあるページをコピーして提出します。原本は、コピーとつきあわせたあと、その場で返してくれます。

6.会社登記謄本・株主名簿謄本
 通常、何か書類を提出する場合には、コピーをとり、コピーにサイン、社印をして提出するのですが、延長のために入管に提出する会社登記謄本、株主名簿謄本は、コピーではなく、商業振興局からもらった謄本そのものを提出します。(謄本発行日から6ヶ月以内)

7.前年度貸借対照表・損益計算書貸、借対照表提出様式、法人税申告書、領収書
 貸借対照表を商務省に提出するときには、貸借対照表提出様式(通称ソーボーチョー3)をつけて提出します。また、同時期に法人税申告書(通称ポーゴードー50)も提出しますが、注意しなければならないのは、通常は、原本をコピーして、サインし、それを提出するのですが、ビザ延長のために入管に提出する場合は、国税局か商務省の認証が必要です。
 会社を設立した直後の場合、貸借対照表はまだありませんので、設立したばかりだから、まだない、という内容を書いた説明文を提出します。

8.所得税源泉徴収と領収書
 会社は、毎月、従業員の給料から所得税を源泉徴収して、国税局に納めなければなりませんが、その様式をポーゴードー1と呼びます。ポーゴードー1は、毎月7日までに国税局に提出しなければなりませんが、提出する際に、源泉徴収した所得税を納めます。日本人の最低給与は50,000バーツですので、必ず、納税義務があり、タイ人従業員に納税義務がなかったとしても、日本人の分はあるはずですので、ポーゴードー1と一緒にいくらかの税金は払わないといけません。入管に提出するのは、やはり国税局の認証を受けたものでなければならず、最近の3ヶ月分を提出します。

9.前年度所得税申告書(申請者個人のもの)
 毎月、従業員の給料から所得税を源泉徴収して国税局に納める様式は、ポーゴードー1と呼びますが、毎月、納めている額をまとめ、1年に1回、確定申告する様式は、ポーゴードー91と呼びます。ポーゴードー91を提出する際に、不足分があれば、提出と同時に不足分を納め、過払い分があれば、後日、小切手で還付されます。不足分を納めた場合には、不足分の金額を記した領収書、過払いであれば、「0」と記した領収書をくれます(インターネットで申告した場合はネットからプリントアウト)。入管に提出するのは、このポーゴードー91ですが、これも国税局の認証が必要です。タイで働くのが初めてであるため、まだない場合には、説明文を作成して提出します。

10.社会保険料納付様式と領収書
 会社は、毎月、従業員の給料から社会保険料を引いて、社会保険事務局に納めなくてはなりませんが(通称ソーポーソー.1-10)、最近の3ヶ月分を社会保険事務局から認証をもらって提出します。会社役員については、以前から社会保険に入っているのであればともかく、新規では加入できなくなりましたので、社長であれば、ソーポーソー1・10には、名前が入っていません。その場合、従業員の氏名が入ったソーポーソー1・10を提出するとともに、社長であるため、社会保険には加入できないからない、という内容の説明文を作成して提出します。

11.付加価値税(VAT)申告書と領収書
 毎月、付加価値税(VAT)の申告をしなくてはなりませんが、この様式は、通称ポーポー30と呼ばれており、企業の売上を示すものです。ポーポー30を提出するとき、売上税が仕入税を上回っていた場合には、その差額分を納めます。仕入税のほうが上回っていた場合には、その月は支払う必要はなく、上回っていた分を翌月に持ち越し、翌月の売上税と相殺します。やはり、国税局の認証が必要で、最近の3ヶ月分を提出します。

12.雇用必要説明書
 なぜ、この外国人を雇用しなければいけないのか、その必要性を説明した文書です。

13.会社地図
 パソコンで作成した手製の地図で大丈夫ですが、目印、番地など、位置がはっきりわかるように作成します。

14.会社写真
 外から全体を撮ったもの、会社の看板(会社の名前と住所がはっきり写っているもの)、会社内部(従業員が働いているところ、申請者本人が働いているところ)など、数枚を提出します。デジカメや携帯電話で撮影し、普通紙にプリントアウトしたものでかまいません。

15.延長許可条件承諾書
 通称ソートーモー2と呼ばれているフォームです。

16.申請者本人
 申請書類を提出するときには、申請者本人が行かなくてはなりません。
 書類に問題がなく、申請が受理されると、審査結果の日がパスポートに押されます。何も問題がなく、1年間の延長が許可されると、審査結果の日に延長のスタンプが押されますが、そのときは、パスポートをタイ人スタッフに預けるだけでよく、申請者本人が行く必要はありません。

17.関係する許可書のコピー
 飲食店であれば飲食業営業許可書や酒類販売許可書、工場であれば工場操業許可書など、その事業を営むにあたって何らかの許可書が必要とされる場合、その許可書のコピーが求められます。

18.その他
 オフィサーは、以上の書類以外にも、確認のために各種書類を求める権限を持っていますので、上記以外の書類を求められることもあります。

労働許可証新規申請・延長
【労働許可証新規申請】
 労働許可証を取得する際には、外国人1人につき、払込資本金額が200万バーツ以上でなければ許可されません。労働許可証というのは、タイ人ではできないから、外国人がやる、あるいは、まだ適当なタイ人が見つかっていないから、外国人がやる、というのが大原則ですから、上記の条件を満たしていても、タイ人でもできる、外国人が就労する必要性は認められない、と判断された場合には、却下されることも考えられますので、書類の書き方には、十分、注意しなければなりません。通常、社長であれば、特に問題はなく、それほど神経質になる必要はありませんが、2人目からの日本人については、なぜ、必要なのかを強くアピールすることが大切です。
 また、労働許可証の発給権限者は各県知事であり、すべての県において全く同じというわけではなく、必要書類が若干異なることもありますし、フォーム等が変更されることもありますので、申請書類を提出する前に管轄の労働省職業斡旋局にご確認下さい。

◎必要書類
1.申請書(様式TT1)
2.写真 3×4cm 3枚
3.雇用証明書(「FORM OF EMPLOYMENT CERTIFICATION」とあるフォーム)
4.学歴・職歴証明書(「Education and job experience certification form」とあるフォーム)
5.健康診断書
6.パスポート原本とコピー
7.会社地図
8.委任状
9.会社登記謄本・株主名簿謄本コピー
10.付加価値税(VAT)登録コピー(通称:ポーポー01)、VAT登録変更届コピー(通称:ポーポー09)
11.前年度貸借対照表・損益計算書コピー
12.VAT申告様式コピー
13.外国人リスト
14.社会保険料納付様式コピー
15. 雇用必要性説明文
(16.卒業証明)
(17.雇用主労働許可コピー)
(18.関係する許可書)
(19.その他)

【解説】
1.申請書(様式TT1)(記入例)
 通称トートー1と呼ばれているフォームです。

2.写真 3×4cm 3枚
 申請書に貼付するわけではなく、そのまま提出します。1枚は労働許可証に貼付されます。

3.雇用証明書(記入例)
 雇用主(社長)が申請者を雇用していることの証明書です。社長が申請する場合には、自分が自分を雇用することになります。雇用期間、雇用契約満了日を記入する欄がありますが、便宜上、1年としておいても問題はありません。

4.学歴・職歴証明書(記入例)
 申請者の学歴、職歴を記入します。
 ほとんどがフォームだけでいいのですが、県によってはフォームと一緒に卒業証明書を求めることもあり、県によって異なっていますので、申請前に確認しておくことです。

5.健康診断書
 サミティウェート病院やバンコク病院など、日本人が多い病院が話がわかって便利ではありまが、どこの病院の診断書でも大丈夫です。コピーではなく、原本をそのまま提出します。

6.パスポート原本とコピー
 人定欄(写真があるページ)、ビザ、入国スタンプのあるページ、イミグレーションカード(パスポートにホッチキスでとめられてあるカード)のコピーとパスポート原本を提出します。パスポート原本は、コピーとつき合わせて、本当にそのパスポートのコピーであることが確認できれば、その場で返してくれます。

7.会社地図
 自分で作成したものでかまいません。

8.委任状(記入例)
 申請者が社長で、自分が行かない場合には、1通必要です。社長はすでに労働許可を持っており、さらに日本人を追加する場合にあって、その日本人も行かない場合には、その日本人が受任者(タイ人スタッフなど)に手続きを委任するという委任状が別に必要です。委任状には、委任者の身分証明書(パスポートコピー)と受任者の身分証明書コピーを添付し、収入印紙10バーツを貼付します。

9.会社登記謄本・株主名簿謄本コピー
 商務省の出先機関である商業振興局で謄本がもらえます。謄本には、その謄本の発行年月日が記されていますが、6ヶ月以内のものをコピーし、サイン、社印の上、提出します。

10.付加価値税(VAT)登録書コピー(通称ポーポー01)、VAT登録変更届コピー(通称ポーポー09)
 会社を設立したあと、VATを登録しなくてはなりませんが、そのVAT登録申請様式をポーポー01と呼びます。通常、会社関係書類一式の中に含まれているはずで、タイ語のフォームなのですが、上の方に「01」とあるので、すぐに見分けがつくと思います。会社の住所を変更したりすると、VAT登録の内容も変更しなくてはなりませんが、何か変更があった場合の変更届は、ポーポー09と呼ばれており、茶色の用紙で、上に「09」と書かれています。変更があった場合には、ポーポー01とあわせて、ポーポー09も提出します。何も変更がなければ、ポーポー09はありませんので、ポーポー01のみを提出します。

11.前年度貸借対照表・損益計算書コピー
 会社を設立した直後にはありませんので、「何年何月何日、会社を設立したばかりなのでまだない」という説明文を作成して提出します。形式は自由ですが、レターヘドで作成します。

12.VAT申告様式コピー
 VAT登録をすれば、収入がなくても毎月15日までにVAT申告をしなくてはならないのですが、最近の3か月分を提出します。まだ3ヶ月経っていない場合は1か月分でOKです。

13.外国人リスト
 現在、就労している外国人の氏名、労働許可書番号などを書いて、提出します。

14.社会保険料納付様式コピー
 労働許可証は、外国人1人につき、タイ人従業員4名を雇用しなくてはいけません。社会保険料納付様式は、4名を雇用していることの証明となるもので、原則は3ヵ月分を提出しますが、従業員を雇用したばかりであれば、1ヵ月分でもかまいません。

15.雇用必要性説明文
 なぜ、この外国人が必要なのか、その説明文を会社のレターヘッドを使って作成します。
 社長であれば、たとえば、日本本社の方針に沿って経営しなくてはならないので、日本本社の方針をよく理解しておかないといけない、だからどうしてもこの日本人が必要(社長の場合、自分が自分を必要としている文書になります)、とか、営業であれば、顧客はほとんどが日本人だから能率よく営業を行うには、どうしてもこの日本人が必要、とか、そういう内容で作成します。

(16.卒業証明)
 4.学歴・職歴証明参照

(17.雇用主労働許可証コピー)
 申請者が社長(雇用主)である場合には、必要ありませんが、社長以外の日本人が労働許可を申請する場合には、社長の労働許可証コピーを提出します。

(18.関係する許可書のコピー)
 レストランであれば飲食業営業許可書や酒類販売許可書、工場であれば工場操業許可書が必要になりますが、その事業を営むにあたって、何らかの法律に従って許可を受けなければならない場合、その許可書も提出しなければなりません。それがまだない場合、たとえば、工場操業許可が必要だが、現在、工場を建設中、あるいは機械を手配中なので、まだ工場操業許可を取っていないというような場合には、その内容を文書化して提出します。

(19.その他)
 労働許可証は県知事の裁量によるものなので、大筋は同じとはいえ、細かい部分で若干、違ってくることもあります。県によっては、会社の写真や社内組織図を求めてくることもありますし、申請書類提出後、担当官が検分し、実態を確認した上で発給することもありますので、申請前に管轄の労働省職業斡旋局に問い合わせておくとよいでしょう。また、必要書類のリストの中になくても、アピールできるものがあれば、一緒に提出しておくことです。会社の業務に何らかの形で関係している資格、検定等を持っているのであれば、その証明書を翻訳会社に依頼してタイ語に訳してもらい、原本のコピーと一緒に翻訳会社のスタンプの入った訳文を提出すると、審査も随分、違ってきます。

【労働許可証延長申請】
 新規申請と同様、県によって若干違うこともありますし、フォームが変更されることもありますので、申請前に管轄の労働省職業斡旋局にご確認下さい。

◎必要書類
1.申請書(様式TT5)
2.労働許可原本とコピー
3.パスポート原本とコピー
4.会社登記謄本と株主名簿謄本コピー
5.前年度の所得税申告書と領収書(申請者個人のもの)コピー
6.雇用証明(「FORM OF EMPLOYMENT CERTIFICATION」とあるフォーム)
7.前年度貸借対照表・損益計算書コピー
8.前年度法人税申告書と領収書コピー
9.付加価値税申告用紙と領収書コピー
10.健康診断書
11.社会保険料納付様式コピー
12.雇用必要性説明文
13.委任状
(14.関係する許可書のコピー)
(15.その他)

【解説】

1.申請書(様式TT5)
 通称トートー5と呼ばれているフォームです。

2.労働許可証原本とコピー
 コピーと原本の両方を提出します。

3.パスポート原本とコピー
 コピーと原本の両方を提出しますが、原本は、コピーとつきあわせたあと、その場で返してくれます。

4.会社登記謄本と株主名簿謄本コピー
 謄本には、その謄本の発行年月日が書かれていますが、労働許可延長のために提出する場合は、発行から6ヶ月以内です。

5.前年度所得税確定申告書と領収書(申請者個人のもの )コピー
 毎月、従業員の給料から所得税を源泉徴収して国税局に納める様式はポーゴードー1、1年に1回の確定申告の様式はポーゴードー91と呼ばれます。労働許可を延長する際に提出するのは、ポーゴードー91を提出します。

6.雇用証明書
 「FORM OF EMPLOYMENT CERTIFICATION」とあるフォームで、労働許可新規取得の場合と同じです。

7.前年度貸借対照表・損益計算書コピー
 決算期の関係で間に合わないような場合には、なぜないのか、という説明文を作成するとともに、「業績について」と題した書類を作成して、売上がどのくらいなのかを書き、各月の売上を示す付加価値税申告用紙(通称ポーポー30)を添付して提出します。

8.前年度法人税申告書と領収書コピー
 通称ポーゴードー50と呼ばれています。決算期の関係で間に合わないようであれば、7の前年度貸借対照表とあわせて、なぜ、ないのか、という説明文を作成して提出します。ポーゴードー50を提出する際、法人税も納めますが、そのときにもらう黄色い小さな半券みないな紙が領収書です(インターネットで申告した場合は、インターネットからプリントアウト)。

9.付加価値税申告用紙と領収書コピー
 通称ポーポー30と呼ばれているもので、最近の3か月分を提出します。

10.健康診断書
  新規申請の場合と同じです。

11.社会保険料納付様式コピー
 最近の3か月分を提出します。

12.雇用必要性説明文
 新規申請の場合と同じです。

13.委任状
 新規申請の場合と同じです。

(14.関係する許可書のコピー)
 レストランであれば飲食業営業許可書や酒類販売許可書、工場であれば工場操業許可書が必要になりますが、その事業を営むにあたって、何らかの法律に従って許可を受けなければならない場合、その許可書も提出しなければなりません。

(15.その他)
 労働許可証延長の条件は人によって若干の違いがあり、それぞれ、条件として記されてあるとおりの書類を提出します。また、必要書類のリストの中になくても、あるいは条件として指定されていなくても、オフィサーは、追加で書類を要求する権限を持っていますので、上記以外の書類を求められることもあります。

Non-BOI事業に注意
 BOIから投資奨励認可を受ければ、様々な恩典がありますが、その1つに外資100%というのがあります。タイでは外資が50%を超える場合、その企業は「外国人」となり、外国人事業法の規制を受けてしまうことになります。
 外国人事業法では、業種を第1類、第2類、第3類に分類しており、第1類は国家間の条約でもない限り、許可されることはありません。第2類は、商務大臣から許可を受ければ可能です。第3類は、商務省商業振興局長官から許可を受ければ可能です。とはいっても、申請書を出せば、簡単に許可されるといったものではなく、何十枚もの申請書を提出し、自分たちがタイ国内でこういう事業を営むことにより、タイ経済、タイ社会にはこのようなメリットがある、ということを強くアピールする必要があります。
 ただし、すべての業種が外国人事業法の規制を受けるわけではなく、たとえば、製造業は規制対象外となっていますので、外資50%超であっても、通常の工場操業許可されあれば(これは全然難しくありません)、特に商務省から許可を受ける必要はなく、そのまま操業することができます。
 特定の顧客からオーダーをもらい、その顧客の要望どおりに生産する場合、その顧客に代わって生産している、すなわち、請負業とされますので、日系企業のほとんどは、請負業になるのではないかと思います。そして請負業は、外国人事業法第3類に指定されている業種です。
 話をBOIに戻しますが、BOIの恩典には、外資100%以外にも、一定期間の法人税免除というのがあります(地域、業種によりますが)。しかし、会社全体の利益が対象になるわけではありません。BOIの認可は、企業にではなく、事業に対して出されるものですから、法人税免除の恩典は、認可事業から発生した利益に限られており、認可外事業から発生した利益は、免除対象にはなりません。従って、認可事業から発生した利益と認可外事業から発生した利益は、きちんと区別しておかないといけません。
 ここまではほとんどの方がご存知なのですが、問題はここからです。
 「BOIの認可は、企業にではなく、事業に対して出されるものだから、法人税免除の恩典は、認可事業から発生した利益に限られており、認可外事業から発生した利益は免除対象にはならない」・・・外資100%という恩典についても全く同様で、外資100%が認められているのは認可事業に限られており、認可外事業を営む場合、製造業でない限り、その部分については外国人事業法に引っかかることになります。製造業であれば、最初から外国人事業法には引っかからないので利益を区別するだけでいいのですが、請負業など、外国人事業法に引っかかる事業を認可を受けた事業とは別に営もうとする場合、商務省(商業振興局)に対して事業許可を申請しないといけません。
 認可された事業以外にも何らかの事業を行っている企業は多いのですが、ほとんどの方が「利益を区別していればいい」とだけお考えになっているのではないかと思います。今のところ、これで問題になったという話は聞いたことがありませんので、ほとんどの方が違法性の認識が全くないのですが、本来は法律違反です。ここにはBOI、国税局、商務省の3機関が絡んでおり、それぞれ自己の管轄のことしかやりませんので、何か別件で問題があり、調査が入った場合でなければ、発覚することはないのかもしれませんが、違法性は認識されておいたほうがよいでしょう。もし、認可外事業を行うのであれば、面倒かもしれませんが、商務省(商業振興局)に許可を申請しておくことです。あるいはその事業もBOIのカテゴリーに入っているのであれば、その事業についても認可を受けておくことです。
 もっと踏み込んでご説明しますと、「認可外事業」というのは、意外なことまで含まれることがあります。全く別の事業ではなく、認可を受けた事業のためであるにもかかわらず、認可外事業とされることもあります。
 たとえば金型です。金型については、「金型費」ということで顧客に請求していると思いますが、金型費として顧客に請求するのは、認可外事業となります。
 ちょっと前のことになるのですが、ある日、全く知らない方から問い合わせの電話がありました。ホームページをご覧になられたようで、私は簡単なことであれば、そう堅いことは言わずに無料で相談を受け付けていますので、それで問い合わせてきたようなのですが、何でも、顧客からアンケート用紙が送られてきたとのことで、内容がよくわからない、どういうことなのでしょうか?というものでした。
 電話でのやり取りで現物を見ていないのですが、金型費の支払方法についてのアンケートだったようで、その方からお聞きしたところでは、金型費支払方法の変更を希望する場合、その理由にチェックを入れるようになっているとのことでした。その理由がいくつか列挙されており、「サービスライセンスを持っていない」「レンタルライセンスを持っていない」「BOIの適用外となる」という項目があるとのことでした。
 すぐにピンときたのですが、金型の処理の仕方は、ちょっとややこしいところがあります。金型というのは、その製品を作るために必要なものではありますが、経理上では、材料ではなく、資産となります。従って、BOIから認可を受けて生産している製品とは別問題になってきます。
 「金型費」として顧客に請求する場合、所有権がどこにあるかで処理の仕方も違ってくるのですが、所有権を顧客に譲渡する場合、顧客の財物を使わせてもらっているという形になり、譲渡しない場合、自社の財物を顧客に使わせているという形になります。前者の場合、「販売」となり、後者の場合、「レンタル」となるのですが、先に述べたようにBOIから認可を受けて生産している製品と金型は別問題ですから、「販売」であれ、「レンタル」であれ、外国人事業法に引っかかってしまうことになります。
 アンケート項目の「サービスライセンスを持っていない」「レンタルライセンスを持っていない」「BOIの適用外となる」というのは、そういうことだと思うのですが、厳密に言えば、「金型費」として顧客に請求するのは、所有権がどこにあるかにかかわらず、ほとんどの企業にとっては、違法行為となってしまいます。
 ただし、資本金が1億バーツ以上であれば、所有権を顧客に譲渡することにより、「金型費」として請求することは可能です。販売業も外国人事業法規制対象になっている業種ではあるのですが、例外があり、資本金が1億バーツ以上の場合は規制対象外となります。従って、資本金が1億バーツ以上であれば、そのままの状態で顧客に金型を販売することができます。
 とはいっても、中小企業で資本金が1億バーツ以上というのは、そんなにはありませんから、ほとんどの中小企業が外国人事業法に引っかかってしまうことになるでしょう。
 では、どうすればいいのか・・・一番いいのは、金型費は請求せず、製品代に上乗せすることです。1個の金型で何個の製品が作れるのかを計算し、割り算をして、製品1個に上乗せするのが最良の方法なのですが、問題点としては、この方法は馴染みがなく、顧客から拒否される可能性が高いということです。製品1個あたりの単価は当然高くなりますから、金型費を請求しないとはいっても、顧客には受け入れられないかもしれません。
 BOI、商務省、国税局との絡みから言っても、この方法がベストです。資本金が1億バーツ以上ある企業であっても、この方法がベストです。先に述べたように、資本金が1億バーツ以上であれば、所有権を顧客に譲渡することにより、金型費として請求することは可能なのですが、金型から発生した利益については、法人税免除対象にはなりません。また、BOI認可事業による製品から発生した利益と金型から発生した利益を区別しておかないといけないので、書類管理も煩わしくなってきます。ところが、製品代に上乗せする方法をとると、会社全体の利益が法人税免除の対象になりますし、書類管理も簡素になってきます。この方法であれば、すべてのプロセスがBOI認可事業となり、外国人事業法に引っかかりませんし、法人税免除の恩典も会社全体の利益が対象になりますから、あらゆる面から見てもベストなのですが、日系企業というのは、既存のシステムを変えることには消極的ですから、こういう請求の仕方は、なかなか受け入れてもらえないかもしれません。
 こういう交渉は、タイに進出してからでは遅いかもしれませんので、進出前に顧客と交渉してみてはいかがかと思います。

タイでの土地購入
 先日、日本人49%、タイ人51%で会社を設立し、会社名義で土地を買いたいと思っている、タイ人の役員が3人以上必要で、日本人は署名権を持ってはいけないというところまでは調べたが、その先の詳細がよくわからない、という問い合わせがありました。
 日本人49%、タイ人51%であれば、タイ人の役員数に規定はありませんし、日本人が署名権を持ってはいけないということもありません。原則的には、①タイ株が51%以上で、②株主が外国人よりもタイ人のほうが多ければ、買うことはできます。
 ここで「タイ株」という語句を使いましたが、「タイ株」「外国株」という概念はよく理解しておく必要があります。「タイ株」というのは、必ずしもタイ人が持っている株を指すわけではありません。たとえば、

①A社株主
日本人   49%
タイ人A   31%
タイ人B   20%

 このような場合、すべての株が普通株で、優先株が混じっていなければ、外国株49%、タイ株51%とされ、さらに日本人の株主よりもタイ人の株主のほうが多いですから、A社名義で土地を購入することができます。仮にタイ人Bが持っている20%の株が、議決権がない優先株であったとすると、株主総会では日本人のほうが強い議決権を持ってしまいますので、タイ人Bが持っている20%は外国株とされ、A社の株は、外国株69%、タイ株31%となり、A社名義で購入することはできません。
 また、株券には通常、ホルダーの氏名が指定されていますが、氏名を指定せず、ホルダーを株主とする特殊な株券もあります。氏名を指定せず、ホルダーを株主とする株券の場合、ホルダーがタイ人であったとしても、タイ株ではなく外国株とされます。もし、タイ人Bが持っている株がこのような株である場合、やはり外国株69%、タイ株31%となりますので、A社名義で買うことはできません。
 ここで注意しておかないといけないのは、「外国株」といっても、外国人事業法とは別問題ということです。土地管理局(内務省)における「外国株」と商務省における「外国株」とは定義が異なっていますので、商務省の定義による「外国株」が50%超でなければ、外国人事業法の規制を受けることはありません。

②A社株主
日本人A   40%
日本人B    9%
タイ人A    31%
タイ人B    20%

 このような場合、すべてが普通株であれば、外国株49%、タイ株51%となり、株には問題ないものの、日本人とタイ人の株主数が同数ですから購入することはできません。

③A社株主
日本人    49%
タイ人     40%
タイ法人B社 11%

 このような場合、一見、外国株49%、タイ株51%のように思えますが、株主となっているB社の株主構成が問題となります。仮にB社の株主構成が

日本人    49%
タイ人A    31%
タイ人B    20%

 以上であれば、B社の11%はタイ株となり、A社の株は、外国株49%、タイ株51%となるのですが、

日本人A    40%
日本人B     9%
タイ人A     31%
タイ人B     20%

 以上であれば、日本人とタイ人の株主が同数ということで、B社の11%は外国株とされ、A社の株は、外国株60%、タイ株40%となりますので、A社名義で買うことはできません。さらに、

④A社株主
日本人    49%
タイ人     40%
タイ法人B社 11%

B社株主
日本人    49%
タイ人A    31%
タイ法人C社 20%

 このような場合、まず、C社の株主構成を調べ、C社が持っている20%が外国株なのか、タイ株なのかを調べます。C社が持っている20%が外国株であれば、B社の株は、外国株69%、タイ株31%となりますので、A社の株は、外国株60%、タイ株40%となりますが、C社が持っている20%がタイ株であれば、B社の株は、外国株49%、タイ株51%となり、A社の株も、外国株49%、タイ株51%となりますので、A社の名義で土地を買うことができます。
 ちょっと複雑になってきましたが、ようするに、①タイ株が51%以上であること、②タイ人株主が外国人株主よりも多いこと(同数不可)、そして、③ここでいう「タイ株」とは、商務省の定義付けによるものではなく、土地管理局(内務省)定義付けによるもの、以上の3点がポイントになります。
 ただし、土地の所有権を登記するときに、すべてのタイ人株主が同行する必要があります。タイ人から名義を借りて会社を設立し、それで土地の所有権を持たれてしまえば、結局は外国人に売ったことになってしまいますので、株主に外国人がいるような場合は、登記の段階で徹底的にチェックします。たとえば、

⑤A社株主
日本人    20%
タイ人A    50%
タイ人B    30%

 以上のような株主構成で、署名権者がタイ人Aのみとすると、日本人はただの出資者だろうということで、登記の際にはタイ人Aのみが行けばよく、日本人、タイ人Bは行く必要はないのですが、日本人が49%の株を持ち、なおかつ署名権者が日本人のみということになると、名義借りの疑い濃厚ということで、すべてのタイ人株主が同行しないといけません。
 そこで役人に何を調べられるのかといいますと、現在どのような仕事をしているのか、年収はどのくらいか、本当に出資したのか、などで、ようするに名義貸しかどうかの取調べです。従って、口頭で答えるだけでは不十分で、預金通帳など、実際にそれだけの金銭を持っているという証拠、出資する余裕があるという証拠も提示しなければいけません。
 こうなってくると、スタンダード化するのは非常に難しく、役人の判断によるところが大きくなります。決まったチェックポイントがあり、それに該当すれば名義借り、該当しなければ名義借りではない、という単純なものではなく、複数の要因から総合的に判断することになりますので、要件を満たしていると思われたにもかかわらず、許可されないことも当然あります。
 ラーメン屋に入ってラーメンをくれと言っても、うちにゃあ、おどれに食わすラーメンなんかない、出て行きやがれ!と言われればそれまでで、ここには食べる権利、買う権利なんてものはありません。それと同じで、許可する、許可しないは、あくまで役所次第となります。

外国人事業許可書
 タイでは外資が50%を超える場合、その企業は「外国人」となり、外国人事業法の規制を受けてしまうことになります。外資が49%以下であれば、通常のローカル企業ですから、関係機関から特に許可を受ける必要がなければ、そのままの状態であらゆる事業を営むことができます。
 たとえば、飲食業を営もうとします。外資50%超の場合、まず、①飲食業を営むことを商務省に申請し、それから②区役所(又は県保健所)に通常の飲食業営業許可を申請することなりますが、外資49%以下の場合、①は必要なく、②のみとなります。②は簡単なのですが、①はよほどの理由でもない限り(タイ経済、タイ社会に大きなメリットをもたらすと思われない限り)、許可されません。
 というように、我々外国人にとって外国人事業法は厄介なものなのですが、そうはいってもこれを撤廃すれば、タイ全土が外資に占拠されてしまうかもしれませんので、仕方ないといったところでしょう。
 ただし、外資50%超の企業すべてが外国人事業法の規制を受けるわけではありません。製造業であれば、外国人事業法の規制は受けませんので、外資100%であっても、商務省への申請は必要なく、工業省から工場操業許可を受けるだけで操業することができます。
 また、BOIから認可を受けた場合も外国人事業法の規制は受けません。しかし、ここで注意しなければいけないのは、請負業である場合、BOIから認可を受けたとしても、商務省に申請しなければいけないということです。これはよくある誤解なのですが、BOIと商務省は別問題で、請負業など、本来、外国人事業法に引っかかる業種である場合には、きちんと商務省から外国人事業許可書を受けなければなりません。
 とはいっても、手続きは極めて簡素で、通常は、申請→審査→許可→許可書の発行、という流れなのですが(くどいようですが、そう簡単ではありません)、BOIから認可を受けた場合、届出→許可書の発行、という流れで、審査がありません。自動的に発行されます。
 BOIから認可を受ければ、外国人事業許可書を持っていなくても、特に罰則、罰金などはなく、シリアスな問題になることはないのですが、一応、ルールですから、コンプライアンスの問題として、外国人事業許可書を持っておいたほうがいいと思います。申請の仕方は次のとおりです。

1. BOIに請負業証明書を申請

 BOIから認可を受けると奨励証書が発行されますが、もともとBOIには請負業というカテゴリーはないので、奨励証書を見ただけでは製造業か請負業かはわかりません。そこで個別に請負業であることの証明書を申請することになります。必要書類は以下のとおりです。

①カバーレター
※「当社は請負業であるので、請負業証明書を発行していただきたい」という内容です。
②会社登記謄本・株主名簿(6ヶ月以内)
③奨励証書
④委任状(従業員に行かせる場合)

 提出後、1週間ぐらいで請負業証明書が発行されます。発行手数料はありません。

2. 商務省に外国人事業許可書を申請

 以下の書類を提出します。申請手数料として、提出時に2,000バーツ支払います。

①カバーレター
※「BOI発行請負業証明書にあるとおり、当社は請負業なので、外国人事業法第12条に基づいて、外国人事業許可書を発行していただきたい」という内容です。
②BOI発行請負業証明書
③会社登記謄本・株主名簿(6ヶ月以内)
④奨励証書
⑤会社地図
⑥委任状(従業員に行かせる場合)

 提出後、1週間ぐらいで外国人事業許可書が発行されます。内容は「BOIから認可を受けたところに従って、請負業営業を許可する。営業の条件は、BOIが定めたところによる。」というものです。
 外国人事業許可書を受け取るときに発行手数料20,000バーツを支払います。

 先に述べたように、BOIの認可を取得していれば、これを持っていなくても特に問題が起こるというわけではないのですが、やはり法律ですから、きちんと持っておいたほうがいいでしょう。

BOI追加認可の注意点
 日本企業のタイ進出の動きが目立って活発になってきました。ほとんどの企業がBOIから認可を取得して進出しているのですが、最初はこのくらいにしておいて、軌道に乗り、もっと受注できるようになったら、追加で認可を取るつもり、という企業も少なくありません。
 たとえば、最初にBOIから認可を取ったとし(第1証書)、8年間法人税が免除されたとします。そして5年経過したとき、追加で新たに認可を取ったとします(第2証書)。第1証書でも3年間免除期間が残っていますが、それとは別に第2証書でも、また新たに8年間免除という恩典が与えられます。かなりお得なのですが、しくじると後で大変なことになります。
 BOIは、認可を取ったらそれで終わりというのではなく、認可を取ったあとが問題なのですが、第2証書は、第1証書以上に気をつけておかなくてはいけないことがあり、これは申請の段階から十分、念頭に入れておく必要があります。
 BOIの認可は、会社にではなく、事業に対して出されるものですから、第1証書と第2証書は、明確に区別しておかないといけません。これは収入、コストだけでなく、機械、生産工程にあってもです。たとえば、A、B、Cという機械を使って自動車部品を年間50万個生産するということで、まずは第1証書を取得したとします。そしてA、B、Cの機械を使い、5年間操業したとします。受注量が増え、生産が間に合わないということで、ア、イ、ウの機械を追加し、会社全体の生産能力を100万個に上げようとしたとします。このような場合、申請の仕方、生産工程、機械の配置に注意しないといけません。ここで問題なのは、

①A、B、Cで50万個、ア、イ、ウで50万個、A、B、Cの50万個とア、イ、ウの50万個を合計して100万個なのか。
②A、B、C で50万個、ア、イ、ウでは 完成品の製造は不可能だが、A、B、Cと一緒に稼動させることで100万個なのか。

ということです。
 ①の場合、ア、イ、ウを使って50万個生産するということで第2証書を申請しても問題ありませんが、②の場合は、第1証書を修正すべきで、新たに認可を取るべきではありません。5年間法人税免除の恩典を行使し、残りが3年間のところにあって、第1証書を修正し、生産能力をアップさせても法人税免除期間が延長されるわけではありませんので、最初から新たに8年間免除期間が得られる第2証書を取りたがるのは理解できますが、A、B、Cで50万個、それを100万個にアップさせたい、ア、イ、ウでは 完成品の製造は不可能だが、A、B、Cと一緒に稼動させることによって100万個可能なので、ア、イ、ウを使って50万個生産する、ということで第2証書を申請すると、あとあと大きな問題につながります。
 「BOIの認可は、会社にではなく、事業に対して出されるもの」これはどういうことかといいますと、ア、イ、ウを使って50万個生産するということで第2証書を申請した限り、第1証書の機械であるA、B、Cを使ってはならず、ア、イ、ウだけで50万個生産しないといけないということです。
 第1証書と第2証書は、収入、コスト、利益だけでなく、生産工程、機械にいたるまで、ごちゃ混ぜにしてはならず、明確に区別しておかないといけません。仮にア、イ、ウだけで50万個可能としても、同じ工場内にA、B、Cと混在させていると、生産工程が明確に区別できなくなってきますので、BOIの検分のとき、必ず指摘されると思います。同じ工場でもいいのですが、その場合、半分を第1証書、半分を第2証書とし、A、B、Cとア、イ、ウを混在させず、生産工程が明確にわかる配置をしておくことです。
 仮に、ア、イ、ウでは 完成品の製造は不可能であるにもかかわらず、ア、イ、ウを使って50万個生産するということで第2証書を申請すると、後日、第2証書が取り消されることになります。単に取り消されるのであれば、まだいいのですが、第2証書によって得られた法人税免除の恩典を行使した場合、遅延金、罰金とあわせてその税金を払わないといけなくなります。また、ア、イ、ウを関税免除の恩典を行使して日本から輸入した場合、関税、VAT、遅延金、罰金を支払わないといけなくなります。
 さらにここでもし、第2証書の恩典を行使して土地でも買っていようものなら、話しはさらにややこしくなります。第2証書そのものが無効になったのですから、当然、土地所有の恩典も無効になりますので、直ちに売却するように命じられます。定められた期間内に売却できなかった場合、強制的に売却されることになるのですが、強制売却の価格は、当然、かなり安いですから、大きな損失をもたらすことになります。
 BOIのシステムはかなり複雑で、BOI内部であっても、直接の専門官でなければ、間違った理解をしていることも珍しくありません。追加証書を申請しようとする場合、人の話で安易に申請するのではなく、まずはよくBOIと相談することです。飛び込みで行くと専門外の係官が応対することもありますので、専門の担当官と直接アポを取って行くことです。
 BOIについては、担当の専門官に相談するのが確実なのですが、日系企業というのは、なぜか人に聞いてばかりでなかなか自分でアクションを起こそうとしません。後日のトラブルを防止するためには、まずはこういう消極的な意識を変えてく必要があるのではないかと思います。

会社設立のステップ
1. 商務省に社名を予約する
 通常はインターネットで予約します。予約にあたっては、それぞれタイ語表記と英語表記を送信しないといけないので、どうあってもタイ語ができる日本人かタイ人のフォローが必要ですが、特に難しい作業ではありません。
 日系企業の場合、通常は、日本語で社名を考えて、それを英語表記にし、それからタイ語表記にするというパターンが最も多いと思いますが、場合によっては、インターネットでは受け付けてくれず、商務省に行かないといけないこともあります。
 たとえば、「津田」という社名にしたいとします。英語表記では「TSUDA」となり、これをタイ語にあてはめるわけですが、英語をタイ語に置き換える場合、Tの子音、Sの子音、Uの母音、Dの子音、Aの母音というように、スペルをそのままあてはめていきます。ところがタイ語の場合、子音が2つ重なると、その間にAを入れて発音する規則があります(Oの場合もありますが、面倒臭いのでここでは説明しません)。つまり、「TSUDA」というスペルをそのままタイ語に置き変えると、タイ人は、「TASUDA」(タスダ)と発音してしまいます。
 「ツナミ」という単語は、もはや諸外国でそのまま通じますが、タイでも外来語として定着しており、わざわざタイ語で「大きな波」と言わなくても「ツナミ」といえば、それで通じます。タイ語の「ツナミ」の「ツ」は「TS」ではなく、「S」の子音なのですが、発音は「TS」に近いので、発音上では、この子音を使うのがベストです。しかし、これを社名のスペルにしようと思っても、英語表記では「TS」なのに、タイ語では「S」の子音しかない、「T」が抜けている、ということで認めてくれません。このような場合、直接商務省に行き、窓口で申請すれば、特例として認めてくれます。
 予約した社名は30日間有効です。その間に会社登記を行わなければいけません。
 社名の予約がとれたら、早めにその社名で社判を作成しておくとよいでしょう。社判は、会社名は入れず、ロゴだけでもかまいません。
 社判は、ただのゴム印で、日本の実印のようなものとはかけ離れています。中央銀行からも、署名と重なって社判が押されてあると署名のチェックがしづらいので、小切手を発行する際には、社判は押さないように、というお達しも出ており、実質上は何の意味もありません。

2. 物件を決める
 1.と2.が逆になってもいいのですが、何はともあれ、物件を決めて、会社住所を確定させないといけません。
 よくある質問に「会社設立前にあっては、どうやって賃貸契約を結ぶのか」というのがあります。法人設立前の賃貸契約は、発起人のいずれかの名前でかまいません。最初は個人名で契約し、法人設立後、法人名に変更するのが一般的です。
 大家から必要な書類は以下のとおりです。

●大家が個人である場合
A)大家のIDカードコピー
B)物件の家籍登録簿コピー
 ※家籍登録簿とは、各家屋、建造物に発行されるもので、住所、所有者、居住者の氏名が記されているものです。
C)賃貸契約書(法人名に変更したもの)コピー

●大家が法人である場合
D)法人の会社登記謄本コピー
E)物件の家籍登録簿コピー
F)代表者のIDカードコピーと家籍登録簿コピー
J)賃貸契約書(法人名に変更したもの)コピー

 会社登記だけであれば、上記書類を提出する必要はないのですが、家籍登録簿の住所が正式な住所となり、登記の際に間違うと、訂正しなくてはいけなくなりますし、登記申請書類の中に家籍登録番号を記入しなくてはいけないので、提出の必要はないとはいっても、契約した段階で大家から取り寄せておき、確認しておく必要があります。
 以上の書類は、登記の際には必要ありませんが、国税局へのVAT(付加価値税)登録の際には、必要になってきます。
 賃貸契約については、最初は個人名で契約し、法人設立後、法人名に変更するわけですが、国税局に提出する賃貸契約書は、法人名でなくてはいけません。契約者を個人から法人に変更する場合、新たな契約書に双方が署名しないといけないでのすが、大家がいないとか、なかなかスムーズに進まないこともあります。特に所有者が法人である場合、代表者が出張していて、いついつまではいない、とか、なかなか相手側からの署名がもらえないことも珍しくありません。
 私の場合、このような場合に備え、予定している法人名で使用承諾書を最初にもらっておくようにしています。契約書は法的に大事な文書ですから、まだ設立されていない法人を契約者にすることはできませんが、二度手間を省くため、ということで大家の了解をとり、まだ設立していない法人の名前で使用承諾書を書いてもらうことは可能です。
 使用承諾書というのは、自分の物件を使用することを承諾します、というもので、ごく簡単な内容でかまいません。使用承諾書があれば、賃貸契約書は必要ないので、大家が忙しく、滅多に会えないようであれば、予め法人名で作成しておいてもらうとよいでしょう。

3. 登記申請書類の作成
 これは代行業者が行うと思いますが、以下のものを用意しておく必要があります。

1)発起人の身分証明書コピー
  日本人 → パスポートコピー(人定欄のみ)
  タイ人 → IDカードコピー

2)地図
  契約した物件の地図です。手製のものでかまいせんが、住所を記載し、付近の建造物、目印になるものを記載します。

3)申請者のパスポートコピー
  人定欄のほか、出入国スタンプが押されてあるページと入国時にパスポートにホッチキスでとめられるカードのコピー。

 発起人は個人のみですが、株主は法人であってもかまいません。発起人、株主は、最低3名必要ですが、設立の段階では、発起人は、必ず株主にならないといけません。
 たとえば、BOIの認可を受け、日本本社100%で会社を設立しようとするとします。そして、資本金1,000万バーツ、1株100バーツ、10万株とするとします。そのような場合、以下のようにするのが一般的です。

◆発起人
    甲(個人)    1株
    乙(個人)    1株
    丙(個人)    1株

◆株主
    甲(個人)    1株
    乙(個人)    1株
    丙(個人)    1株
    日本本社  99,997株

 日本本社を株主にする場合、履歴事項全部証明など、日本本社に関する証明書等は必要なく、会社名をタイ語と英語で記入し、代表者が署名するだけです。

4. 申請書類提出
 商務省商業振興局に提出しますが、特に問題がなければ、その場で登記することができます。
 会社設立など、商務省商業振興局への届出代行は、タイでは、弁護士か公認会計士の資格を持っている人でないと行ってはいけないことになっていますが、本人が行けば、弁護士も公認会計士も必要ありません。
 会社設立のフォームなどは、商務省のホームページで配布されていますし、記入例も詳しく掲載されていますので、タイ人スタッフを設立前から採用している場合、そのタイ人スタッフに書類を作らせて、自分で役所に行くのも一手です。難しいように思えるかもしれませんが、記入例を見ながら作れば、それほど難しい作業でもありませんので、これまでやったことがなくても、作成することは十分可能です。また、多少、書類にミスがあっても、ご自身が役所に行けば、その場で訂正できますので、特に神経質になることもないでしょう。この場合のメリットは、何といっても経費がかからないということです。

5. VAT(付加価値税)登録
 VAT登録とは、VAT納税者としての届出です。会社設立は、商務省商業振興局で登録しますが、VATは国税局で登録します。
VATは、年間の売上が180万バーツ以上になったときに登録すればよく、180万バーツ未満であれば、必ずしも登録する必要はありませんので、会社設立直後など、まだ売上がない段階では登録しなくてもかまいません。とはいっても、一般企業の場合、VATを登録しないと労働許可証が申請できませんし、銀行口座を開設する際にも、VAT登録証を求めてくる銀行、支店もあります。また、1ヶ月ごとにまとめて支払う掛け買いの場合、販売業者が会社登記謄本、VAT登録証を求めてくることも多いですから、売上が180万バーツに達していなくても、最初の段階で登録しておくほうがよいと思います。
 VAT登録に必要な書類は以下のとおりです。

1)先述のA~C、またはD~Jまでの書類
  使用承諾書があれば、C、Jは不要。

2)会社関係書類一式
  登記と同時に謄本を受け取ることができます。謄本をさらにコピーし、会社代表者が署名、捺印します。

3)会社の地図
  自作のものでかまいませんが、場所がわかるように、目印になるものを記しておきます。

4)会社の写真
  外の写真を2枚程度(必ず看板を入れること)、中の写真を2枚程度提出します。デジカメや携帯電話で撮影したものを普通紙にプリントアウトしたものでかまいません。外の写真は、必ず看板を入れておかなければなりませんが、看板とはいっても、立派なものである必要はなく、普通紙にプリントアウトし、ドアに貼り付けたものでかまいません。ただし、社名だけでなく、住所、番地を入れておく必要があります。中の写真については、机とか椅子とか、オフィス用品を並べておく必要はありません。ようは、ペーパーカンパニーではないこと、その場所が確かに存在している場所であることが確認できればいいだけのことですから、内装中であっても、 散らかっていても、犬のフンが転がっていてもかまいません。

5)申請用紙
  通称ポーポー01と呼ばれるものです。年間の売上がまだ180万バーツ未満の段階での登録申請は、ポーポー01と一緒に、通称ポーポー01.1と呼ばれるフォームを提出します。

 VAT登録は、直接国税局の窓口に行かなくても、インターネットで申請することもできます。インターネットで申請した場合、5~10日後ぐらいに国税局の役人が実在の場所であることの確認のために検分に来ます。その後、申請に使用したメールアドレスに登録通知書が送信されてきます。
 インターネットのほうが便利なように思えますが、私は毎回、直接窓口に行って申請するようにしています。インターネットだと、役人がいつ来るかわかりませんし、来ても登録通知書が送信されてくるのは、さらに数日後になりますので、VAT登録を完全に終わらせるのに時間がかかってしまいます。窓口で申請した場合もやはり、後日、役人が検分に来るのですが、登録そのものはその場ですぐにできますので、事前にうまく段取りを組んでいれば、会社登記、VAT登録を1日で終わらせることも可能です。
 なお、ポーポー01というのは、申請用紙であって、登録証ではありません。VAT登録の際には、ポーポー01を3部提出しないといけないのですが、そのうちの1部については、役人が署名し、こちらに返してくれます。ポーポー01は、登録証ではないとはいえ、役人の署名があることにより、確かにVAT登録をしたということを証明するものとなりますから、会社関係書類一式として、保管しておかなくてはいけません。
 正式なVAT登録証は、通称ポーポー20と呼ばれており、VAT登録完了後、2~3ヶ月して書留郵便で会社に送られてきます。レストランなどでは、ピンク色の用紙が額縁に入って壁に掛けられているのをよく見かけますが、これがポーポー20です。一般の会社でも、壁に掛けられていることが多いので、気をつけて観察すると、あ、これがそうか、とすぐに気がつくことでしょう。

「サムライはまだいるのか?」からもらったヒント
 先日、家庭裁判所に通訳で行ってきました。
 通訳という仕事は時間的ロスが大きいので、通常はお断りさせていただいているのですが、訴訟関係に詳しい通訳はあまりいないこともあって、どうしても、と依頼されたときには引き受けることにしています。
 タイの裁判所というのは、どこの裁判所でも事件数が建物の許容量をはるかに超えているようで、場合によっては、同じ時間に同じ部屋で異なった事件の審理が行われることもあります。
 最初はこれに戸惑いました。何せ、裁判官、弁護士、原告、被告、別々の事件の関係者が同じ時間に同じ部屋にいるのですから、どの人がこっちの事件の担当裁判官なのか、相手方弁護士なのか、頭を整理するのに少し時間がかかったものでした。
 先日、家庭裁判所に行ったときも、別の少年事件の審理が行われていました。私が法廷に入ったときは、高校生ぐらいの少年が母親に付き添われて裁判官の前に立ち、裁判官が調書を読み聞かせていたところだったのですが、どうやら、他校の生徒と喧嘩をし、刃物で切りつけ、重傷を負わせたようでした。裁判官が「ダープ・サムライを取り出し、少年○○○(被害者の名前)を切りつけた・・・」と言っているのが耳に入り、不謹慎ではありますが、ちょっと失笑してしまいました。
 数年前に「ラストサムライ」という映画がありましたが、タイに限らず、どこの国でも「サムライ」はそのまま通じます。「ダープ」というのは、タイ語で「刀」という意味ですから、「ダープ・サムライ」というと「サムライの刀」=「日本刀」ということになろうかと思いますが、日本刀がタイに転がっているわけはありませんから、一体、どんな刃物なんだろうかと一気に興味が沸いてきました。
 ちょうど弁護士が「この刃物に間違いないですね」という確認で少年に写真を見せたので、どさくさにまぎれて盗み見たところ(先に述べたように、複数の事件の関係者が入り乱れていますので、盗み見ることは十分可能です)、刃渡りが少し長めの包丁のような刃物でした。
 日本刀には程遠く、「ダープ・サシミ」といったほうがいい刃物でしたが(ちなみに「サシミ」もそのまま通じます)、ドラマや漫画、メディアならともかく、裁判という場で「ダープ」という純正タイ語と「サムライ」という日本語がつながって、1つの合成語として使われているというのは、「サムライ」という言葉がいかにタイ社会の中で外来語として定着しているかを示しているものといえるでしょう。
 また、「ハラキリ」もそのまま通じます。
 ずっと前にタイの法医学の先生の回想録を読んだことがあるのですが、その一節に「自殺か他殺かよくわからないときは、基本的なこととして、ためらい傷があるかどうかをまず調べる、最初から思い切って自殺できる人はおらず、ためらい傷があるのが普通、ためらい傷がないのは、サムライのハラキリぐらいなもの」という下りがあったのを覚えています。この下りは我々日本人からすれば、ちょっと履き違えているかな、という印象を受けるものではありますが、とにかく、真面目で堅い書物の中でも「ハラキリ」という言葉はそのまま使われていました。
 1989年から1991年にかけて、私はいろいろな国を旅していました。最近はあまり尋ねられなくなったのですが、当時はタイに限らず、いろいろな国で「サムライはまだいるのか?」と尋ねられたものでした。ナンセンスな質問のように思えますが、日本を理解する、そして外国を理解する上で、とても重要なことではないかと思います。実際、私にとっては、以後の生活の中で大いに役立つヒントをくれたように思えます。
 サムライはまだいるのか、という質問に対し、どう答えたらいいのでしょうか。
 北アフリカを陸路で横断したとき、物好きにもタマンラセット(アルジェリア)というサハラ砂漠のど真ん中まで行ったのですが、そこは一大オアシスで、交通の要所になっている分、いろいろな民族が入り乱れているところでした。驚いたのは、家畜(牛か馬だったと思いますが)が尿を始めると、すぐに手を伸ばし、尿をそのまま手で受け止めて顔や手足を洗っていたことです。これにはびっくりしましたが、あとで調べてみると、尿は体内で殺菌されて出てくるため、彼らにとっては「清潔な水」なのだそうです。
 世の中には、我々の眼からすれば、奇異に映ることをする民族がいるわけで、私たちは日本では邦人ですが、海外に出れば、世界に数多くある民族の1つにすぎません。
 タマンラセットで彼らのそんな行動を目の当たりにしたとき、はっと気が付いたのですが、「サムライはまだいるのか」これはおそらく、サムライを民族としてとらえているのだと思います。それは決して素っ頓狂な理解ではなく、また、教育水準の問題でもなく、他民族と暮らしている民族にとっては、極めて自然な捉え方ではないかと思います。
 少数民族はどこの国にもいます。タイは単一民族の国とされていますが、北部に行けば、メオ族、リス族など、○○族と呼ばれている人たちが山岳部で暮らしています。彼らは今でも昔と変わらない服装をし、我々からすれば、珍奇と映る風習を守って暮らしています。首に金色のリングを嵌め、異様に長い首をした女性の写真をどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。そういう民族もこの世界には存在しているのです。
 「サムライ」を民族と仮定すると「サムライはまだいるのか?」という質問の裏に隠された彼らの疑問も浮かび上がってきます。つまり、昔はサムライという民族の力が強くて日本を支配していた、ところがサムライ族の力が弱まり、今の日本民族がサムライ族を倒して日本を支配するようになった、しかしサムライ族は「絶滅」しておらず、今でも日本の片隅で刀を腰に下げ、昔の風習を守って細々と暮らしている、そう考えているわけです。
 この世界は、純粋な単一民族の国家というのはそんなにはなく、他民族国家、国内に少数民族を抱えている国家がほとんどですから、こういう理解のほうがむしろ自然といえるかもしれません。
 日本という小さい島国の中にも方言があり、各地で異なった文化、風習がありますので、それを「日本文化」でひとまとめにされるのも、あまり面白いものではありませんが、国際的に見れば、やっぱり「日本文化」でまとめられてしまいます。
 たとえば、地球上で一番高い地点はチョモランマ(エベレスト)の8,848m、一番深い地点はマリアナ海溝の10,911mです。最高地点と最深地点を合計しても19,759m、つまり20kmにもなりません。縦に考えると大変ですが、横にするとどうでしょうか。20kmなんて、大した距離ではないですよね。確かに地球表面には凹凸があるのですが、地球の半径は、赤道半径が 6,378 km、極半径が 6,356 km、地球の大きさとのパーセンテージで考えると、地球は真っ平らといってもいいでしょう。
 日本は日本で国内に異なった文化を持っており、私は日本が好きですから、そういう地域の文化も大好きなのですが、国際的には「20kmの差」ほどもありませんので、日本は純度の高い純血国家と言ってもいいと思います。
 サムライはまだいるのか・・・変な質問のように思えるかもしれませんが、昔のことだ、とそう簡単には片付けられないところがあります。
 なぜ、彼らはそのような質問をするのか、なぜ、そのようなことをするのか、を考えることは、他民族と付き合うには大切なことではないかと思います。
 どんな民族にも「常識」と呼ばれるものはあり、世界共通、すべての民族で通用するものもあれば、その民族の中でしか通用しないものもあります。我々も世界に数多くある民族の1つにすぎませんから、日本人の常識がそのまま他民族に通用することもあれば、通用しないことも当然あるわけです。
 タイの日系企業では、日本人の考え方には賛同できない、とタイ人がしばしば反発することがあるのですが、ときには日本人の考え方が異常視されることもあります。このあたりが難しいところなのですが、日本人とタイ人、お互い共通の認識、理念を持っていないと組織はうまく動きません。しかし、日本人がタイ人にあわせてばかりいたら、日系企業としての意味がありませんし、これまで培ってきたノウハウ、強みが十分に生かされないでしょう。
 そもそも、お金をくれる人のために働くのは当たり前のことで、それは世界どこに行っても同じです。もらう側がきちんとやってくれなければ、誰だってお金は払いません。これは世界共通のルールです。ですから、金銭の流れでいけば、タイ人のほうが日本人にあわせるのが筋というものです。
 しかし、そればかりを強調していても、強制的な印象を与えるだけですから、なぜ、彼らはそのような考え方をするのか、なぜ、そのような行動をとりたがるのかをじっくり話し合うのがいいでしょう。
 私の経験では、「日本人はそうかもしれないが、タイ人はそうじゃない、タイ人と日本人は違っている」としつこく言うタイ人は、例外なく、無能です。また「タイは日本のようにはいかない」という弁明を日本本社に対して繰り返しているだけの日本人も、失礼ですが、無能です。
 「タイ人と日本人は違う」・・・なるほど、そうかもしれません。しかし、なぜ、彼らが主張するとおりでなければならないのかを彼らに突っ込んで聞いてみると、ほとんどが怠慢の言い訳です。
 「タイ人と日本人は違う」こう言われれば、日本人としては、どう反論していいかわからなくなります。それにつけこんで、怠慢の言い訳に使われることがしばしばあります。
 なぜ、彼らはそのように考えるのか、なぜ、そのような行動をとりたがるのかをよく考えて彼らと話しあっていくと、「タイ人と日本人は違う」ことが本当にその問題の根本的原因になっているのか、あるいは単に怠慢の言い訳として利用しているだけなのかが明確になり、彼ら自身でも自分の言い分がおかしいことに気付いてきます。
 逆に日本人の考え方のほうがおかしかったということもあります。日本人がそれに気付けば、それはそれでメリットがあることですし、日本人が考え方を改めることによって、彼らに非があったときは、強気で反省を求めることもでき、彼らも反論しにくくなるでしょう。 
 それを繰り返していけば、日系企業としてのアイデンティティ、その企業のオリジナリティ、強みは、自然とタイ人の中に浸透していくのではないかと思います。
 平面を歩くのは簡単なことです。しかし、同じ距離を上に登っていくのは、大変な労力と時間がかかることです。

海外暮らしの鉄則「自分の身は自分で守る」
 先日、中国で麻薬密輸罪に問われた日本人に対する死刑が相次いで執行されました。日本では麻薬で死刑ということはありませんので、「中国は麻薬に厳しい」という印象を抱かれた方も多いのではないでしょうか。
 今回、実際に死刑が執行されたことで中国がクローズアップされましたが、世界で最も麻薬に対して厳しい国は、マレーシアとシンガポールだと言われています。
 多くの国が入国時に出入国カード(到着前に機内で配ってくれます)を提出することを義務付けているのですが、マレーシア、シンガポールも入国時に提出することを義務付けています。カードの半分は入国時に提出する入国カード、もう半分は出国時に提出する出国カードになっており、出国カードは出国まで本人が保管します。
 マレーシア、シンガポールは、その出入国カードからも麻薬に対する断固とした態度が見受けられるのですが、マレーシアの出入国カードには、

BE FOREWARNED DEATH FOR DRUG TRAFFICKERS
UNDER MALAYSIAN LAW

そしてシンガポールの出入国カードには、

WARNING
DEATH FOR DRUG TRAFFICKERS UNDER SINGAPORE LAW

と書かれています。わかりやすく言えば、我が国の法律下では麻薬密売は死刑、ということです。入国時にすでに警告してあるのだから、その警告を無視した方が悪い、ということで、最初から弁明など受け入れてくれません。
  さて、タイですが、タイも麻薬には相当厳しい国です。何年も前に日本のレンタルビデオ店で「囚われた女」という映画を借りて見たことがあるのですが、ストーリーは確か、タイに観光に来た若い西洋人女性が男に騙されて、知らないうちに麻薬の運び屋をやらされ、空港で見つかってタイ警察に逮捕された、西洋人の弁護士に依頼して事件を争おうとするものの、弁護士は、争っても無駄、争ったら死刑になるから罪を認めたほうがいい、冤罪ではあっても認めないと死刑になる、認めれば死刑にならないから認めなさい、と助言するものの、主人公は自分は潔癖だ、なぜ認めないといけないのか、と認めようとせず、最終的には、刑務所から脱走し、自分を騙して運び屋にしようとした男を警察に逮捕させた、というものだったと記憶しています。
 以上のストーリについて、少し解説をつけましょう。

ポイント1 争っても無駄
 本当に争っても無駄です。裁判というのは、原告が被告の犯罪事実を証明しないといけません。被告は確かにこのような犯罪を犯しました、これがその証拠です、証人もいます、と被告を攻めるわけです。攻め手は原告、受け手は被告ですが、ときには攻撃は最大の防御、ということで、原告が提出した証拠はおかしい、信憑性がない、などなど、被告も原告を攻めてきます。しかし、それはあくまで防御の一環の攻めであって、攻め手が原告であることに変わりありません。そして、原告が十分に被告の犯罪を立証することができなかったときは「疑わしきは罰せず」の大原則によって無罪となります。
 繰り返しますが、攻め手は原告であり、原告には被告の犯罪を証明する義務があります。ところが、タイではこれが反対になるという恐ろしい規定があるのです。
 まずは以下の条文を読んでみて下さい。

第15条
 大臣が特に文書で許可を与えたところの公務での利益のための場合、もしくは適切性のある特別な場合を除き、何人も第一種麻薬の製造、販売、輸入、輸出、所持をしてはならない。
 第一種麻薬の実量20グラム以上の製造、輸出、輸入、所持は、販売目的の製造、輸出、輸入、所持であるものとみなす。

 以上は、タイの麻薬法です。注目していただきたいのは、最後の「~であるものとみなす」という文言です。タイの法律は、どんなものでも「~であるものとみなす」という文言が目に付くのですが、この文言があると、大変恐ろしい状況に置かれることになります。
 先に述べたように、通常、裁判というのは、原告が被告の犯罪を立証しないといけないのですが、「~であるものとみなす」という文言があると、被告がそうでないということを証明しないといけなくなります。
 たとえば、30グラムのヘロイン(第一種麻薬)を持っていたことで逮捕されたとします。この場合、20グラムを超えていますから、自動的に販売目的となり、原告は、販売目的であることを立証する必要はありません。もし、被告が販売目的でないと主張するのであれば、被告が販売目的でないことを証明しないといけません。
 これがたとえば、15グラムだったとすると、販売目的の所持であるというのであれば、原告がそれを証明しないといけません。
 これについては、次の最高裁判例が大変参考になります。

 1979年麻薬法第15条第2段落に、第一種麻薬の実量20グラム以上の製造、輸出、輸入、所持は、販売目的の製造、輸出、輸入、所持であるものとみなす、と規定されており、この規定は絶対的な憶測である。被告が実量236.8グラムのヘロインを所持していたということは、被告は販売のためにヘロインを所持していたものとみなし、これについて原告は、被告は販売のためにヘロインを所持していたというその意図を裁判所に示すために証人を出廷させ、尋問する必要はない。(最高裁1993年1350号)

 以上の最高裁判例のとおり、20グラム以上を所持していれば、捜査側としてはそのことだけで十分なのです。「持っていた」という事実だけで、自動的に販売目的になってしまうのです。
 先ほどから販売、販売と「販売」を繰り返しておりますが、なぜかというと、

第65条
 第一種麻薬の製造、輸入、輸出を行った者は、終身禁錮に処する。
 前段落の行為が販売目的であれば、死刑に処する。

という条文があるからです。
 「製造」とありますが、何もケシを栽培してアヘンをとり、薬品を加えて精製する、という作業のみが「製造」というわけではなく、大きな袋から小さな袋に詰め替える作業も「製造」の一種というのがタイの法律での解釈です。従って、ほとんどの場合、「製造」扱いにされてしまいます。
 それをひっくり返すには、被告自身がそうではないことを立証しないといけません。たとえば「騙されていた」というのであれば、騙されていたことを立証するということです。では、どうやって立証するのか・・・騙した人間を連れてきて、私はこの人を騙しました、と言わせるのが一番いいのですが、現実では、まず不可能なことです。
 従って、第一種麻薬(ヘロインなど)を20グラム以上持っていたら、その時点で自動的に販売目的所持となり、終身懲役、もし「製造」「輸出入」と見なされれば、麻薬法第15条と第65条により、死刑判決を言い渡されることになります。
 ニュースでは「中国の刑法では、覚せい剤50グラム以上を密輸した場合には懲役15年、または無期懲役、あるいは死刑を科すと規定されている」とありましたが、条文を比較すると、タイのほうが厳しいことがわかるでしょう。

ポイント2 認めれば死刑にならないから認めなさい
 次に「認めれば死刑にならないから認めなさい」についての解説ですが、麻薬法第15条と第65条により、死刑相当であったとしても、1つだけ助かる方法があります。その方法とは、

第78条
 本法又は他の法律による刑の加重、減軽の規定の有無に関わらず、減軽の理由となる事項が明らかになったとき、裁判所が適切と認めれば、その者に科す刑を半分未満の割合で減軽してもよい。
 減軽の理由とは、無学無知であった、非常な困苦の下におかれていた、これまでの品行は方正であった、罪を自覚し、犯罪行為の結果を軽減しようとした、罪を認め、係官に赦しを求めた、裁判所が事件審理に有益と認める事実を提供した、あるいは裁判所が適切と認めた他の事項である。

 以上は、刑法第78条です。変な言い回しで書かれていますが、「罪を認め」れば、この第78条が適用され、半分未満の割合で減軽されますので、死刑相当の場合は、終身懲役となります。
 麻薬法と刑法、異なった法律ですが、刑法の総則は、他の法律にも適用されますので、刑法犯でなくても、自供すれば、刑法第78条が適用されます。
 日本では、取調べの中で警察官が「罪を認めて自供すれば、刑が軽くなる」と言うと、利益誘導となり、違法な取調べとなってしまいますが、タイでは、「罪を認めて自供すれば、刑が軽くなる」と言うのは、単に法律事項の解説にすぎず、利益誘導でも何でもありません。
 それはさておき、映画の解説を続けますと、争えば、麻薬法第15条と第65条によって自動的に死刑となるが、罪を認めれば、刑法第78条によって死刑は免れる、というわけです。だから弁護士は、争っても無駄、冤罪でも罪を認めたほうがいい、と助言しているわけです。
 映画ですから、最終的には脱走して騙した男を懲らしめる、ということもできるでしょうが、現実では、そんなことはまず無理で、冤罪でも罪を認めてとりあえずは死刑を免れ、刑務所でいい子にして恩赦を待つ、ということしか方法はありません。
 何だか、恐ろしい国のように思えますが、全然恐ろしくありません。手を出さなければいいのです。騙された場合はどうなるのか、と思われるかもしれませんが、映画だから「騙された」ということになっているわけで、現実では、自分から積極的に手を出そうとしない限り、麻薬のほうから勝手にポケットに入ってくるということはありません。
 知らないうちに運び屋をやらされるかも、という不安を感じる必要もないでしょう。あなたが密売人の立場になって考えてみて下さい。麻薬が入ったトランクを人に預けるとします。ところがその人がトランクをこじ開けて、警察に通報したらどうなりますか? 預ける側は預ける側で、誰に預けるのかは非常に神経質になっており、よほどの信頼関係、主従関係がない限り、絶対に預けることはしません。仮に自分は逃げられたとしても、麻薬が没収されれば、莫大な損害を被ることになり、ほとんどの売人は密売組織から金を借りて、そういった麻薬を調達していますので、麻薬は没収されるわ、金は取れないわということになれば、当然、組織から責められる身となります。
 また、タイでは囮捜査が認められていますので、相手が警察官、あるいは警察のスパイだったら、とんでもないことになりますので、新参者は、誰かの紹介がない限り、売人も警戒するのが普通です。
 ですから、自分から積極的に手を出そうとしない限り、麻薬の方から勝手に自分のポケットに入ってくることは、まずないと思います。
 日本人にしろ、欧米人にしろ、本国では品行方正であるにもかかわらず、タイに来るとおかしくなってしまう人が多いように思えます。
 私は日本にいたとき、年に何回かタイに来て、日本大使館に出入りしていた立場だったのですが、当時の館員から、タイに旅行に来て、麻薬所持で捕まり、日本大使館に助けを求めてきた日本人の話を聞かされたものでした。彼らは決まって「日本大使館は何もしてくれない」と館員を激しく罵るそうですが、日本大使館は、犯罪者を無罪にする、そういう機関ではありません。
 他国に来れば、その国の法律に従うのは当たり前で、従いたくないのであれば、最初から来るべきではありません。それは日本も同じで、日本も外国人には日本の法律を適用し、日本の法律で処罰しています。
 日本国内でも旅行に行くと、いつもと違った雰囲気に新鮮味を感じ、多少、ハメをはずしてしまうこともあるかと思います。海外ともなれば、環境がガラリと変わりますので、「せっかくだから」「この機会に」という心理になってしまいやすいのも、わからないでもないですが、やってはいけないことは、どこにいてもやってはいけないものです。
 日本では目にすることのない様々な誘惑要因に囲まれるかもしれませんが、どこにいても「自分は自分」という意識、自制心は、忘れないでおきたいところです。
 「自分の身は自分で守る」それは海外生活の鉄則です。言葉からは、「犯罪に遭わないこと」「被害者にならないこと」という意味にとれますが、単に「犯罪に遭わないこと」というだけでなく、「犯罪者とならないこと」も含んでしかるべきではないかと思います。
 今回は麻薬についてお話しましたが、その他、意外なことがタイでは犯罪となったり、あるいは日本では刑の軽いものがタイでは重い刑になったりします。
 詳しい解説は、限りがないのでやめておきますが、1つ、はっきり断言できることは、どこにいても普通の良識的な生活をしていれば、何ら問題はないということです。
 海外に出ると、怪しい人が近づいてくることがあるかもしれませんが、通常に社会生活を営むことができるだけの注意力を持っていれば、怪しいかどうかはすぐに判断できると思います。

続・海外暮らしの鉄則「自分の身は自分で守る」
 「海外暮らしの鉄則『自分の身は自分で守る』」について、補足的なことを少しご説明しておきたいと思います。

第78条
 本法又は他の法律による刑の加重、減軽の規定の有無に関わらず、減軽の理由となる事項が明らかになったとき、裁判所が適切と認めれば、その者に科す刑を半分未満の割合で減軽してもよい。
 減軽の理由とは、無学無知であった、非常な困苦の下におかれていた、これまでの品行は方正であった、罪を自覚し、犯罪行為の結果を軽減しようとした、罪を認め、係官に赦しを求めた、裁判所が事件審理に有益と認める事実を提供した、あるいは裁判所が適切と認めた他の事項である。
 以上は、刑法第78条です。自供すればこの第78条が適用され、刑が減軽されるのですが、必ず適用しなければならないというものでもなく、適用するか、しないかは裁判官の判断によります。とはいっても、国王に対する犯罪とか、内乱罪とか、あるいはあまりにも残虐非道であったとか、そういう犯罪でなければ、だいたいが適用されるようです。
 日本では、取調べの中で警察官が「罪を認めて自供すれば、刑が軽くなる」と言うと、利益誘導となり、違法な取調べとなってしまいますが、タイでは、「罪を認めて自供すれば、刑が軽くなる」と言うのは、単にこの第78条の解説にすぎず、利益誘導でも何でもありません。つまり、犯罪者はウソをついて当たり前、その当たり前のところにあって罪を認めた、なかなか立派だから減軽しましょう、というわけで、このあたり、自分が犯した過ちは潔く認めることを美徳とする日本とは、ちょっと文化的に違うのかな、と感じます。
 それはともかくとして、タイの刑法には、日本の刑法にはないような条文があり、その1つに以下のようなものがあります。

第72条
 不当で非常な虐待を受けたことから発した激情により、虐待者に対して犯罪行為を行った場合、裁判所は、その行為に対する法律の規定よりも、軽い刑を言い渡してもよい。

 これはどういうことかというと、相手がこちらを侮辱するようなことを言ったり、あるいは口論になって先に相手が殴ってきたりなどして、ついかっとなって相手を傷つけた、あるいは死亡させたようなときに適用される規定です。
 これが適用されるには、以下の大原則があります。

◎自分が原因を作ったのではないこと
 たとえば、こちらが相手を侮辱することを言い、相手が唾を吐きかけたとします。この場合、自分が相手を侮辱することを言ったことが原因であるわけですから、相手に唾を吐きかけられたからついかっとなってやり返した、という言い訳は通用しません。

◎時間差がないこと
 たとえば、相手に顔を殴られたとします。家に帰ったがどうも腹の虫がおさまらず、武器を持って出て行き、相手を襲ったとします。この場合、考える時間があったわけですから、考えた上での犯行となってしまい、「ついかっとなって」という言い訳は通用しません。やり返したければ、顔を殴られたということで、警察に被害届を出せばいいのです。

 タイの刑法は、一応、量刑が定められてはいますが、第78条や第72条によって、その量刑がそのまま適用されるとは限りません。
 たとえば、人を殺害した場合、タイではどのような刑が定められているかといいますと、

第288条
 人を殺した者は、死刑又は終身禁錮若しくは15年以上20年以下の禁錮に処する。

一方、日本では、

第199条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

となっており、条文を比較するとタイのほうが断然厳しくなっています(「禁錮」とありますが、懲役と同じと思ってください)。
 しかし、実際には、人を殺したとしても、単純殺人であれば、6年であったり、7年であったりすることもあります。
 タイの判決文というのは、「禁錮20年に処するが、激情にかられての犯行であるため4分の1減軽し、禁錮15年に処する、さらに罪を認めていることから3分の1減軽し、禁錮10年に処する」という具合に、一旦、法定刑に基づいて刑を言い渡し、その後、減軽要因を考慮して減軽していき、最後に実際に科す刑を言い渡すというものです。
 この場合、第288条によって禁錮20年、第72条によって4分の1減軽し、禁錮15年、さらに第78条によって3分の1減軽し、禁錮10年、というわけで、数式ができあがっているようなところがあり、最終的に言い渡される刑は極めて算術的です。
 その他、減軽要因として、

第62条
 その行為を犯罪としない、もしくは刑を受けなくてもよい、あるいは減軽される事実関係が実際は存在しないにも関わらず、存在すると誤解していた場合、行為者は無罪、あるいは刑を受けなくてもよい、もしくは減軽される。
 第59条第3段落に定められた事実関係の無知、もしくは前段落の誤解が行為者の過失で生じたものであるとき、過失であってもその責任が規定されている場合には、行為者は過失行為としての責任を負う。
 ある事実関係によって刑を重くする場合、その事実関係についての認識がその者になければならない。

第67条
 以下の必要性をもって犯罪を行い、その行為が適切性を超えた過剰行為でなければ、その者は刑を受けなくてもよい。
(1)回避、抵抗が不可能な強制下にあるとき。
(2)目前に迫った危険から自己又は他の者を逃れさせるためで、その危険が自己の犯罪行為によって生じたものではなく、他の方法での回避が不可能であったとき。

第68条
 法律違反となる加害行為から生じた危険が目前に迫り、自己もしくは他人の権利をその危険から防衛するために行った行為は、その理由に適したものであれば、正当防衛であり、行為者は無罪である。

第69条
 第67条及び第68条の場合にあって、行為者が理由に適した以上の行為、もしくは必要性を超えた行為、あるいは防衛行為を過剰に行ったのであれば、裁判所は、その行為に対する法律の規定よりも軽い刑を言い渡すことができる。その行為が興奮、驚愕、恐怖から生じたものであれば、裁判所はその者を処罰しなくてもよい。

 などなど、いろいろありまして、詳しい解説はやめておきますが、諸々の減軽要因が重なれば、軽い刑ですむこともあります。しかし、減軽要因となるべき事情がうまく伝わらなければ、当然、減軽されることはありません。
 また、真実と違った事実認定をされることもあります。
 たとえば、何か腹の立つことがあり、むしゃくしゃし、酒を飲んだが気は晴れず、夜の帰り道に道端に落ちていたビンを拾って建物の壁に投げつけたとします。たまたまそこに国王の写真があって、国王の写真を傷つけるようなことがあれば、不敬罪に問われることになります。
 この場合、暗闇であったことから国王の写真があることは知らず、投げつけた先にたまたま国王の写真があっただけ、ということになれば、単なる器物損壊です。しかし、捜査側は、まずは国王の写真を狙ったのかどうかに焦点を絞るはずです。日本では、不敬罪は昭和22年に廃止され、単なる器物損壊にすぎなくなりましたが、タイでは不敬罪がありますので、まずは不敬罪となるかどうかで捜査は進められるでしょう。
 「国王の写真を狙って投げつけた」というのであれば、弁解の余地なしに不敬罪です。「国王の写真を狙ったわけではないが、毎日通る道だから国王の写真があることは知っていた」でも、「もしかしたら当たるかもしれない」→「当たってもかまわないと思っていた」ということで、未必の故意が認定されるでしょう。
 器物損壊は確実としても、不敬罪になるかどうかが微妙な場合、真実がきちんと伝わらなければ、真実に反して不敬罪となり、器物損壊よりも重い刑を受けなければならなくなります。
 減軽の要因となる諸々の事情、真実は、はっきりと伝えなくてはならないところなのですが、ここはタイです。言葉の壁があります。どのようにして「諸々の事情」「真実」を正確に伝えればいいのでしょうか。
 タイ語ができない場合、通訳人を介して供述することになるわけですが、その通訳人が非常に重要になってきます。通訳人というのは、必ずしも、自分の言いたいことをきちんと伝えてくれるわけではありません。語学能力そのものに問題がある場合もあれば、本来は高い能力を持ってはいても性格がいい加減であったり、あるいはそのとき体調が良くなかったり、気に悩むことがあったりなどで十分な通訳ができないという場合もあり、通訳人が自分の言いたいことをちゃんと伝えてくれていると思ったら大間違いです。
 実際に私が見たことなのですが、日本にいたとき、タイ人が被告の窃盗事件の裁判を傍聴したことがあります。
 この事件はタイ人Aが自動車を盗み、タイ人Bに売る、タイ人Bは自動車を解体してエンジンを取り出し、タイ人Cに売る、タイ人Cはタイ人Dに売り、タイ人Dはタイに輸出する、というもので、私が傍聴したのは、Bの裁判でした。 
 事件は、Aが盗んだ自動車を運転してBのところに持って行っているときに日本人の自動車にぶつけ、逃げようとするものの、日本人に取り押さえられたことから発覚しました。その後の捜査でB、C、Dが浮上し、逮捕となりました。
 先に逮捕されたAの裁判は、ただの使いっぱしりということもあって、すぐに終わり、執行猶予がついて、逮捕からほんの数ヶ月でタイに強制送還されたようなのですが、Bは主犯格ということもあってか、その分、取り調べも長く、裁判も長引きました。最後に裁判官が「何か言いたいことはありますか?」とBに尋ねたところ、Bは「Aはもうタイに帰っていますが、自分はまだ帰ることができません、でもそれは仕方ないと思っています、早くタイに帰りたいです」と答えたのですが、そのときの通訳人(タイ人女性)は「えっとですね、Aはですね、もうタイに帰ってます、でも私はまだ帰してくれないです、それはおかしいと思います、早くタイに帰りたいです」と訳しました。え?と思いましたね、この訳を聞いたときは。
 裁判官の顔色が見る見るうちに変わり、「あなたにおかしいなんて言われる筋合いはないんですよ!」と語調を荒げてBを叱りつけました。Bはわけがわからず、きょとんとしています。そして通訳人、Bは「おかしい」なんて一言も言っていないだけに訳に困ったのか、「早く帰りたいなんて自分勝手です」と勝手に訳していました。
 Bの発言は、(Aよりも罪が重いのだから)早くタイに帰れないのも仕方ないと思う、というものですから、きちんと訳されていれば、裁判官も反省の態度を読み取っていたと思うのですが、通訳人のせいで叱られてしまうというのは、ちょっと気の毒でしたね。
 こういうことは、決して珍しいことではありません。これはタイでも同じです。タイで逮捕され、タイ語に通じていなければ通訳人を介して供述することになるわけですが、本来は酌量となるはずの諸事情があったとしても、それがきちんと伝わらなければ、不当な量刑を言い渡されることになります。日本語とタイ語、どちらも特殊言語ですから、言いたいことをきちんと伝えてくれるだけの水準にある通訳人は、最初から期待しないほうがいいと思います。
 もちろん、優秀なタイ人はたくさんいます。タイ語を勉強している日本人と、日本語を勉強しているタイ人とでは、圧倒的に日本語を勉強しているタイ人のほうが多いですし、タイ人が日本に留学するのは一般的なことですが、日本人がタイに留学するというのはあまりないでしょう。
 そういうこともあって、タイ語-日本語間の通訳、翻訳は、タイ人のほうが圧倒的にレベルが高く、優秀な通訳人が揃っています。しかし、そのような優秀な人材は、どこかに高給で雇用されているのが普通ですから、取調べの通訳など、最初から引き受けてくれることはないでしょう。すなわち、自分の言いたいことを正確に伝えてくれる通訳人は、期待しないほうがいいということです。
 先月号で「自分の身は自分で守る、言葉からは被害者にならないこと、犯罪に遭わないこと、と受け止められるが、単に犯罪に遭わないこと、というだけでなく、犯罪者にならないこと、も含んでしかるべきではないか」と個人的な意見を述べましたが、以上のように外国では通訳人の問題も絡んできますから、我々外国人は、余計に注意しておいたほうがいいと思います。
 通訳人というのは、他の人にはわからないのをいいことに、自分が理解できないことや聞き逃したこともわかったフリをして、そ知らぬ顔で適当な訳をすることも多いのですから。

「国際化」「国際教養」「国際人」
 「国際化」「国際教養」「国際人」なんていう言葉は、昨日、今日の言葉ではなく、ずいぶん前から叫ばれていたように思えます(今では「グローバル化」といったところでしょうか)。
 海外のことや外国語に関心を持つのはいいことなのでしょうが、今ひとつ、履き違えているのではないかといった印象を受けることも少なくありません。
 何年も前に、確かシンガポール大学の教授だったと思うのですが、英語ができないといわれている日本人だが、最近はできる人も増えてきた、しかし彼らと話をしていても面白くない、彼らは語るべき思想を持っていない、人に伝えるべき思想を持っていない、というような内容のコラムを何かの雑誌か新聞に寄稿していたように記憶しています。
 言葉はツールにすぎません。外国語ができるというだけで評価されるのは、学生のときだけで、社会に出れば、外国語ができるということ自体は大して重要なことではなく、外国語というツールを使って何をするのか、ということが重要になってきます。
 「国際人」=「外国語ができる人」なんていうイメージがありますが、外国語ができても「国際人」の資質がない人もいれば、外国語ができなくても真の「国際人」と呼べるような人もたくさんいます。つまり、国際人であることと、外国語ができることとは、全く別問題ではないかと思います。
 単刀直入に言いますと、国際化の出発点は、自分の日常生活のような気がしてなりません。「国際化」だからといって、いきなり頭が外国に飛んでいくのは「かぶれ」といって、国際化とはちょっと違うように思えます。
 1989年から1991年にかけて、私はいろいろな国を旅していました。1991年には、北アフリカを陸路で横断したのですが、そのときのルートは、日本→タイ→スペイン→モロッコ→アルジェリア→チュニジア→リビア→エジプト→ヨルダン→シリア→トルコ→シンガポール→マレーシア→タイ→フィリピン→日本、というものでした。
 当時の私にとって、タイという国は、ただの中継地点にすぎませんでした。タイは、地理的にも交通の要所になっているほか、どこの国とも外交関係がありますので、乗り入れしている航空会社は、成田空港よりも多かったと思います。
 そういうこともあって、チケットを買うために立ち寄っていたにすぎず、特にタイに住もう、タイで働こう、ましてやタイで会社を設立しようなんていう考えは、当時は全くありませんでした。
 さて、1991年3月のことになりますが、日本から一旦タイに行き、バンコクでマドリード(スペイン)行きのチケットを買って、マドリードに行きました。2、3日マドリードにいたあと、寝台列車でアルヘシラスという港町まで行き、そこからフェリーでジブラルタル海峡を渡ってモロッコに入国したのですが、いやはや、すさまじい国でした。
 何せ、静かに町を歩くことができません。東洋人が珍しいのか、しきりにジロジロ見て、「ジャポン!」(日本)「チン!」(中国)と声をかけてきます。それだけならまだいいのですが、「アチョー!! ブルース・リー! ジャッキー・チェン!」とか言って、拳法だか、空手だか、タコ踊りだか、何だかわけのわからない構えして、こっちにちょっかいをかけてきます(ブルース・リーもジャッキー・チェンも日本人ではありませんが、彼らにとっては同じなのです)。
 道を歩いているときであれば、こちらも動いているのでまだ逃げられるのですが、食事をしているときにもちょっかいをかけてくるので、ゆっくりご飯も食べていられません。
 私は、装身具とかはうっとうしいので、腕時計を含めて、体には何もつけないのですが(服は着ますよ)、モロッコではサングラスをしていました。直射日光から目を保護することが目的ではなく、モロッコ人と目を合わさないためです。目が合えば、必ず「アチョー!!」と言ってきますから。
 その他、変な自称ガイドがいっぱいいて、道を歩いていると勝手についてきて、勝手に喋り、一通り喋ったあとで、ガイド料をよこせ、としつこく付きまとってきます。ホテルに入ろうとしたら、横からいち早く中に入り、フロントと交渉してやったからマージンよこせ、とか言ってきます。それがしつこいのなんのって。ダメだ、と怒鳴っても、いつまでも付いてきます。
 1度や2度お客さんに断られても、怒鳴られても、めげずにしつこくトライする根性が必要な職種には、モロッコ人を採用することをオススメします。
 なお、モロッコの名誉のために書いておきますが、以上の話は1991年に私が実際に体験したことにすぎず、以後、政府の観光推進策で自称ガイドの取り締まりも厳しくなり、私が経験した以上のようなことは、もうないそうです。
 さて、その後、モロッコからアルジェリアに入国したのですが、「アチョー!! ジャッキー・チェン!」がピタリとなくなり、隣り合わせの国で、しかも同じアラブ人でありながら、こうも違うのか、と驚いたものでした。東洋人が珍しいことには変わりないようで、私の姿を見ると「あ、東洋人だ!」とばかりに私を見ますが、私と目が合うと、すぐに目をそらし、ジロジロ見るという下品な態度はありませんでした。
 また、食事をしても、お金はいい、旅人に親切にするのは我々の掟、もしあなたが私に感謝するのであれば、今度はあなたが旅人に親切にすればいい、と言われたことも何度もあります。全体的にアルジェリアの印象はよかったですね。
 しばらくアルジェリアを旅したあと、チュニジアに入国したのですが、これがまたガラリと変わり、「アチョー!!」が始まりました。
 ちなみに今のチュニジアもそんなことはありません。これは私が実際に行ったので断言できます。
 とにかく、当時のチュニジアは「アチョー!!」、その隣のリビアは静か、そしてその隣のエジプトは、また「アチョー!!」でした。復習しますと、モロッコ「アチョー!!」、アルジェリア静か、チュニジア「アチョー!!」、リビア静か、エジプト「アチョー!!」です。
 さて、エジプトからは、フェリーでアカバ湾を渡り、ヨルダンに入国しましたが、その後の経路は、ヨルダン→シリア→トルコ、そして最後はトルコのイスタンブールでチケットを買って、シンガポールに飛びました。
 ここまで下らない旅行記じみたものを書いてきたのは、そのときのシンガポール到着時のことをお話したかったからで、ここからが本題になります。
 イスタンブールからシンガポールに飛び、シンガポールに着いたときに私が感じたものは、「帰ってきた」という感覚でした。それ以前にシンガポールには行ったことがなく、初めてだったのですが「帰ってきた」という強い感覚を持ちました。
 町を歩いている人たちと顔かたちは似ています。ジロジロ見られることはありません。「アチョー!!」もありません。スープ麺、カレー、焼き飯もあり、今食べれば、日本料理とは感じませんが、アラブ世界の食べ物ばかり食べていた当時の私にとっては、十分「懐かしい味」でした。
 あのときの感覚は、私の旅人生の中で最も強烈なものでした。顔かたちが似ている、食べ物が似ている、たったそれだけのことでも、いかに人を結びつけることができるのかを感じた瞬間でした。人間というのは、自分と共通点の多い人のほうに親近感を感じるもので、これはいわば「人間のルール」ではないかと思います。
 私がシンガポールで感じたものは、まさにその「親近感」でした。日本人とアラブ人、もちろん、共通点もあるのですが、アラブ諸国とシンガポール、どちらが日本人にとって共通点が多いかというと、言うまでもなく、シンガポールです。しかも圧倒的に、です。共通点が多いということが、どれほど人間にとって重要なことであるかを痛感したときでした。
 私がこれまで住んでいたところは、高校までは島根県、大学は岡山、卒業後は大阪、それから旅をし、その後タイ、それから茨城、そしてまたタイ、で、異動の多い大企業に比べれば、それほど転々としてきたわけではないのですが、今、各地に住んでいたころのことを思い出すと、高校の時分には、隣町である日原町の同級生らを「日原モン」なんて呼んでいました。大学時分には、違う町出身であるにもかかわらず、島根県というだけで「島根県のどこですか、僕も島根県なんですよ」なんて具合に話がはずみ、茨城では、ある人に「私の家内の実家が鳥取県でしてね」と言われ、「え?鳥取県ですか、お隣さんですね」なんて具合に話がはずんだものです。
 同じ町であればどの地区なのか、同じ市、郡であればどの町なのか、同じ県であればどの市、郡なのか、同じ地方であればどの県なのか、西日本か、東日本か、これまで会ったこともない、見たこともない、話をしたこともない間柄であっても、何らかの共通点があれば、たったそれだけの理由で相手に親近感を感じ、その共通点を話題にして、話がはずむものです。みなさんもご自分の経験をよく思い出してみてください。そう言われればそうだな、と思い当たるのではないでしょうか。
 民族それぞれで異なった文化、風習がありますが、それはいわばWindowsなどのオペレーションシステムで、その前に人間としてのベーシックなもの、いわばBIOSに相当するものが必ずあると私は思います。
 たとえば、「共通点の多い人のほうに親近感を感じる」というのがBIOSであり、「誰に親近感を感じるのか」がオペレーションシステムという理屈です。
 この世界では、民族紛争が絶えません。なぜ、話し合いで解決できないのか、わかりあえないのか、と思うところなのですが、規模は違えど、同じ構図から発生していることが私たちの周辺でも起きていると思います。
 たとえば、同じ政党ではあっても、その中で同じ理念を持った人たちが集まって「○○派」と呼ばれる派閥を形成しています。また、会社でも派閥というものがあります。小さな子どもですら、仲の良い友達同士で仲良しグループを作っているのです。
 こう考えると、なぜ民族紛争が起きるのかも感覚的に理解しやすくなるのではないでしょうか。同じ文化、習慣、言語を持つ人々であっても、考え方の違いなどにより、複数のグループに分かれるものです。これが全く異なった宗教、習慣、言語、理念ということになれば、さらに明確にグループ化されることでしょう。
 誤解がないように断っておきますが、私は別に民族紛争、暴力行為を仕方がないもの、人間の本質、と思って肯定しているわけではありません。主義主張、理念、宗教、習慣、言語等が違えば、そこには必ず溝ができる、必ず共通点の多い者同士が1つの集団を形成する、反目の集団があれば、ますますその結束力は強くなる、人間にはそういう法則性がある、ということを踏まえておかないと、何を言っても説得力のない平和論にとどまりそうな気がしているだけです。
 この世界で起こっていることには、理解しずらいものもたくさんあるように思えますが、同じ人間である限り、理解できないことはないと思います。
そしてそのカギは、自分の日常生活にあるのではないかと私は思っています。自分の日常生活をよく観察してみること、そしてその中から「人間であること」の本質を探り出すこと、そういう作業が他民族を理解する出発点になるのではないかと思います。
 また、自国の文化、歴史をよく知っておくことも大事なことです。日本のことをよく知りたい、日本のことを直接日本人から聞いてみたい、そう思っている外国人にとっては、日本人と話す機会は絶好のチャンスなのですが、そのとき、十分に日本のことを語ることができなければ、その外国人はがっかりすることでしょう。
 それは私も同じです。多くのタイ人が日本語を勉強しており、留学経験のある人もたくさんいます。中には、日本人と全く変わらない流暢な発音で日本語を話す人もいます。しかし、話す内容がただの世間話、下らない内容ばかりだと、面白くありません。ネイティブに聞いてこそ、わかることもあるわけで、こちらとしては、タイ人ならでは見解、タイ人だからこそ知っているタイのことをいろいろと突っ込んで聞きたいわけです。
 それに対し、自国のことでありながらも、客観的事実、経緯、歴史も語れない、自分の意見も言えない、それだと「この人と話したい」という気持ちが一気になくなります。いくら流暢な日本語を話していても、結局は時間の無駄になります。逆に、多少、発音がおかしくても、文法的に正しくなくても、そういうことを語れる人とは、また会って話をしたいと思うものです。
 外国人と直接コミュニケーションをとる上でも、直接本を読む上でも、外国語の習得に励むのはもちろん、いいことですし、知識の幅が格段に広がるのも事実です。日本人以外の人と直接会話することで学べることもたくさんあります。しかし、「外国のこと」「外国語」ばかり考えている人は、本を読んでも文字を追うだけで、肝心の中身は消化しきれないものです。また、シンガポール大学の教授のように、高い教養を持った外国人の目には、魅力的に映らないものです。
 世界に出れば、日本にいるとき以上に日本についての知識が求められます。そしていろいろな出来事、歴史に対する自分なりの分析、明確な意見、哲学も同時に求められます。
 「国際化」が叫ばれて久しくなりますが、意味を履き違えると、ただの「外国かぶれ」になってしまいます。
 確かに日本人は英語ができないと言われており、コンプレックスを感じている日本人も多いようなのですが、英語ができないならできないで「私は英語ができない」と堂々と言い(開き直りではありませんよ)、その一方で通訳を介して、外国人を惹きつけられるだけの何かを語ることのできる人は、私が見た限り、尊敬されこそすれ、バカにされるようなことは絶対にありません。
 外国語ができない、ただそれだけの理由でバカにする外国人は、その程度の人間性しか持ち合わせていないのです。

オシン、ベリーグッド!
 สงครามชีวิต
 「ソンクラーム チーウィッ(ト)」と発音します。
 「ソンクラーム」は「戦争」、「チーウィッ(ト)」は「命」「人生」「生活」といった意味で、2つをつなげると、「人生の戦争」「命の戦争」「生活の戦争」となり、さしずめ「人生サバイバル」といったところでしょうか。
 これ、何かといいますと、「おしん」のサブタイトルに使われていた言葉です。
 ある日の夕方、ビールを飲みながらテレビを見ていると、「おしん」が放映されていました。まさにあの「おしん」です。昔、タイでも放映されていたことは知っていたのですが、何年も経って再放送とは、ちょっと驚きましたね。
 「おしん」はいろいろな国で放映されましたが、日本だけでなく、すべての国で大ヒットし、どこの国でも視聴率はかなり高かったそうです。日本も含め、「おしん」が最もヒットした国はどこか・・・意外に思われるかもしれませんが、おそらく、イランでしょう。その視聴率は、何と、90%を超えることもあったそうです。
 昔懐かしい「おしん」を見て、あることを思い出しました。今回は、いかにイランで「おしん」がヒットしていたか、その逸話をお話したいと思います。
 1990年6月12日、私はドゥバヤジットというトルコ最東端の町にいました。トルコ国内を一通り旅行し、明日、イランに入国しようというところでした。ドゥバヤジットから約30キロのところにイランとの国境はあり、国境のトルコ側はギュルブラックといいますが、ちょっとした雑貨屋があるぐらいの小さな村です。そしてイラン側はバザルカンといい、ここもやはり、ちょっとした雑貨屋があるぐらいの小さな村です。
 陸路で国境を越えるということは、ほとんどの方がご経験ないと思いますが、順序そのものは空路と全く同じで、まず、今いる国の出国審査を受けてパスポートに出国スタンプを押してもらいます。それから税関があるのですが、入国時に外貨申告を義務付けていたり、あるいは自国通貨など、持ち出し制限があるものを持っているような場合でなければ、そのまま通り過ぎても大丈夫です(国によっては荷物を検査しますが)。旅行者の場合、これから去ろうとしている国の通貨を持っていても意味がありませんから、入国時に外貨申告が義務付けられていない限り、税関に引っかかるようなことはありません。
 出国手続を済ますと、今度はこれから入国しようとする国の入国審査を受けることになります。出国した国とこれから入国しようとする国の出入国管理事務所、税関事務所がほとんど同一の場所にあるということもありますが、国境によっては中間地帯が広く、相当の距離を歩かなくてはならないこともあります。
 陸路の国境というのは、どこも人と物資が入り乱れており、騒然とした雰囲気です(私はこの雰囲気が好きですが)。長蛇の列になっていることが多く、根気よく、自分の順番が来るのを待つしかありません。
 ギュルブラックとバザルカンの国境は、4つのオフィスがやや離れているものでしたが、砂漠の中の国境だけあって、砂にまみれた遊牧民族と物資でごったがえしており、離れている4つのオフィスも人やトラックでつながっているような状況でした。
 朝一で国境に向かったにもかかわらず、すでに長蛇の列ができており、何時間待たされたかは記憶にありませんが、何とかトルコの出国スタンプを押してもらうことができました。
 さて、次はイランの入国審査、税関です。トルコを出国すれば、行き場はここしかなく、トルコ側で込んでいたのであれば、イラン側も込んでいるのは当たり前ですが、出国と入国では、その厳しさが違っており、どこの国でも入国のほうが断然厳しいですから、トルコ側以上に長蛇の列ができていました。時刻はもう昼近くです。腹も減ってきました。あと何時間待たなきゃいけないのかと思うと、もうそこで引き返したくなりました(実際、本当に引き返そうかと思いました)。
 そのとき、私の肘をつつく人がいます。誰?と振り向くと、オッサンがいます。オッサン、私に「パスポート」と言います。私がパスポートを渡すと、ついて来い、という素振りをします。え?というリアクションを示すと、そうだ、こっちに来い、という素振りをします。何だかわかりませんが、ついて行くと別室に入れられました。どうやらこのオッサン、入国管理の役人のようでした。
 普通、何も問題がなければ、別室に連れて行かれることはありませんから、急に不安が高まってきました。部屋に入ると、4、5人の役人がたむろしています。よってたかって何をしようというんだ、と不安がさらに高まってきたとき、私を部屋に連れてきたオッサンが振り向いて急ににっこり笑い、「オシン、ベリーグッド、オシン、オシン!」と言ってきます。他の役人もみんな「ヤーヤー、オシン、ベリーグッド!」とか言ってきます。私も仕方がないので「イエス、オシン、ベリーグッド!」なんて言って、彼らに合わせていると、役人の1人が私のパスポートに入国スタンプを押してくれました。
 「オシン、ベリーグッド」を連発するオッサンらに見送られ、約1キロ離れた税関に歩いて行くと、ここでも長蛇の列、しかし、前のほうから手招きをする役人がいるではありませんか!
 もしかしたら、と期待すると、期待に違わず、やはり別室に連れて行かれ、役人たちから「オシン、ベリーグッド!」と大歓迎されました。
 傍で見ていると、自国民、遊牧民族の荷物検査は厳しく、徹底的に調べております。それこそ、かばんを「ひっくり返す」というような感じで、徹底的に調べています。
 荷物検査のところには、没収品が山積みにされていたのですが、最も多かった没収品は、女性用のパンティでした。パンティといっても、普通のパンティではありません。超スケベなスケスケ、エロエロ、セクシーパンティです。大の大男がこんなものをイランに持ち帰ってどうしようというんでしょうか。嫁さんにはかせて気分転換でもしようというのでしょうか。あるいは頭にでもかぶるのでしょうか。そもそも、こんなものが没収の対象になるというのも、イランならではかもしれません。
 隣国のトルコは、イスラム国家とはいっても、こんなことは問題にしませんから、スケスケパンティもたくさん売られており、それを大量に買って、イランに持ち帰ろうとしたのでしょう。
 さて、そのように荷物検査は徹底的なものだったのですが、私の場合、全く調べられませんでした。何人かの役人に囲まれ、激しい「オシン、ベリーグッド!」攻撃を受け、さらには紅茶も出され、大歓迎の中で税関を通過しました。ケッサクな国境でしたね。こんな国境はかつてなかったですし、これからもないでしょう。
 その後、イラン国内を旅行したのですが、どこに行っても「オシン、オシン」で「おしん」のおかげで大歓迎されました。日本のテレビ局の方々も、ご自分たちが製作されたドラマが海外で日本人を救っていることなど、全くご存知ないと思いますが、本当にこのときばかりは、「おしん」を作ったテレビ局の方々に感謝したものです。
 本当かどうかはわかりませんが、あるとき、イランのテレビ局がイラン人男性に「理想の女性は?」というアンケート調査を行ったところ、「おしん」が圧倒的だったそうです。怒った政府がテレビ局の責任者を捕まえ、鞭打ちの刑に処したという話があるのですが、真偽のほどはわかりません。
 イランは戒律の厳しいイスラム国家ですから、「女性の鑑」は「ファーティマ」でなくてはなりません。ファーティマというのは、イスラム教の開祖ムハンマド(モハメット)の4女なのですが、生涯を社会奉仕に捧げた慈悲深い女性であったようで、今なおも「女性の鑑」「女性のお手本」として敬愛されています。
 モロッコやチュニジアなどのマグレブ諸国では、ドアの取っ手が手の形をしているのをよく見かけます。また、手の形をしたアクセサリー類もたくさんあるのですが、これは「ファーティマの手」と呼ばれるもので、お守り、魔よけとして、マグレブ諸国では広く使われています。
 鞭打ちの話が本当かどうかはともかくとしても、イランでのおしん人気は大変なものでした。
 中公新書ラクレから「世界の日本人ジョーク集」(早坂隆著)という興味深い書物が出版されているのですが、その中に以下のようなジョークが紹介されています。

●幸福論
「人生における最高の生活とは?」
「アメリカで給料をもらい、イギリスの住宅に住み、中国人のコックを雇い、日本人を妻にすることさ」
「では、最低の生活とは?」
「中国で給料をもらい、日本の住宅に住み、イギリス人のコックを雇い、アメリカ人を妻にすることさ」

 このジョークに対し、著者の早坂隆氏は、「前述のジョークは世界中でよく知られたもので、エスニックジョークの代表的な存在である。欧米はもちろん、アジアでも好んで楽しまれている有名なものだ。」というコメントを付け加えています。
 「おしん」があったからこのようなジョークができたわけでもないでしょうが、「おしん」が日本人女性のイメージ作りに一役買っていることは、間違いないでしょう。

押しつけか、教育か
 私は犬と猫を1匹ずつ飼っています。動物が好きな方であれば、同調していただけると思うのですが、「ペット」ではなく、もう「家族」ですよね。
 犬はパグで、生後1ヶ月のときに5,000バーツ(約12,000円)で買ってきました。猫のほうは、ただの野良猫だったのですが、やはり生後1ヶ月ぐらいのときに、道端で下半身を引きずってニャーニャー鳴いていたのを従業員が拾ってきました。何かの事故だと思うのですが、下半身がまるで動かず、アザラシのように、前足だけで体を引きずって移動します。
 動物病院に連れて行って検査をしたのですが、もはや回復の見込みはないとのこと、下半身が動かないだけならまだいいのですが、糞尿も自分では出せないので、朝晩、お腹を絞って出してあげないといけません。ところがこの猫、非常に凶暴で、動物病院に連れて行くと、どういうわけか、しおらしくなるのですが、普段は私以外の人間には、体を触らせようとしないので、もはや人に預けることもできません。知らない人が近づこうとすると、ウーウー、と低い呻き声をあげて威嚇します。さらに近づこうとすると、歯をむき出して、フーフー、と声を変えて威嚇してきます。ただでさえ、猫は警戒心が強いですから、体が自由に動かないとあっては、余計に警戒心が強くなるのでしょう。
 この猫で大変なのは、朝晩、糞尿を搾り出してあげないといけないことで、最初はそれをしませんでした。すると、顔がすっかり青ざめて、瀕死の状態になりました。慌てて動物病院に連れて行って治療したのですが、最初のころは、こういう障害を持った猫の扱い方がよくわからなかったので、頻繁に治療することになり、結局5万バーツぐらい(約12万円)の治療費をかけてしまいました。
 さて、そんなふうに動物病院にはよく行っているのですが、先日、狂犬病のワクチン接種で行った際、5S推進運動のポスターを発見しました。タイ語では「5ส」(ハー・ソー)といい、極めて文化的で、日本語ならではの表現と思われるにもかかわらず、きれいにタイ語に訳されています。
 タイ語は、子音と母音が組み合わさって発音を形成する言語で、基本的にはアルファベットと同じです。「S」の子音はいくつかあるのですが、その1つに「ส」というのがあり、これが5Sのタイ語訳に使われています。

สะสาง(=整理)
「ササーン」と発音します。「込み入った問題を処理する」とか「きれいにまとめる」といった意味です。

สะดวก(=整頓)
「サドゥアック」と発音します。「便利な」とか「都合がいい」といった意味です。仕事をやるのに便利なように、各種の物をきちんと片付けておくということです。

สะอาด(=清掃)
「サアート」と発音します。「清潔な」という意味です。職場が清潔であるようにするということです。

สขลักษณะ(=清潔)
「スッカラクサナ」と発音します。ちょっと堅い言葉で、口語ではあまり使わないのですが、「衛生学的に正しい状態にある」という意味です。

สร้างนิสัย(=躾)
「サーン ニサイ」と発音します。「サーン」(築く)と「ニサイ」(性格)という2つの単語がつながって「性格を築く=躾」ということになります。

 ここで注目したいのは、この動物病院は完全ローカルの企業であるということです(もっとも、動物病院でタイに進出する日系企業なんて、まずないでしょうけど)。日系の工場であれば、5Sのポスターは当たり前なのですが、完全ローカルの動物病院でこのようなものを掲示板に張り付けているというのは、いかに5Sが良き理念として、タイ社会に受け入れられているのかを示しているといえるでしょう。
 司馬遼太郎の著書に「アメリカ素描」というのがあるのですが、その中で、文明とは「合理的で斉一性があり、便利で快適なもの」、文化とは「不合理で斉一性がないもの」という定義付けをしていたような記憶があります。
 わかりやすくいえば、誰にでも通用するのが文明であり、特定の集団(民族など)でしか通用しないのが文化というわけです。アメリカは、人種のるつぼと言われているくらい、世界中の民族が集まっていますから、アメリカ国内で淘汰されたものは、即世界で通用する(全民族で通用する)という論理は、なるほどな、と思いました。
 日本人の習慣、文化をタイ人に押しつけるのはよくないと言われていますが、これは本当に難しい問題だと思います。
 5Sのように、極めて文化的と思える表現も、「S」の子音を使ってきれいにタイ語に訳されており、ローカル企業にも浸透しています。学校の試験問題に出されたこともあるそうです。つまり、5Sの理念は、タイ社会でも通用するということです。とすれば、5Sの推進は、文化的な「押しつけ」ではなく、文明的な「教育」といえるでしょう。
 これまでのタイは、日系企業にとって、単純な生産だけをすればいいというようなところがあったので、それほど質の高い人材は必要なかったかもしれません。しかし、これからは、そうはいかないでしょう。日本のいいところはどんどん輸入して、タイ人を鍛えていかないといけません。しかし、「いいところ」といっても、なかなか区別もつかないと思います。「文明」と思ったことでも通用しなかったり、逆に「文化」と思っていたことが意外に通用したり、他の民族には通用しなくても日本人とタイ人には通用したり、日本人と他の民族には通用してもタイ人には通用しなかったり、いろいろあると思います。5Sのように、本来、タイ社会にも通用することであっても、最初は「日本文化の押しつけ」という反発も出てくると思います。新しいことは、付いて来れる人もいるかもしれませんが、付いて来れない人のほうが圧倒的に多く、これは日本社会でも同じだと思います。
 押しつけはよくないかもしれませんが、教育は必要です。国内であれば世代間で、海外であれば民族間で、どうあっても、この2つの概念はぶつかり合わざるを得ないと思います。

製造業と請負業
 日本企業のタイ進出の動きが目立って活発になってきました。このまま日本にしがみついていても仕方ない、座して死を待つよりは・・・という思いなのかもしれません。
 とはいっても、ここはタイです。日本と同じように会社が設立できるわけではありません。基本中の基本として、まずは資本比率の問題があるのですが、タイの場合、外資が50%を超えていると、その法人は「外国人」となり、外国人事業法の規制を受けることになります。外国人事業法では、業種を第1類、第2類、第3類に分類しており、第1類は国家間の条約でもない限り、許可されることはありません。第2類は、商務大臣から許可を受ければ可能です。第3類は、商務省商業振興局長官から許可を受ければ可能です。つまり、第1類が最も厳しく、第3類が最も緩やかというわけです。しかし、「緩やか」といっても、簡単に許可されるわけではありません。「こういうことをやりたい」ということで申請書を出したところで、そんな申請は外国人の身勝手な要望にすぎませんので、許可されることはありません。何十枚もの申請書を提出し、自分たちがタイ国内でこういう事業を営むことにより、タイ経済、タイ社会にはこのようなメリットがある、ということを強くアピールする必要があります。自国にメリットをもたらさない外国人の就労を許可する意味など全くありませんので、ごく当たり前のことといえるでしょう。
 ただし、すべての業種が外国人事業法の規制を受けるわけではありません。たとえば、製造業は規制対象外となっていますので、外資50%超であっても、特に許可を受ける必要なく、そのまま操業することができます。
 しかし、これが「落とし穴」になることもよくあります。
 実際に持ち込まれたことのある相談なのですが、日本の企業がタイで操業している日系企業A社に投資することになり、デューデリジェンスを行いました。その際に、外資100%でありながらBOIから認可を受けていない、さらに外国人事業許可も取得していない、ということを指摘され、一体、どういうことなのか?ということで相談が持ち込まれました。
 A社の事業内容は、各種工場内設備の製造、据付なのですが、A社の理解は、製造業なのだから外国人事業法の規制は受けないはず、従って、特に許可を受けなくても、またBOIから認可を受けなくても、外資100%で通常のローカル企業と同様に操業できるはず、というものでした。
 「製造業は外国人事業法の規制を受けない」というのは事実ですが、タイにおける「製造業」というのは、日本人が考えている「製造業」とは、ちょっと概念が異なっています。わかりやすくいえば、全く同じものを大量に生産し、不特定多数の人に販売するのがタイにおける「製造業」で、お客さんからオーダーをもらい、そのオーダーのとおりに作ってお客さんに販売するのは、「請負業」であって、「製造業」ではありません。
 この概念の違いは十分注意されておいたほうがいいでしょう。仮にA社が自社独自の工場内設備を製造し、広く一般に販売しているのであれば、製造業となりますが、実際のところは、お客さんからオーダーをもらい、そのお客さんの要望にあわせて、その都度作っているわけですから、製造業ではなく、請負業となり、外資50%超で操業するには、BOIから認可を受けるか、外国人事業許可を受けなければなりません。
 この場合、できるだけ早くBOIの認可を受けるか、あるいは外国人事業許可を受けないといけないのですが、それだけでなく、操業を開始した日から現在までの期間に従って、罰金を納めないといけません。
 以上のように製造業だから大丈夫、という思い込みは危険です。確かに製造業であれば、規制対象外ではあるのですが、問題は、自社の事業内容が製造業のカテゴリーに入るのかどうなのかということです。今の時代は商流も多様化してきていますので、単純に判断できない場合もあると思います。
 たとえば、自動車部品の製造は、みなさん、どう思われますか?特定の企業からの要望にあわせて生産しますが、全く同じものを大量に生産します。その部品の納入先は、特定の企業であり、その企業からお金をもらっていますが、最終的には、不特定多数の一般国民に販売しています。これは製造業、請負業、どちらになると思われますか?
 製造業をはじめ、外国人事業法規制対象外の業種は、外資50%超であっても許可を取る必要などなく、そのままの状態で営業することはできます。しかし、本当に自社の事業内容が規制対象外なのかということは、事前にしっかり確認されておくほうがいいでしょう。自社の事業内容を資料化し、それを商務省に提出するだけですから、それほど労力がかかるわけでもありません。商務省が、製造業だからそのまま営業してもいいですよ、許可は必要ありませんよ、という判断を示せばそれでいいですし、この部分がこういう流れになっていないと製造業とはされない、と言ってくれば、その部分を是正するか、BOIの認可を取るか、外国人事業許可を取るか、タイ資本を51%以上入れるか、4つの選択肢の中から自社にとって最適な方法を選べばいいわけです。商務省の審査を受けることは、特に義務付けられているわけではなく、全くの任意なのですが、製造業だと思っていたのが請負業だったりすると後で大変なことになりますから、後日のトラブルを避けるためにも、勝手な思い込みはせず、事前に商務省の審査を受けておいたほうがよいでしょう。
 最初にちょっとした労力を惜しんだばかりに、あとで大きな問題になることは、よくあることですから。